異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

切断、そして剣

 
 敵前逃亡。見つけ次第、即処刑にするというのも味気ない。
 待っていろよへーネル。職務放棄だけでなく、敵前逃亡までしたのだ。地獄の様な罰を与えてやる。
 資産回収、妻子は奴隷として使い、貴様自身は拷問の後妻子の後に処刑してやる。
 もちろん先に殺す妻と子は、奴の目の前で処刑する。
 これが妥当といった所か。
 まあ、これをやるにしてもまずはこの状況から脱しなくてはならん。
 さて、どうしたものか......

「......撤退を伝令するのであれば、音貝を使用すれば良いでしょう。何故使わないのです?」

 打開策を考えつつ、その事も思案しているとウェンベルが後者の解決案を申す。
 ......そういえばそんな物もあったな。

「な、汝に言われんでも分かっておる! ただ、今はヘーネルに指揮権を渡しておるから、ヘーネルにそうする様に命じる所だったのだ! 決して忘れていたのではない!」

 私の否定に特段表情を変える事なく、ウェンベルは「失礼しました」と言って再び前を向くのみ。
 本当に自分の部下を心配するでも、反旗を起こさなければ私の行動に興味もない様子。
 その態度に腹は立つが、逃げる方法を考えるには干渉されない方がやり易い。
 そう楽観的に考えていた、まさにその瞬間。
 ザッ! という何かを削ったような音がしたかと思うと、地面に重たい何かが落ちる音が鳴る。それと同時くらいにバキン! という何かが砕ける音も鳴る。
 何事かと振り返れば、私の方向目がけて氷が伸びてきていた。
 それが当たらなかったのは、途中でその氷が切断されていたためだった。
 誰が切ったのか? 私の周りにいる騎士達ではない。私同様かそれよりは早く気がついていたかもしれんが、此奴らでは間に合ってはいなかった。
 そうなると残るのは、騎士より少しだけ背後から着いてきていた男しかおるまい。
 左手をダラリと下げてはいるが、その手には先程の剣とは違い薄い緑色の剣が握られている。
 この男が持つ剣で、緑色とくれば見当はつく。
 その斬れ味は過去にふざけて振ってしまった兵士が王城の一画を切ったという。この話が嘘か誠かは不明であるが、斬れ味は本物である。
 そしてその剣の名は──

「バルバ・ティン。魔道具の中でも最高級であり、トップクラスの業物。ふっ、本物を目の前で拝めるとは、幸運な事だ」

 剣の真ん中を蔓の様な模様が走り抜けている。柄の部分は螺旋状になっており、握り易いのかと少し思える。
 しかしそんな造りなんぞ、あの剣の素材を知れば霞んで見えるだろう。
 伝説上にのみ登場する龍(ドラゴン)が一柱、風の龍“バルバス・ト・バティン”。その牙から造られた。
 本来魔獣に名などない。あるのは種族名であって、個体名ではない。
 そんな魔獣に『名』がつけられるのは『観測された魔獣が個体のみ』の場合である。
 ゴブリンやマダルノ蛇、ワイバーンや古竜のように少なからず同種が存在する場合は種族名で呼ばれる。
 しかし龍(ドラゴン)の場合は、一柱ずつしか存在していなかった。
 それ故に『名』がつけられた。

「(製作者は不明。今の技術では到底敵わない技術者が作成したという事、そして少なくとも八百年以上は前の代物であるという事)」

 調べずとも知名度が高いため記憶に残っている情報を再確認する。
 あの剣を持ち出して来るとは、随分と今回の件が険しいものであり大事なものの様子。
 私を捕らえるために持ってきたのであれば、誇らしく感じるが恐らく違う。

「(あの小僧を討つために、そこまでするのか。あの女かそれともエーデンか。一体何を考えている......)」

 私に向けて氷を走らせ、厄介な者達から狙われ続ける本人は、何食わぬ顔でモリアと戦っている。


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