異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

不可解、そして憶測

 
「......では何故そんな相手に小僧は本物の剣ではなく、あんな不格好で不出来の氷を使っているのだ?」
「......あちらはもっと分かりませんが、単純に能力に自信があるのか、何かを狙っているのかと......それとサヘル様、少年の動きをご覧下さい」

 解説役の騎士に促されて、小僧の動きに注目する。
 自身が言った通りであるなら、小僧は目がしばしの間見えていない相手と交戦している訳だ。
 先程の説明でモリアの動きを注視してみれば、確かに槍の先が微妙に急所や小僧の身体から外れている事が多い。
 それを補うためなのか払いや少しだけ挟まれる蹴り技が突きより多い。
 そしてそんな攻撃を氷の剣で受けるだけの小僧。
 普通に観ているだけならば、防戦一方にしか見えない。

「何か気がつかれませんか?」
「......壊れる回数が減っている?」
「......はい。先程まで二、三回受ければ壊れる程脆かった少年の剣が、十以上受けても壊れておりません」

 少し間があったが、違う答えでも返したか? まあ、私の答えにしっかりと対処しているのだから、粗方間違ってはいないという事だ。
 そして小僧のそれは確かに成長しているという意味で「やるではないか」と言える。
 しかしそんな事のために好機を捨てる意味はない。
 そもそも視力が戻れば、小僧はモリアのあの妙な技で殺されるかもしれないのだ。
 だというのに、自分の成長を優先して本物の剣ではなく能力で戦う事を選ぶ程あの小僧は阿呆なのか?
 いや、仮にも冒険者なのだからそんな事をこの状況で選ぶとは思えん。

「それとなのですが、少年は剣が脆い事を把握し、立ち回りを変えています」
「立ち回りを? 防御に徹している様にしか見えんが」
「確かにそこは変わりありません。ですが、受け流しや打ち合いは剣に負担がかからないよう短く、長く。槍の射線上よりやや内側の位置をキープなどと変化が見られます」
「......するとどうなるのだ?」
「負担がかからなければ、壊れる回数が減ります。射線上からズレるのは、今の状況ででしたら有効な手です。元々ズレている軌道が正しいものになるか、よりズレて空を掠る事が増えます」
「それではあまり意味を感じんが?」
「目が見えない事で生じるズレは、時として操縦者でさえ意図した事と違う結果が生じる可能性があります。そうなれば防御に徹して、剣を壊さないように立ち回っている少年にはその意図しない一撃が脅威となります。ですので彼は今までのモリア氏の動きから、おおよそのズレを把握し、立ち位置を調整したのかと。ズレをなくす事で元通りの状態に限りなく近くする。そうする事で逆に避け易くなるという事です」
「なるほど。しかしそうだったとしても、その説明の限りでは小僧があの剣を使い続けている理由は、少なくとも自信からではないっと言っている様なものだ。事実攻めれずにいる。先程の説明と違う事に、何か弁明はあるか?」
「......恐れ多くながら申し上げますが、私にも少年の狙いや動きを完全に把握出来る訳ではありませんので、先程のはあくまで私の推測で申し上げたまでです」
「今回は許そう。だが、次からは間違いや当て嵌まらん推測、いや憶測なんぞを私に告げるな」
「......はっ! 申し訳ございません! 以後、気をつけます!」

 サヘルは気がついていなかった。自身の身に降りかかる窮地を脱する方法を躍起になって思案していたため、自分がいつも以上に部下に対する当たりが強い事を。
 それによって彼を守る騎士達に不快と怒り、呆れの感情が大きくなりつつある事を。


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