女であり男でもある私は復讐をしていきます

わたぱち

20話 復讐 ver.シャルル


宙に浮き、そして落ちてくる短剣。

目を見開き悔しそうな顔をするシャルルと私の前に立ってシャルルを睨んでいるディルク。
静寂に包まれている会場。

そして、その沈黙を破ったのは彼だった。

「シャルル・ストレイア男爵令嬢殿、貴女は我らインディゴ王国からの留学生のリリアーナ嬢、つまりニヶ国の友好の証に刃を向けた。その意味がお分かりか?」

ディルクは氷の刃をシャルルに向けながら冷たくそう言い放つ。
その底冷えするような声は向けられている対象が自分でないと分かっていても、鳥肌が立ってしまう程だった。

「…我は精霊に愛されしもの、その輝きを我に託せ」

それでも怯むことなく詠唱をシャルルは始める。
ディルクは再び私に攻撃をしてくると踏んだのか軽く舌打ちをしながら私を抱きすくめ防御魔法を展開した。

瞬間、周りに木々が生えてくる。一瞬で育っていく木たちに周りが目を取られている時にシャルルはどこかへ走っていった。
それを見ていたディルクが氷の剣を水蒸気に戻し、詠唱を始める。

「…我は氷の悪魔との契約者、その血より濃い盟約に従い汝の力を分けろ。…凍結せよ、結合せよ」

低い声でそうディルクが言った。
すると成長を続けてシャルルを追うのを邪魔していた植物が一瞬で凍りつく。
そしてその冷気は辺りに広まって温度がガクッと下がる。初夏でありながら震えるほどだ。
露出している肌を手で覆う人が増えていく。

「自壊せよ」

その言葉が冷え切った会場に響くと同時に凍りついていた木々が破れてなくなった。
キラキラと氷の結晶が降り注ぐ。今思うには相応しくないだろうが、幻想的でそれはとても美しかった。

「近衛騎士、彼女を追ってくれ」

口を開けて混乱し、何の行動もしないアルザックとは違いディルクに変わりクロードがそう騎士に命令する。
唖然としていた騎士がハッとし、アルザックのことを気にしながら出ていった。

「リリア、一旦戻ろう」

殺人を犯そうとしていた犯人がその場からいなくなった安心感からか騒ぎ始めた周り。
それを気にしてかディルクが優しく声をかけてくる。

「ええ、申し訳ありません」

魔法陣を解除すると何かの酔いが取れたように気分が悪くなった。超級魔法は初めて使ったが、思っていた以上に体力と魔力を吸い取られる。
強烈な吐き気が襲ってきた為、口元を抑えるとディルクが優しく背中を撫でてくれた。
先ほどの魔法のせいか冷んやりとしたその手は今はとてもありがたい。
けれどこの姿を周りの生徒には見せたくないので早歩きで休憩室に向かった。

休憩室に着き、ディルクに礼を言ってから扉を開け入る。
そこにはテトラと髪の短い綺麗な女性がいた。

「流石はテトラですね、とても綺麗ですわ」

「 …なぜ僕が女装をしなければいけないのかな」

くるりとこちらを向いた女性は私の友人にとても似ている。勿論、同一人物だからなのだが。

「あら、総合テストの賭けで復讐に協力すると言っていらしたでしょう?ガル様」

そう。彼女、いや彼はガルデなのだ。
つまり、彼が今日夜会にいなかったのはテトラに彼の化粧やらをお願いして色々されていたからなのだ。

もともと可愛らしい顔立ちに男子にしては少し低めと言える身長のガルデは、テトラの技術でもはや完璧な令嬢となっていた。
声が低いのが難点だが喋らなければバレないだろう。

「…お似合いですよ、ふふっ」

「なんで笑いながら言うかな?」

なんかいってるガルデは置いといて、目を瞑り身体中に魔力を回していく。
その感覚を感じながら目をゆっくり開けるとリリアーナより背の高いガルデが小さく感じれた。

「テトラ、服を頼む」

ライルになったので早々に着替えを要求し、服を脱ぎ始めた。その一言だけでテトラは俺の着替えの手伝いを始める。
その様子を見てガルデが女子のように思いっきり目をそらした。
女装しているとはいえ男同士なのに、何がダメなんだ。

