異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

白いモヤ、そして二箇所の様子

 
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 真っ暗な空間にいる。
 そうとしか言いようがないほど、何もなく真っ暗なのだ。

「ここは一体どこだ?」

 独り言を呟くもそれは虚しく消えるのみ。
 誰も答えず、何も分からない。
 うーん、どうしたものか。そもそもこんな所に来る前に何をしていたかも思い出せない。

『いやっ!離してっ!』
「っ ︎」

 そう疑問に感じていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
 その声のした俺の足下の方に視線を向ける。

「ニーナ!」

 そこには直径一メートルほどの円状の白いモヤに怪我を負ったニーナに見知らぬ男が彼女の手首を掴んでいる姿が映し出されていた。
 くっ、ここってどうすれば下に行けるんだ。
 彼女の方へ行こうと試行錯誤するが、全く進まない。泳ごうとも進まない。

『このっ!』

 そうこうしているとまた知った声が聞こえたかと思うと、そのモヤに映っていた男がモヤ外に消えていった。

『ニーナ、大丈夫 ︎』
『ありがとう、お姉ちゃん』

 すると今度はモヤにサナの姿が映る。
 良かったという安堵を抱いたが、サナの様子を見て再び不安を覚える。
 サナもまた怪我を負っている。それもニーナの比ではないほどに。
 二人とも治癒核は持っているはずだが....

「っ!危ない!」
『うっ ︎』
「サナ!」
『お姉ちゃんっ!!』

 サナとニーナがちょうど死角になる位置から矢を放とうとしている男が見えた。
 しかし彼女はそれに気がつくことが出来ず、右ふくらはぎを射られた。
 毒矢かどうか判断するために『魔眼』を使うが、反応がない。発動しないのだ。

「どうなっているんだ....」

 先ほど俺が気がついた時に二人は俺の声に反応すら示していない様子だった。
 恐らく聴こえていないのだろう。
 苦悶の表情を堪えているサナに何もしてやれないのはもどかしいことこの上ない。
 矢を放った男はニーナが能力を使って対処する。
 その間にサナは自分の足に刺さった矢を抜き取り、自分の服を破いて刺された場所にキツく巻きつける。
 動きやすさメインの彼女は、防具が少なく小さいため破いた部分から下着が見えている。ねずみ色の生地に花の刺繍が施された物が。
 キリの姿が見えないのが気がかりだ。

『この餓鬼!』
『んっ ︎』
「っ ︎」

 サナたちの様子を見ていると今度は上から野太い男の声と小さな悲鳴が聞こえ、上へ視線をやる。
 かなり高い位置に足下にあるようなモヤが上にもあった。
 俺から二メートルくらいは離れた位置にあるが、見えなくはない。
 そこには薄暗い部屋の中で、松明の光のみで照らされているどこか。そこで薄っすらと見えるのは頭から血を流し、擦り傷だらけとなったリリーの顔が映っていた。

「リリーっ!!」

 そう叫ぶが、やはり俺の声は聴こえていないようで何の反応もない。
 その時だった。
 ヒュンッ、パシィッ!
 空を切った時の音が鳴ったかと思うと、何かが叩かれた音....勢いよく強めに肌を叩いた時のような音が鳴った。
 それに伴ってリリーが苦悶の表情と小さな悲鳴を上げる。
 くそ!動けないだけじゃなく魔眼も使えないから、リリーに何が起こっているのか見えない。
 ヒュンッ、パシィッ!ヒュンッ、パシィンッ!ヒュンッ、パシィンッ!.....
 特に何が起こるでもなく、その音の繰り返し。

『チッ、気を失いやがった』

 そう思っていると先ほどと同じ野太い声が聞こえた。
 リリーは目を瞑って、動かない。
 一瞬死んだのではっと思ったが、先ほどの男が言った通りなら気を失ったのだろう。
 薄暗いため彼女がどこにいるかは分からないが、普通ならもう港に着いており、出航の準備をしている頃のはずだ。
 それなのに彼女はなぜあんな目に遭っているのか。

「あー、一体ここはどこなんだ!早く、皆の元に行きたいのに!」

 怒りで地団駄を踏み、グッと拳を握る。

「.....?」

 ふと、握っている手を見る。
 強く握っているはずなのに、痛みはない。手を開けば普通なら黄色くなっているはずの手は赤いままだ。

「まさか....夢、なのか?」

 そんな考えが頭を過ぎる。
 ならばと思い、古典的だが頬を抓(つね)る。

「痛くない.....やっぱり、これは夢か」

 そうと分かれば、覚醒させれば良い。
 覚まし方は色々ある。死にかけたりするとビクッと反応して覚醒するように、夢の自分を終わらせることが手っ取り早い。
 なので俺は自分の首に手をやる。

「んぐぅ.........」

 そして手に力を入れて締める。呼吸が出来なくなる。

「......んっ」

 しかし死ねない。終われない。
 確かに呼吸が出来ていないのは分かる。苦しいという感じもある。
 だが、死ねないのだ。
 これではダメだと悟り、手を離す。

「あーっ!誰か、助けてくれっ!」

 能力が使えない以上もう手段がなくなり、どうしたら良いか分からないため叫ぶ。
 少しだけだが涙が出ているのが分かる。
 そんな悔しさと悲しさに苛(さいな)まれている時だった。
 急に身体が浮いた。

「え?」

 そのまま下からぐいっと押される感じをずっと浴びながら、内臓が浮く感じも襲う。
 先ほど下にあったはずのサナたちが映るモヤはすでに俺を置いて上へ登っていく。
 違う、俺が落ちているのだ。

「うわあああぁぁぁぁぁぁっ.......」

 底なしの暗闇に落ちる。とてつもない恐怖が身を包むが、それ以上に目を覚ませ!と自分に命じる思いが強くなる。
 俺の願いが通じたのか、辺りが完全に真っ暗になる頃には、俺の意識が薄れていく。

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