Little Red Riding Hood

闇狐

三章「赤ずきんの家(2)」

暖炉に灯る炎が三人の身体を照らしだす中、赤ずきんは一人、揺れ椅子に腰掛けながらミントンにこう問い掛けた。

「ねえおじさん。貴方、あの林檎畑付近にあった立て看板について何か知ってる?」

「ああ、あれは正しく俺が設置した看板だ。それがどうしたんだい?」

「どうしたんだいって‥‥死体よ死体!  貴方、あの死体についてなんも知らないの!?」

ミントンは例の林檎畑で採った林檎を齧りながら赤ずきんに対し不思議そうな表情を浮かべた。

「死体‥‥?  一体何の事だ?  俺はそんなもん知らねえよ」

「え、でもあれは確かに死体だった筈‥‥」

「お嬢ちゃん、あんた何かを見間違えたんじゃないか?  俺がその林檎畑に入った時にはそんなもんは無かったぜ?」

「えっ‥‥」

赤ずきんは非常に困惑した。
頬から冷や汗が流れる程であった。

「そ、そう‥‥じゃあ次。そもそも貴方本当に彼処の経営者なの?  経営者なら何で畑の手入れの一つもしないの?」

ミントンは苦笑いを浮かべた。

「いやぁ‥‥俺だって結構忙しいんだよね。こう見えて色んな副業を掛け持ちしているし‥‥。例えば帽子屋とか‥‥」

「ふーん‥‥て事は貴方が今被ってるそのハウンチング帽‥‥詰まる所貴方のお手製って訳ね?」

「そうそう。それも十年以上被ってるから、かなり愛執漂っているぜ?」

赤ずきんは眉間にシワを寄せて軽蔑の意を表した。

「やだ臭そう‥‥」

するとミントンは子供の様なあどけない笑みを顔一杯に浮かべた。

「そりゃあアンタ、俺だってもう四十越えのおっさんだぜ?  加齢臭が漂っていてもおかしくないよ」

「おやおやお二人さん、そんなに会話に花を咲かせちゃって。何やら楽しそうね」

お婆さんは軽く笑みを浮かべながらテーブルに置いてある三つのマグカップにホットミルクを注ぎ込んだ。
湯気が三人の表情を包み込む。

「そうだお嬢ちゃん。明日、メルスケルクの街に行ってみないか?  距離は此処からちぃーっとあるが、色んな店があって楽しいぜ?」

赤ずきんは再び顔を顰め、少しの間黙考した。

「嫌よ、だって私だって狩りの仕事があるし‥‥況してや私が居なくなったらお婆さんだって生活面できっと困るわ。」

「そうか‥‥」

「良いわよ赤ずきん。行ってきなさい」

その寛大な声には誰もが驚いた事であろう。

「えっ、でも私‥‥」

「私は一人でも大丈夫だから‥‥それに、たった一日の旅路じゃない。きっと良い思い出になるわ」

「お婆さん‥‥」

「ほら、彼女もそう言ってるんだし、な?」

「えっ、あ、うん‥‥」

赤ずきんは静かにコクリと頷いた。

「あ、お婆さん今日は此処に泊まっても良いですかい?」

「うふふ‥‥良いわよ」

「そりゃあどうも!」

こうして赤ずきんとミントンの小旅行が決行した。
次回、メルスケルクへ。

『赤ずきんの家』【完】

【続く】

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