女であり男でもある私は復讐をしていきます

わたぱち

6話 探していた人


今回はディルク目線です!





「…今なんて言った?」


俺の幼馴染であり側近のエッテリオの知らせを聞いて、驚愕した。

昨夜に1年のみ参加できる学園祭が行われている。それは知っていた。
しかしそこでシトラルが断罪され、婚約破棄とともに今日死の森追放となる。と聞いて。


ディルク・ソレイユ・デュラハント
スティーア帝国が在り続けられるのは彼のおかげというほど戦争で数々の戦歴を残し、英雄と称えられている現魔法騎士団団長のウォールド。それと、スティーア帝国の元第三王女のカナレア。
その間に生まれた一人息子。
それが俺、ディルクだ。

その家柄のせいか、物心ついた頃から寄ってくる女は後を立たなかった。
騒がしいしうるさいし、金と顔しか頭にないそいつらはとにかく嫌いだった。
父は母と恋愛結婚をし、大層幸せそうだったが自分にはそんな出会いは起きないだろうと思っていた。

しかしエルデの国立魔術学園に留学をした時、出会ったのだ。シトラに。
王太子妃でありながらそのことを鼻にかけず、平民の生徒とも公平に接し、勉学や魔術に励む姿は誰よりも美しかった。
実際、優しく明るく自分に厳しく。
その姿にどんどん惹かれていった。
しかし、彼女は王太子妃。あんなバカとは不安だが仮にも王族の許嫁を略奪するわけにもいかなかった。
手を引こうと決めていた。

ただ、もし婚約破棄なんてことがあれば攫ってしまおうとも密かに思っていた。


しかし、何故今なんだ。


「どうなさいますか、ディルク様」
「フィーを準備してくれ、今すぐ出る」

父さん達に呼び出された日になぜ決まってしまうんだ。心から思った。

急いで騎士服を着て、愛馬のフィーの元へ向かう。
着くと、フィーはこちらに頭を寄せてきたので軽く撫でて乗り込む。
それから、フィーを飛ばし、死の森へ一直線に向かった。


愛してやまない彼女の元へ。

ーーーーーーーーーーーーー

必死に魔の森へ向かう。
入り口まで行き、フィーを付近にあった宿へ預ける。
そこからは走りでシトラを探した。

數十分経った頃だろうか。
元々乗馬で減った体力が限界寸前になった時、馬車が通っているを見かけた。
しかもその馬車はエルデの騎士団のもので、入り口に向かっている。

それを見て、すぐに馬車と反対方向に進む。
生きているかもわからないしもういないかもしれない。
もういないなんて考えただけで今まで味わったことのない恐怖を覚えた。
でも、可能性がある限り、諦められなかった。
なんとしてでも、見つけ出す。


「ーーーーーーーっ!?」


自分のものではない声を押し殺した悲痛な叫びが聞こえてくる。
本当だそれを聞いた瞬間、体がぞっと震えた。

彼女の声だ。

その声が聞こえた方向へ疲れていたことも忘れて走り出す。

そしてあと数メートルの所で、その足は止まった。
淡いオレンジの髪も白の質素なワンピース赤く染まっている。

血の海の中心にいる彼女の周りには今にも飛びかかりそうな十数体の魔物達。

その時ほど、殺意が感情を支配したことはなかっただろう。
気がついたら彼女を襲いかかっていた魔物を剣を魔法で威力を増させてから切り裂き、本当に気づいたらもう周りには彼女以外残っていなかった。

剣を鞘に収め、後ろを振り返る。
その瞬間、眼中に広がった光景に目を見張った。
その血だらけ、傷だらけの彼女は想像以上に酷い状態だった。
涙でぐちゃぐちゃな顔は見ていて胸が切り裂けそうなほどだった。

「シトラ!!」

悲しみと怒りが溢れた喉を振り絞って声を出した。

「ディルク…」

そう答えた彼女の元にすぐに駆け寄って、酷い傷口を抑える。
「しっかりしろ!」

「なんで…ここに…いるの…」

か弱い声で彼女はそういった。

「親に呼ばれスティーアに戻っていた時お前の噂を聞いてすぐに戻ってきた。しかしもう追放されたと聞いて馬でここまできてお前を探していた」

焦りで少し早口になる。
シトラの体を見ると、無数のアザや切り傷がある。
そして、一番ひどいのは足の刺し傷だ。

「あの馬鹿どもか…」

魔物だったら真っ先に急所を狙う。
ごく稀に痛ぶってくる魔物もいるが、今討伐したなかでは見なかった。

あいつらがやったのか。

その瞬間、あいつらと自分への怒りが激しい波の様に全身に広がった。
殺意に飲み込まれ、あたりを凍りつかせそうになっている時、彼女の手が俺の頬を触れた。
力なく震えていて、無性に泣きたくなった。

その手をたどって下を見るとシトラと目が合う。

涙まみれな淡いアイオライトの瞳は、美しかった。


「…俺はお前に言わなければいけないことがある」

怒りはまだあるが、まだ伝えたいことを伝えたい人に伝えていない。 

もう、誰のものでもないのだから。

シトラから流れ出た血はあたりを赤く染めあげている。

これは助からない。
シトラの目からはだんだん光は無くなってきていた。
もう、会えなくなるのなら。

お前を俺のものにしたかった。


「お前のことを愛してる」


せめて、これだけは言わせてほしい。
両思いでなくてもいいから、想わせてほしい。

これからも。


「私も…愛しているわ…」


返ってきた言葉に目を見開いた。
顔は無理をして笑っていて、今にも失ってしまいそうだった。

なんで、最後にしか伝えられなかったのだろう。


「生まれ変わったら…もう1回見つけて…くれる?」


生まれ変わりや神なんて信じてない。
だけど、今は心から願った。助けてくれ、と。


「当たり前だ……だから…行かないでくれ…」


そう、言い終わる前にシトラは安心した様に目を閉じた。
深い夜空の様なスミレ色の瞳はもう見ることができないのか。

「シトラ…」

どれだけそう呼んでも、彼女は目を開けなかった。

穏やかな笑みを浮かべて、眠っている様な彼女の体はどんどん冷えていく。

静かに頬に雫が伝った。

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