異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

迷い人、そして災い

 
 あれは今から九百と十数年前のこと。当時のワシがまだ子供だった頃だ。
 ある日里に、一人の人間の男が訪れた。
 当時はさほど人間との関係がギクシャクしていた訳でもなく、たまたま迷い込んだのだと思えた。
 かなり堅いは良く、大きかった。まあ、子供の頃の視点だからどうかは分からんがな。
 歳は三十前後。髪は雪のように白い部分と、そこに血がこびりついたのか一部が赤黒くなっていた。
 そして男はかなり深めの怪我を負っており、里の入り口で倒れてしまった。
 里の連中は急いでその者を救護し、介護した。
 確か名前は......ホーメイじゃったかな。
 そのホーメイの介護に一番熱心だったのは里の薬師をしていた“メリッサ”だった。
 彼女はまだ未熟の時に師を亡くしたため、その腕はあんまりであった。
 そんな時に現れたホーメイの容体は、初めは高熱を出し、毎日のようにうなされるが目を覚ますことがなくでメリッサはてんてこ舞いだった。
 それでも彼女はひたむきに介護を務めた。
 その甲斐あってか、数日後には男の体調は回復した。
 それからさらに三日ほど経過すれば、彼は目覚めた。そのことに里の者たちは安堵し喜んだ。中でも一番喜んだのはメリッサだった。
 本当にメリッサの薬で死者が出ることがなく、安堵したものだ。
 .....冗談はさて置き、ホーメイは優しく気さくな男で里の、特に子供たちと仲良くなった。
 彼はベガの出身ではなく、異国からの旅人だった。
 国の名前は.....忘れてしまった。
 異国の文化や遊びを知っていたため子供たちからの人気が高かったのだ。当然というのも可笑しいが、ワシも彼が好きだった。
 そういえば子供だけでなく、女性陣からも人気があったような.....
 確かに紳士な態度とエルフに負けないくらいの生存(サバイバル)技術があったからかもしれんな。
 そんな彼の住まいはメリッサの家だった。
 当時は里の住民が多かった。その頃はまだ、住民らが他の森に集落を作っておらず、多く住んでいたのだ。
 今の数倍は居たのではないだろうか?
 そのためもあるが、まだ怪我が治りきっていないのもあって看病し易かったのもあるのだろう。
 その頃のワシでは大人の恋について理解出来ていなかったため、メリッサとホーメイがいつからそういう関係になっていたのか気づかなかった。
 ただ周りの大人からは、夜はあまり薬屋の家に近寄るな、と言われたのは今となっては意味が分かる。
 そして気がつけば二人は結婚した。
 その当時の長──ワシからみて先々代の長──曰く、人間とエルフの結婚はこれが初めてだったという。
 多少の周りからの反感はあったものの、二人は結ばれ、数ヶ月後には子を宿した。
 そして宿した子は、この世に誕生した。
 名をレイオという息子が生まれた。
 しかしその子供は少々異形だった。
 髪は確かにホーメイと同じく白髪だったのだが、その瞳は違った。
 ホーメイの瞳は明るめの茶色、メリッサは当然碧眼。
 だが、その赤子は.....金色色だった。
 その瞳の色を持つ者はその当時里にはいなかった。
 故に、他の者の子を宿した疑いが生まれた。その疑いを強める根拠として、メリッサは薬の材料を採るためによく里を抜けていた。
 そして里の外で違う者と関係を持ち、その者の子を宿したと里の連中は決めつけ、メリッサを虐げた。
 さらに長からはメリッサは家から出ることを禁じられた。
 それは薬師であるメリッサにとってはとても辛いことであった。食糧はもちろん、薬の材料を採ることも出来ないのだから。
 しかしそれでは薬が手に入らなくなるため、仕方なく家の周りで薬草を栽培することだけが許された。
 範囲としてはだいたい十七尺──五メートルと少し──ほどだろうか。
 そんな状態のメリッサに対して、いくら優しい性格のホーメイでもその出来事に良い顔はしなかった。
 だが、彼はメリッサを見捨てることはなかった。
 男は虐げられ続けるメリッサとその子供のために森で食べれる山菜やキノコ、薬に必要な薬草などを採り食わしていき、里の者らにも何かの誤解だと触れ回った。
 そんなホーメイの姿に里の連中も徐々にメリッサへの虐げたを引くようになっていった。
 そしてレイオが十を迎えた日、ホーメイは姿を消した。
 そのことに驚いたメリッサは辺りを探し、言いつけを破って告げられていた範囲から飛び出し男を探した。
 山菜が採れそうな所を、自分が教えた薬草が生えている場所を。
 しかしいくら探そうと彼は見つからなかった。
 言いつけを破り、歩き回っているメリッサを咎め、家へ帰そうとする者も多々居たがそんな者らを追い払って探し続けようとしたが多勢に無勢でどうしようもなかった。
 そしてメリッサはひっ捕らえられ、長の前へ連れて行かれた。
 だが、メリッサは諦めてなどいなかった。
 自分一人ではダメだと悟った彼女は長にことの成り行きを話、探してくれるように懇願した。
 里の者や長もホーメイの人の良さを知っており、日頃から彼の真摯な姿勢を見てきた。
 それ故にメリッサやレイオを置いて姿を消したことを不可解に感じ、里の者たち総出でホーメイの捜索が行われた。
 レイオはワシら子供に預けられ、メリッサも探しに出た。
 しかしホーメイは見つからなかった。
 そのことでメリッサはすっかり放心状態となり、レイオの面倒すらまともに見られなくなってしまった。
 気の毒に思った周りの者たちも何かと手助けをしてはくれたが、メリッサが正気を取り戻すことはなかった。
 そんなある日、災いが訪れた。
 初めの頃はただ風の強い日だった。そんな日は時折あるため、皆、普段よりも気をつけるのみだった。
 しかしその風は徐々に勢力を増していき、外出することすら出来ないほどに強くなった。
 ワシは家の中で風が強いことを気にしながらも、ホーメイが教えてくれた遊びに夢中になっていた。
 そんな時だった。
 ズドドドドドドオオォォォォォッと耳を劈(つんざ)くような轟音が鳴り響いた。
 雷鳴である。音からしてかなり近かったと思う。
 そして子供というのはそういうのを観たい、と思ってしまう時がある。
 もちろん恐怖する者もいるだろうが、ワシは好奇心が勝ってしまったのだ。
 扉を少し開け、外の様子を窺った。
 そして扉の先には、まさに地獄が繰り広げられていた。
 天は黒い雲に覆われており、遠く、山を何個か越えた辺りではあったがそれを見ることは出来た。
 天と地を結ぶ螺旋状の何かが複数、そしてそれに加勢するかのようにピカッと蛇のように曲がりながら輝く太い光の線。
 強風の音と雷の轟音が遠く離れた自分の耳には届いていた。
 これを一言で表すなら、まさに『天変地異』であった。



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