異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します
戦術、そして第一部隊
ガーズ。巨獣に等しい体格ながらも、それは成体の姿。
冒険者ランクでいえば赤ランク。
ガーズは能力こそないが、その巨体から想像もつかない速度で地を駆ける。
速度でいうならば、グラルドルフの四倍程は出る。
そしてアンガルラディープ、アシッドスライムは共に銀ランクの討伐対象。
それらを狩っているというモリアの情報が正しければ、東の実力を認めざるを得なかった。
だが、例えそうだったとしても、あれだけ圧倒して騎士達を相手しているのはおかしい。
単純に考えるならば能力か魔道具。
前者であるならば、小僧は「氷を操る」能力と「収納」の能力。それを有していると情報がある。
後者であるならば、相手の動きを封じる状態異常系の物か。即効性で考えるなら、相当値の張る物でないと無理だろう。
どちらにしてもあの二人があそこまで追い詰められる程強力な何かを隠し持っているのは間違いないだろう。
もしかしたら魔獣にもその何かを使っているから勝てた、という可能性もある。
しかし一応女騎士と剣を交えられる程度の腕はあるらしい。
「そういう訳やで、さっきの提案は受け入れてられんわ」
「くっ」
打つ手なしの状況まで追い詰められてしまう。
「あっちも来るみたいやしこっちももうそろそろ終わらして、ワイもあの坊やと戦いたいなー」
モリアの視線の先には向かわせた騎士達を蹴散らして、此方に進軍して来ているエーデンの騎士。その距離はもう幾百もない。
今この男に殺されるのも、向かってきている騎士の誰かに殺されるのも変わりはせん。
クソ! 小僧に関わってからというもの、全くついていない。災厄が!
「それじゃあ、さいなら」
「モリア! 何をやっている!」
槍を私の心臓目掛けて走らせ、後少し押し込むだけで身体に穴が出来るという所で誰かの声がかかり、槍が止まる。
腰を抜かしそうになる所をギリギリで堪える。
「なんだよぉ。なーんで邪魔するんですかい、ウェンさん」
不満げな物言いではあるが、表情がさほど変化していないため本気でそう思っているのかが分からない。
そんな彼が“ウェン”と呼んだ先程の声の主が馬に乗って此方へとやって来た。
アーマーこそ一緒ではあるが、メットはしておらず顔が分かるその騎士は、少女に近い顔立ちだがやや儚げで大人の様な雰囲気もある。
体格も鎧越しではっきりとは分からないが、痩せている様に見える。男の騎士というよりは、女の騎士だと言われても信用出来てしまうだろう。
顔も気になるが、奴の腰には二本の剣が携えてられている。奇妙過ぎて目を引かれる所が多い。
彼の、その戦場には似つかわしくない顔を少し歪ませて、モリアを睨んでいる。
「命令では、サヘル殿は生かして捕らえると言われておったであろう。お主、今し方確実に殺そうとしておったな?」
「......やだなぁ。ワイが命令違反なんて、する訳ないやないですか」
「大方今回のもう一つの目的である少年との戦闘で頭の中を満たしておったのだろう。他人の話を聞いておらん時は、戦闘の事を考えておるのがお主という人間だ」
「あーらら、バレてますがな」
「もう良い。それよりとりあえず此方は私が対処しよう。お主は少年の元へ行くが良い」
「わーお。流石ウェンさん、気前が良ぇこって」
「......はぁ。早く、行きなさい」
「はいな」
軽い口喧嘩の様な口論を終えて、モリアがこの場を離れる。
その相手をしていた男は、モリアが去って行くのを確認してから此方へと向き直る。
ウェン。本名“ウェンベル・レンスタン”。
少女の様な顔立ちだが、れっきとした男である。歳は三十四であり、結婚もしている。
そして此奴は第八部隊まであるエーデン騎士団で、第一部隊の隊長を任されている実力者でもある。
無理矢理冒険者のランクに当てはめるのであれば、恐らく金ランクに届くのではないだろうか。
金ランクは現在、世界で一人しか到達していない高難度の領域。そこに三十四歳という若さで、手が届いている人間が目の前にいる。
ふっ、生き残る事は叶ったが、この男が居ては逃げるのは無理だな。並の冒険者が相手なら一瞬で殺す様な男だ。
運がある様でなかった。やはりあの小僧は災厄だな。
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