「…なんでそっち向いてるの」

「うっさい!なんで着替えるんだよ!そこで!」

本当に女子みたいだ。
手で顔を覆っているところとががもう。

「流石にピンクの服着てる男はないだろう、気色が悪い」

「それはそうだけど…」とブツブツ小さな声で文句を言っている。
それを無視して黙々と着替えた。
新しく新調した黒と紺のシュッとしたタキシードに身を包む。

「終わったよ、ちょっとこっち来て」

「はいはい」

数分待たせたせいもあり、めんどくさそうにぼやきながらガルデが近づいてきた。
直ぐそこまで来てピタッと止まったのでこちらもめんどくさくなり、女装男子を抱きしめる。

「テトラ、行ってくる」

「行ってらっしゃいませ、刺されないようにお気をつけて」

困惑しながら女子みたいに顔を赤くさせているガルデを強く抱きしめながら転移魔法を発動させる。
シャルルとの待ち合わせの場所と今立っている場所との座標を計算し、頭の中で組み合わせていた。

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「…突然なんの前触れもなく転移しないでくれない!?」

怒りながら睨んでくるが顔がとにかく可愛いのでそれすらも無意味になっている。

「あら、化粧や髪型を崩さないようには気をつけましたわよ」

そう笑顔で返したら明らかに顔をしかめられるた。

「女言葉気持ち悪、桃色の服よりダメじゃないの」

無意識だった。
確かに大の男が女言葉とか冗談でまとめられないほど気持ちの悪い。

「…それより、早く行こうか。…軽いね」

明らかに適当に話をそらしたことか、体重のことを口にしたことか、ずっとお姫様抱っこをしていることのどれかが気に障ったのか思いっきり舌打ちをされた。

「どこ向かってるの、お姫様抱っこされてるこっちの身にもなってよ」

「もうそろそろだから、」

座標が少しずれたのか、待ち合わせの場所から外れた路地裏に転移していた。
だから少し歩かなければいけないのだ。
まあ、その方が色々と都合がいいから良かったといえば良かったのだが。

「…あっ、ここからは喋らないで」

目的の人物を見つけたのでガルデの顔を見られないように顔を自分の体側に向ける。
これで、茶髪のショートカットの女の子にしか見えないはずだ。

路地裏を抜けると、噴水が中心にある綺麗な広場が広がる。夜のため王都なのに人気のないここに、たった1人ドレスを着たシャルルが立っていた。
下手したら戦争になるかもしれないという行為をしたにも関わらずワクワクしながら待っているように見える彼女がとてつもなく馬鹿らしく見えてくる。

「疲れたでしょ?そろそろ家に着くから」

なので、俺はわざとシャルルに聞こえるような声でガルデに話しかけた。
それに気がついたシャルルが嬉しそうな顔をしたこちらを見るが、それはほんの一瞬ですぐに表情が固まった。

