異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します
とある場所、そして喧嘩
彼女が娼館から飛び去って数時間。ベガ国内のとある場所に到着した。
翼を閉じ、通路を歩く。キリによって負わされた傷は、飛んでいる間に治癒核で癒やし終えている。
それでも彼女は、切られた場所を指で伝わせる。
「....っ!」
そして先ほどまでのことを思い出して憤慨する。
彼女にとって男とは利用するだけの存在。その男に抗われ、あまつさえ刃を向けられるなど論題。
例えどんな雄であっても彼女に傷をつけることはしない。それだけ彼女の『魅了』は絶対的なのだ。
確かに傷をつけたのは東ではなくキリだが、彼女が気にしているのは能力が効かず、刃を向けられたことだ。
だから彼女は、次は東を墜としてキリたちは絶望を味合わせてから堕とすと誓う。
「ん?貴女も来たのですか」
部屋の中に入ると、ソファに座る暗い紫に微量の赤が混ざった濃色(こきいろ)の髪の男。
以前東がワイバーン騒ぎがあった際に彼の邪魔をしていたオーメルと呼ばれていた男だ。
そんな彼の手には湯気の立つ紅茶が持たれている。
その彼の向かいには、エルフの里で東と戦闘をしていた金色色の髪の美女が、同じく紅茶を嗜(たしな)んでいる。
その二人から少し離れた所には、ニコニコと人当たりの良さそうな笑みを浮かべてこちらを見ている男、バジルが木製の簡易的な椅子に座っている。
彼の背後には、緊張の面持ちで直立不動している男。確か......あー、『青』のボスだったかしら。
ま、どうでも良いけど。
そんなことよりも辺りを見回す。
「....あの方は居ないのね」
いつもは居るはずのあの方が今は見当たらない。そのため呟いた言葉に少々嬉々とした感情が混じっているのだが、本人は気がついていない。
「もう時期戻ると思うよ?僕が出掛ける前に用事があるって言ってたから。そろそろ終わるだろうし」
「なんで貴方が、あの方の用事を知っているのですか?」
「それは教えて───」
「内容を教える事など絶対に有り得ない事は分かっているはずです。言っても“出掛ける”。それだけです」
「.......」
バジルが教えてくれたが、そんな彼にオーメルが噛みついた。
相変わらず仲の悪い事。
常に飄々とし、薄っぺらい笑顔を絶やさないバジルとあの方に絶対的な信仰を置いているオーメル。
彼らは何かと喧嘩する。大体はバジルの発言にオーメルが噛みつくのだが、バジルもその仕返しとばかりにオーメルの邪魔などをするので喧嘩が絶えない。
そんな彼らの様子を見ていると、不意にバジルの背後に居る『青』のボスに目が行った。
彼もその事に気がついたらしく少々頬を赤らめ、さらにぐっと背筋を伸ばす。
そう、その反応こそ彼女からすれば普通の反応なのだ。
それが嬉しく思い、彼のお仲間のことを思い出した。
「そういえば“赤”と“緑”のも居ないのね」
「ああ、確か“赤”ならアズマをハメに行ったはずだよ」
「!何それ、聞いてないんだけど?」
私の質問に再びバジルが答えると、今度は女の方が喰いついた。
「アズマ........!」
その名に聞き憶えがあり思考を巡らせれば、先ほど堕とそうと考えていた男の名であることを思い出す。
このサキュバスがあの村を落とそうとしたのはあの方からの指示で行ったに過ぎない。
落とす理由は、あの村に居る薬師の老人が必要であったため。邪魔な村は潰し、村人は好きにして良いと言われていた。
男は全員魅了し、落としたが情報に上がっていた薬師の姿は見当たらなかった。
それで情報を吐かせるために村人達を集めたのだが、それを東とあの小娘共に邪魔されたのだ。
また、東の強さからしてあのまま戦闘を長引かせても残念ながら敗色濃厚であったと考えている。
なので今回の失敗は、さほど問題ないと考えていた。
しかし今上がった名前。何故あの場に居た彼の名が上がるのか。偶然か?
もし彼があそこに居たのが偶然同じ名の者ではなく、“赤”の奴がハメに行く、つまり重要な存在であるならば、彼女のミスは大問題となる可能性がある。
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