Little Red Riding Hood
四章「メルスケルク」『凱旋』
「た、魂消たぁ‥‥まさかたった投げナイフ一本であのラシュール帝国の騎兵隊(中隊)に打ち勝つだなんて‥‥あのお嬢ちゃん、ただもんじゃねぇ‥‥」
「‥‥おじさん。何そこで寝っ転がってんの?  馬鹿なの死ぬの?  今だったらもれなく私が殺処分してあげるけど。」
「ひ、ヒィ!!お助けぇ‥‥!!」
「‥‥まあいいわ。おじさん、早くそこ(客車)から出てきてよ。全身血塗れだけど大丈夫?  全身にピータンでも塗りたくったの?」
「いやぁ‥‥それが‥‥これ全部君が『殺った』んだよね?」
「‥‥‥」
雪原に横たわる客車、その周辺に胡麻塩の様に点在するラシュール帝国の兵士の死体。
彼女はその様な惨劇に対し、まったく見向きもせずにミントンに手を差し伸べた。
「ほら、私が手を貸すから。早く出てきてよ。怯える猫でもあるまいし」
外界から差し伸べられる一本の陶器の様に滑らかな手。
ミントンは少しばかり抵抗を持ちながらもその手を掴み、血腥い悲壮感漂う客車から脱出した。
「そのセーターはもう駄目ね。苺ジャムみたいな小汚い血がべっとり付いてるわ。おじさんもうそれ脱いじゃってよ。後で私が新しい奴買ってあげるから。」
ミントンは多少、戸惑いながらもその血塗れのセーターをふかふかの雪原の上に捨てた。
「うう寒い‥‥。お嬢ちゃん、ところでこの『後始末』はどうするんでぇ?  やはり無難に警察を呼んだ方が‥‥」
しかし、赤ずきんは首を横に振り、ミントンの考えを真っ向から否定した。
「そんな事したら駄目よ。もし警察に伝えたらまず私達が真っ先に殺人罪として『イヌ(警察)』に捕まるわ。下手したら極刑ものよ」
「じゃあどうすれば‥‥」
「行くわよ」
「へ?」
「世の中には知らない方が良い事が沢山あるでしょ。私達もその考えに肖って、無知を装う、いや、貫き通すのよ」
「お嬢ちゃんそれって詰まり‥‥」
動揺するミントンを他所に、赤ずきんは赤茶色く錆び付いた線路上を辿りながらトコトコと歩き始めた。
「メルスケルクまであと十数分程と言ったわね。このくらいの距離だったら徒歩でも大して支障は無い筈。おじさん、早く行くわよ。そんな所で突っ立ってたら後続列車に轢かれてミンチになるわよ」
「あ、あいぃ!」
一人道行く赤ずきん。
その後を行くミントン。
彼等が再び歩み始めると、天からはそれを優しく見守るかの様にほろほろと粉雪が舞い、降ってきた。
それは彼女の過去の情景を純白に染めるかの様に‥‥
暫く歩くと遠方の地平線上に煉瓦造りの立派なアーチが見えてきた。
[メルスケルク]
そう記された看板がアーチの中央に備え付けられている。
「お、見えてきたな。お嬢ちゃん、あともう少しで到着だ。本当は日帰りの予定だったがもう汽車は使えない。帰りは馬車にでも乗って帰ろう」
「そうするわ」
赤ずきんの同意を得ると、ミントンはニコリと笑い、両腕を掲げ、こう叫んだ。
「ラシュール帝国の襲撃を食い止められたのも、こんな新鮮な体験をさせてくれたのも、全てお嬢ちゃんの手柄だ!今度は俺がお嬢ちゃんを愉しませる番だ!このままメルスケルクに凱旋だ!ワッハッハ!!」
「貴方と居ても私は別に何も楽しくないけどね」
「あ、あはは‥‥」
揚げ足を取られるミントンであった。
【続く】
「‥‥おじさん。何そこで寝っ転がってんの?  馬鹿なの死ぬの?  今だったらもれなく私が殺処分してあげるけど。」
「ひ、ヒィ!!お助けぇ‥‥!!」
「‥‥まあいいわ。おじさん、早くそこ(客車)から出てきてよ。全身血塗れだけど大丈夫?  全身にピータンでも塗りたくったの?」
「いやぁ‥‥それが‥‥これ全部君が『殺った』んだよね?」
「‥‥‥」
雪原に横たわる客車、その周辺に胡麻塩の様に点在するラシュール帝国の兵士の死体。
彼女はその様な惨劇に対し、まったく見向きもせずにミントンに手を差し伸べた。
「ほら、私が手を貸すから。早く出てきてよ。怯える猫でもあるまいし」
外界から差し伸べられる一本の陶器の様に滑らかな手。
ミントンは少しばかり抵抗を持ちながらもその手を掴み、血腥い悲壮感漂う客車から脱出した。
「そのセーターはもう駄目ね。苺ジャムみたいな小汚い血がべっとり付いてるわ。おじさんもうそれ脱いじゃってよ。後で私が新しい奴買ってあげるから。」
ミントンは多少、戸惑いながらもその血塗れのセーターをふかふかの雪原の上に捨てた。
「うう寒い‥‥。お嬢ちゃん、ところでこの『後始末』はどうするんでぇ?  やはり無難に警察を呼んだ方が‥‥」
しかし、赤ずきんは首を横に振り、ミントンの考えを真っ向から否定した。
「そんな事したら駄目よ。もし警察に伝えたらまず私達が真っ先に殺人罪として『イヌ(警察)』に捕まるわ。下手したら極刑ものよ」
「じゃあどうすれば‥‥」
「行くわよ」
「へ?」
「世の中には知らない方が良い事が沢山あるでしょ。私達もその考えに肖って、無知を装う、いや、貫き通すのよ」
「お嬢ちゃんそれって詰まり‥‥」
動揺するミントンを他所に、赤ずきんは赤茶色く錆び付いた線路上を辿りながらトコトコと歩き始めた。
「メルスケルクまであと十数分程と言ったわね。このくらいの距離だったら徒歩でも大して支障は無い筈。おじさん、早く行くわよ。そんな所で突っ立ってたら後続列車に轢かれてミンチになるわよ」
「あ、あいぃ!」
一人道行く赤ずきん。
その後を行くミントン。
彼等が再び歩み始めると、天からはそれを優しく見守るかの様にほろほろと粉雪が舞い、降ってきた。
それは彼女の過去の情景を純白に染めるかの様に‥‥
暫く歩くと遠方の地平線上に煉瓦造りの立派なアーチが見えてきた。
[メルスケルク]
そう記された看板がアーチの中央に備え付けられている。
「お、見えてきたな。お嬢ちゃん、あともう少しで到着だ。本当は日帰りの予定だったがもう汽車は使えない。帰りは馬車にでも乗って帰ろう」
「そうするわ」
赤ずきんの同意を得ると、ミントンはニコリと笑い、両腕を掲げ、こう叫んだ。
「ラシュール帝国の襲撃を食い止められたのも、こんな新鮮な体験をさせてくれたのも、全てお嬢ちゃんの手柄だ!今度は俺がお嬢ちゃんを愉しませる番だ!このままメルスケルクに凱旋だ!ワッハッハ!!」
「貴方と居ても私は別に何も楽しくないけどね」
「あ、あはは‥‥」
揚げ足を取られるミントンであった。
【続く】
コメント