異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

証言者、そして商談

 
 結局、なんの名案も思いつかず翌日を迎えてしまった。
 念のため始まる前にキリに誰がその証言が出来るのかを教えてもらい、もしもの時のためにこちらも手を回しておく。
 といっても貴族がどう手を回しているかなんて知らないので、こっちは懇願するしかないのだが。

「まずは、こんな朝早くから押しかけ非礼について。申し訳ない」
「それはもう聞きました。それで、うちの物になんの用でしょう?」

 不機嫌さをあまり隠そうとせずに少し強めの口調で聞いてきた。
 そこは仕方がないので気にしない。

「実はそちらで働いている方に用があって....」

 俺の視線は店側の隅の方でせっせと掃除をしている女性へやる。
 視線の先を追った女店主は、ニヤァーっと口の端を上げる。

「おや、そんなに侍らせておいてまだ欲しいのか?」

 そう言って笑い声を上げる店主。笑う度に胸のその豊満な物が揺れる。
 どうやら俺が女性の紹介を求めて訪れたと思われているらしい。
 うーん、素直に話せば面倒になりそうだしここはそういう方針の方が良さそうかな。

「ええ、実はそうで。一目見て気に入ってしまってね。ぜひともお話をっと思うといても立ってもいられなくて、ついこんな朝方に邪魔させてもらった」
「はははっ!それはそれは。おいっ!フェーネっ!来なっ!」

 高笑いを上げた彼女は、それに負けない声量で女性を呼ぶ。
 呼ばれた女性、フェーネさんは少し怯えた表情でこちらへと歩いて来る。

「な...何か不備が.....有りましたでしょうか?」

 震えた声で女店主に質問をする彼女は、やはり怯えている。
 ん?あれって───

「うっさい!あんたは黙ってな!....この娘が良いなんて、物好きだ事。それで、どれくらいだ?」
「?どれくらいって......?」
「なんだい、まさか出せないのか?」
「出せって、何を?」
「だーかーらーっ!金だよ、金っ ︎まさか何も払わずに持って行こうとか考えてたのか?舐めてんの?こっちは働き手が一人減るし、なんならこんな朝方に会合の交わしもなしで付き合ってやってんだぞ!出せねえって言うなら、詫びチンだけでも置いて出て行きやがれっ ︎」
「.......あー、失敬。失礼ながら訊くが、フェーネさんはもしかしてだが“奴隷”かなにかか?」
「あん?合ったり前だろう。こんな汚いの。まさか、知らずに貰いに来たのかい?」

 やっぱり。さっきから女店主が彼女に対して声を荒げる度にビクッと肩を震わせているし、先ほど彼女がこちらへ来る際に襟元の隙間から見えた物。
 彼女の左首裏のそれを『千里眼』で覗けば、真新しい痣だった。
 これだけなら店主が従業員に暴力を振るっただけと考えられもするが、今しがた奴隷かと訊く前に彼女が言っていた「どのくらい出すんだ?」という問い。
 まあ、従業員が減るからまた違う人を雇うまでの、彼女がいなくなってかかる負担へのせめてもの労いの気持ち分くらいは出せっと言っている可能性もあるが。
 しかしこの国がどういう所なのかを思い出し、悪いと思いつつも聞いてみれば正解だった訳だ。
 ならそれはそれで近道になる。その前に──

「金なら払う。しかしちょっと俺は席を外す。その間に、ニーナ、少しの間彼女の相手を頼む」
「え?私、ですか?」
「ああ。なんとか頼む」

 突然のことでニーナは驚いた表情で聞き返してきた。それに短めの返事を返して、俺は席を外す。
 そうして店の外へと出る。


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