異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

エルフの長、そして観察

 
 東が気を失って倒れた時、ここエルフの里の長を務める老エルフ、名を“ファアラン”という。
 彼はあの方の使いだと思っていた男、否女がいなくなり東も倒れたことによって全身にのしかかるような悪寒と恐怖から解放された。
 しかし動くことが出来ないでいた。
 理由は単純で、足が竦(すく)んでいるのだ。
 だが、それは彼だけでなく他の者とて同じかそれ以上の様なため、面子(めんつ)が潰れるようなことはなかった。
 そんな誰も動けないで状況でユキナだけが動いた。
 彼女が叫んだことで一早く動けるようになったのは、ファアラン直属の護衛であり、護衛団長にして次期にこの里の長を任されると言われている“アーツェ”であった。
 彼は我に返るなり直さま動いた。

「長様!御無事ですか?」

 そう彼がワシに語りかける。
 その問いに数秒ほど間を置いてから、ようやく我に返ることが出来た長が首を縦に振る。
 その返しにアーツェは安堵の表情を浮かべる。
 しかしそれも一瞬で引っ込み、再びいつもの真面目な表情を取り繕う。
 相変わらずの思考の切り替えの早さだと、長は改めて感心する。

「それは何よりです」

 そう述べた彼は倒れた男──確かアズマと呼ばれていたな──とその男に近づく銀髪の少女へと視線をやった。
 それに釣られてワシもそちらに視線を向ける。
 その少女には我々と同じく尖った耳がある。
 しかしそれ以外は全くを持って違う。
 輝く金の髪はなく鮮やかに光る銀の髪。海のような深い碧眼(ひとみ)ではなく、血のように真っ赤な赤眼(ひとみ)。
 その姿はまさに異形その者だ。
 そんな少女は、揺さぶりながら男の名を何度も呼んでいるが、当の本人はずっと地に背を預けたままである。
 数十回ほど声をかけても返事がないため少女は呼びかけを止め、懐から何かを取り出した。
 最近衰え気味になってきた目を細めてそれを見るに、少女が取り出したのが治癒核だと分かる。
 大きさは小さいが純度は高い。そんな高価な品は一端の冒険者が所持していることはまずない。
 また、先ほどの戦闘と圧迫感から予測するに、二人ともかなりの腕の冒険者だろう。
 青、いや赤はいっているな。
 .....いや、あの青年だけは別格だった。あの女よりも恐ろしかったのは彼だ。
 本能が警鐘をフルに鳴らすような。まるで未知数の力を秘めた魔獣と遭遇したような。そんな気配を漂わせていた。
 そうなると、少なくとも銀以上はいってるか。
 下手をすればさらにそれを超えているのでは?とさえ思える。
 そう長とアーツェは考える。
 その考えは鋭く、正しかった。これが長と次期長候補である二人の観察眼であり、勘なのであった。
 そして少女は、先の戦闘で切り落とされた彼の腕を持ってきて、切断面を合わせて治癒核を使用した。
 あの程度の大きさでは完治は出来まい。ましてやあれだけの深手を負ったのだ、それだけでは助からん。
 そんな事を思っていると、唐突にある想いが頭を過った。
 しかしそんなことをすれば他の者たちの不満を担うことになる。

「........アーツェよ」
「はっ」

 ワシは少しの間悩んだ挙句、その想いに素直に従うことにした。

「あの倒れている男の、手当てをしてやれ」
「.... ︎そ、それはどうい──」

 ワシからのあまりにも意外な発言に、アーツェは驚愕の表情を浮かべた。


「どうもこうもない!彼を助けろっと言っているんだ!」
「....!しょ、承知しました!」

 彼の態度に少々苛立ってしまい、声を荒げてしまった。
 普通なら長がこのような横暴な命令は許されないし、普段の彼はそんなことはしない。
 では、なぜか?
 それはアーツェが、彼がどういう存在なのかを先の戦闘で気がつけなかったことに落胆したからだった。
 まあワシも確証を得ている訳ではないが、可能性は高い。
 あの時の風、居られるのか?
 魔獣に枠組みされているが、彼らエルフからは使徒として扱われ、敬意と崇拝を抱かれている者。
 その者たちの種族を我々は“ドライアド”と称している。


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