それを見て、そのまま立ち去るふりをした俺の服がぎゅっと引っ張られた。
その方向に顔を向けると案の定、シャルルがいる。

「誰?その女」

そのシャルルは睨みながらそう言った。

「…婚約者だけど。君、誰?」

そう口にした瞬間、シャルルの目元がさらに厳しくなる。

「先週、夜会で会ったでしょう!?今日言う通りしてきたのよ!?」

早口で詰め寄ってきたので、少し後ずさりしながら考えて思い出したかのような顔をした。

「ああ、あれか。…本気にしてたの?」

その顔に合うように、間抜けな声でそう答える。
それと同時にシャルルの顔は驚きと絶望で染まっていった。

「…え?」 

「…え…本当にやったの?…めんどくさ」
 
「…なんで?!ずっと一緒にいようっていってくれたじゃない!だから、私…」

途中でその話を遮り、俺が口開いた。

「出会ったばかりの相手と婚約とかあり得ないでしょ、何勘違いしてるの。それに君、似たようなこといろんな人にやってるようだったし」

今度は、こちらがシャルルを睨んだ。

「僕の婚約者も怖がるから、もういいかい?」

そのまま唖然と口を開けているシャルルを確認してから後ろを向き歩き始める。
今、気を緩めたら笑いが止まらなくなりそうなので必死に唇を噛みながら歩みを進めた。

「…酷い奴」

「君もだろ」

ガルデの小さなつぶやきに小さく返す。
顔を近づけて何かを話している2人を見せつけられているであろうシャルルの心境を考えただけで満足感がやけに気分を高揚させた。

しかし、その考えは微かだが確かな殺気を帯びた魔力を感じたので消えていった。

「…我は神々に忠誠を誓った者。主君の永遠なる力を一時、我に授けたまえ」

足を止め、彼女の方を向くのと同時にこれまた超級防御魔法を発動させるための詠唱をシャルルに聞こえないような小声で言う。
全く、二回連続で超級魔法は体力と魔力にくるのでやめてもらいたいものだ。
心の中でため息をつきながら詠唱を終えると完璧に魔法が発動し、足元に青色の魔法陣がうっすらと浮き出ててくる。

「全てを消し去り、全てを裁く精霊の輝きを!放て!」

それと同時に、シャルルの高位精霊に加護された者のみが使用できる魔法が発動し始めた。
目がくらみそう程の眩い光がいくつも出現し、ガルデと俺を取り囲む。

「やばいって!死ぬって!ねえっ!」

声を出すなっていってたのに混乱して叫ぶガルデの口を手で塞ぐ。その動作をしている間にも光の輝きが増していった。
高位精霊の絶対審判魔法。天災級の代物でこれを喰らったら優秀な魔導師でも瀕死状態になるのは確実だろう。
それより上をいく魔力を持っていなければ、の話だが。

「はははっ!私を騙した罰よ!恋人諸共死んじゃえ!ざまぁみろ!」

自分のこの魔法を絶対に防げないとおもったいるのか完全に調子に乗っている。
まあ、これはこれで後が面白いのだが。

「…随分と愚かだな、たかが精霊に加護された低級貴族の分際で」

完璧に精神が崩壊して笑っているシャルルに嘲笑うようにそう言った。

「ははっ……え、なんで、…なんで生きてんの」

笑いが消え、表情が一気に硬くなったシャルルを冷たく睨む。

「…なんで、なんで無傷なの!?!」

あり得ないとでも言いたげな目で此方を見て来る。

「彼女に傷でもできたらどうするつもりなの?」

ずっと抱いていたガルデを丁寧に顔が見られないようゆ下ろし、魔力をわかりやすく放った。

そのままシャルルにゆっくりと無表情で近づいていくと、泣きながら情けない悲鳴をあげ、ゆっくりと後ろに後ずさりしていった。そして、終いには体の力が抜けたかのように地面に座り込んでしまう。

「さて、どうしよっか?」

ころっと表情を変えて笑いながらシャルルの目線に合わせてしゃがむ。

「いや、…やめて…許して…」

すると震える声でそう祈願して来るのだ。
許すわけ、ないじゃないか。

無言を決め込んで手のひらを彼女の方に向け、魔力を流し込む。

「…ひっ」

小さく縮こまり、震えながら目を瞑るシャルルに向けてある魔法を使用した。
ディルク程ではないがヒンヤリとする冷気が広場内に広がり、噴水の水が凍りつく。

「え…」


「命があるだけ、彼女よりマシだろ」


シャルルの足と手を地面と氷で繋げてそこから一歩も動けないようにしたのだ。

手と足を拘束されて、地面にひたいをつけて許しを請うかのようなその滑稽な姿。
そのままガタガタと震えているシャルルの姿が、ひどく愉快に思える。

私の性格なんて、歪みまくっているだろう。

少しの罪悪感もなく、その姿を嘲笑っているのだから。


コメント

  • 弓削鈴音

    更新お疲れ様です!
    シャルルへの復讐、かっこよかったです!
    あと、ガルデの女装面白いですw
    これからも頑張ってください!

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