異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

賭け、そして進展

 
 そんな過去のことを思い出そうとする。

「......どうしたんだ?ぼーっとして」

 しかし何も話そうとしない様子を見て、店主が少々訝しみの表情で尋ねる。

「ああ、いや。すまない、考えごとをしていた」

 交渉の途中で相手からの反応がなくなったのに加えてぼーっとし出したのであれば気にもなる。

「それで?何か良い案でも思いついたかい?」
「まあ、『良い』案かは怪しいが、思いついてはいる」

 良い、の部分だけ強調するために強く言い、宝物庫へ手をやる。

「いやはや全く。交渉ってのは難しい。そういうのはバカには向かないようだ」

 そう笑顔で言いながら、三ドドンを出す。

「っ ︎」

 先ほどの三倍の額が机に置かれ、再び店主の表情が変わる。

「これはベガまでの交通費なんかだ。足りないようなら言ってくれ」
「いや.....十分だよ......」
「それは何より。そして──」

 再び宝物庫から物を取り出すが、さすがに片手では無理なので、両手でそれを少し強めに机の上に置く。

「この店を畳む際にその貴族へ渡す額とかも込みで、ここから退いてもらうための資金だ」
「──っ ︎」

 資金として五ドドン。

「さっき言った通り、未確定なことに大金を賭けるのはバカのやることだと思っている。それでも賭けてみることにした」
「.....正気の沙汰とは思えないね」
「貴族を相手しようと思っているからな。それにあれこれ策を練る暇もなかったから、少し賭けてみようと思ってな」
「なっはっははっ!本当に狂ってるねー!あたしだったら諦めてるよっ」
「諦められない内容なんだ」
「そんなに件の子が大事だと?」
「当たり前だ」

 後ろにいる皆もそれに賛同してくれる。

「良いタマしてんじゃないか!それじゃあ、せっかくなんだし有難くいただくよ」

 彼女はそう言って机の上に置かれた貨幣へと腕を伸ばす。
 そうして一ドドンだけを取って、その腕を引いた。

「毎度あり」
「!どういうつもりだ?」

 その彼女行動に思わず怪訝な表情を向けて問うてしまった。
 しかし彼女はそんな事気にも留めず呆気らかんと答える。

「どうもこうも、フェーネを買う気なんだろ?それの代金をも貰っただけじゃないか」
「それは分かるが、残りは?」
「要らないさ、そんな大金」
「は?」

 彼女の言っていることが理解出来ない。

「どういうことだ?」
「あのなー、坊や。商談ってのは互いに利益だけがあるって訳じゃないんだ。何処かで面倒事が発生するんだよ。そんな中でこんだけの金額を貰って、更には他国で店まで構えさせるっと言われる。後者は未確定とはいえ、十分破格な提案さ」
「だったら──」
「だから、だ。こっちはそれにどんな返しをしろって言うんだよ」
「別にそんなのは求めてない。俺が用があるのはフェーネさん。そうしたらあんたが買うなら、何を寄越すと言ったから提示したに過ぎない」
「そうだったとしてもこっちとしては怖いんだよ。それに忘れてないかい?」
「.....何を?」
「あたしはその時に言ったはずだよ。“仮に”って」
「.....」

 そう言って彼女はにかぁーっと笑う。
 しかし俺は、ついさっきまでの話のはずが、そんなことを言っていたか憶えていない。



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