(自称)小説家が異世界召喚されて勇者として無双するかと思いきや商売とバイトでしか無双出来ていません!

平涼

獣人のアルバイトと真剣勝負

 勝敗は呆気なく俺の勝ちだった。それもそうだろう。俺は小説を書きながらもバイトだけは続けていたのだから。

 「......もう一回」

 「お前が負けを認めるまで続けてやるよ」

 それから何戦したか分からない程戦ったが俺の勝ち。だが最後のはきつかった。危うく負ける所だった。

 やっぱ慣れだよな。こいつ前から飲食店のバイトしていたのかは分からないけど、手際がもの凄く良い。だからこそ勿体なくもある。

 「ねえ、シルミ。もうバイトの時間終わりよ?」

 「.....まだです。今日はまだやります」

 ここまで負けず嫌いも中々いないな。

 「はあ。今日はここまでだ」

 「何でですか!私が負けを認めるまでやってくれるって言ったじゃないですか!」

 マジでか。あれを本気にしてたのかよ。カッコつけて言っただけなんですけど。

 「考えてもみろよ。もう夜だぞ?この街が平和だとしても危険が無いかは分からないんだ。諦めろ」

 俺の言葉が正論で言い返せないのか悔しそうな顔をして、

 「.......分かりました」

 あからさまに落ち込んで帰ろうとしていた。

 .......何だか俺が悪い事したみたいじゃないか!

 しょうがないだろう。だって俺が勇気振り絞って話しかけたら口より手を動かせとか言ってくるんだよ?腹が立ちますよね?

 俺誰に言い訳してんだよ。

 「はあ。......おい。あれだ。まだ勝負はついてないだろ?だから明日やるぞ?」

 「.......え?もちろんです!」

 一瞬俺の言った事が理解できなかったのかもしれないがすぐに理解して笑顔になった。

 それとこれだけは言っておかなければならない。

 「話しながらやるのも楽しそうだろ?」

 「......さあ。どうなんでしょうかね」

 可愛い顔出来るじゃないか。

 シルミはいたずらっぽい顔を最後に見せて帰って行った。

 だがこれで少しでもシルミが変われればいいだろう。飲食店のバイトとは基本料理人とのコミュニケーションが必要なのは当たり前だ。そうではないと、話しづらい人だと中々意思疎通が出来ない。

 俺が昔の事を思い出しているとベラが、

 「あなた本当に明日からも来るの?私としては大助かりだけど」

 そう。そこなんだよな。はっきり言えば俺はもう働く必要も無いのに行く意味が無いのだ。

 勢いであんな事言ってしまったからな。

 「そうだ。お前のゴーレムで俺を作って誤魔化してくれないか?」

 「あんた本当にそれは最低よ!?」

 しょうがないじゃないか。

 最終的には明日の事は明日考えることになった。

 俺はもう店はおしまいだから戻ることに決定して皆の元に向かうと、

 「あなた、中々やるわね!」

 「そちらこそ!」

 そこではリザとバイトを終えたホールの獣人が飲み比べをしたり、アイナ、シャルと獣人の子が仲良く談笑していた。

 ミリアはそんな事はお構いなしでご飯を食べている様子だった。

 .......あれ?俺ってもしかしてここに残ってた方が良かったんじゃ。

 そう思わずにはいられませんでした。

 そして俺は自分の席に座ると、ご飯が用意されていてそれに加え、シャルの目の前にある料理が何も手が付けられていない事が分かった。

 「おいシャル。何でお前食べてないんだ?」

 「......光也が一人で食べたら寂しいかと思ったから待ってたのよ」

 「......シャル。お前ってやつは。よし!盛大に食べようぜ!」

 俺はシャルの気遣いに心を安らぎ、そしてすっかり明日バイトすることなど忘れてしまったのだった。

 だが、俺はあのメイドのシルミを今はまだ甘く見ていたのだ。

 .......まさかあそこまでするとは思わなかった。

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