異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

正体、そして驚き

 
「っ ︎」

 すると彼の姿がブレた。
 そしてそのブレた彼の周りを彼の姿が溶けたような霧が発生した。
 それは俺が今まで見てきた霧とは違う。
 それに彼があの状態になったと同時に、ほとんど見えていなかった彼の身体から出ているいつもの霧が出始めた。
 しかもその霧の色には憶えがあった。
 あの色は忘れようがない。それだけ印象深い人物の霧なのだ。
 彼を覆っていた霧が晴れると、そこには金色(こんじき)色の髪を腰くらいまで伸ばした顔立ちの整った、美女という言葉がピッタリな女性。
 その女性の口にはうっすらと不敵な笑みが浮かんでおり、緋色の眼を輝かせてこちらを見ている。
 ワイバーンと出会した時に、そのワイバーンの背に乗っていた女性....
 俺が彼女に釘づけになっていると、彼女は不敵な笑みを崩して不貞腐れたような表情を浮かべ、口を開いた。

「あーあ、バレちゃった。やっぱり下の方も同じにしないといけないのね」

 そう唇を尖らせて意味の分からないことを吐いた。
 下も同じにってどういうことだ?それに今までどうやって姿を偽っていたんだ?
 彼女から幻術を使っているという反応は『魔眼』には表示されていなかった。
 つまりは幻術などではない、別の手段なのだろう。
 例えば固有能力か魔道具...いや魔道具の場合はユキナのペンダントなども見抜けているから、魔具の可能性の方があるか。
 それにしてもどちらの方法にしろ『魔眼』で見破ることが出来ず、なおかつ霧の色すら全く見えなくさせ、色すら変えるのだから恐ろしい。

「もう、お股狙うなんて、アズマはエッチね。子供が出来なくなったら、責任取ってよね....?」

 軽口を叩きながら下腹部のさらに下、股間よりもやや上の位置を撫でる。

「責任って....両手切り落とした男の急所を狙ったら女でしたーって状況に、さらに責任取れって言われてるこっちの身にもなれ。それにそこまで痛がってるようにも見えないが?」
「ふふ、それはご愁傷様。それに貴方の言う通り、あんまり痛くないわよ。でも、どうせなら責任取って欲しいわ」
「勝手に責任負わそうとしないでくれ。どちらかと言えばこっちが腕の責任....やっぱりなんでもない」
「あら。私で良ければ、責任取ってよねあげるわよ?」
「いらん!」
「ふふふ」

 どうも彼女は相手し辛い。
 っと、こんな会話をしている場合じゃない!もう保って五分くらいか。
 早い所蹴りを着けないとな。

「例え女だと分かっても、手を抜く気はないぞ。だからとっとと捕まってくれ」

 手を抜けるほど彼女の実力は甘くない。

「うふふ、なら実力で頑張ってね」

 そう言うと彼女は刃折れの剣を構えた。
 その瞬間、先ほどまでとは比べ物にならないくらいの殺気が放たれた。
 チッ、まだ実力を隠していたのか....!
 これはまだまだかかりそうだな。

「.....と、思ったけど、残念ながら私も疲れちゃった」
「......は?」

 覚悟を決めて、こちらも構え直した所で彼女から思ってもみなかったことを言われた。
 しかし彼女はそんなことお構いなしと言わんばかりに、今発せられた殺気が引っ込んだ。
 というか疲れた?え、それが理由?

「じゃあ、頑張って避けて、っね!」
「っ!」

 困惑していると彼女が一閃だけ剣を振るった。
 するとそこから放たれたのは計四つの線。
 それが真っ直ぐこちらに走ってくる。この距離ではどの方向に避けようと一撃は喰らう。
 これ以上喰らうのは厳しいが、避けるのが無理なんだ。一撃くらいは諦めよう。

「うぐっ ︎」

 そんな覚悟を決めて右の方へ避けようとした所に、左脇腹、やや背中よりの辺りに硬い何かがかなりの威力でぶつかった。
 背後に回っていたのか!
 そう思い『千里眼』を自分の背後に向ける。
 するとそこにはバスケットボールより一回りほど大きい岩が俺にぶつかっていた。
 それに気を取られていたせいで、線の対応がわずかに遅れた。
 しかし岩がぶつかったことによって避けようとしていた方向にさらに加速が乗り、線を避けきることが出来た。
 空中でバランスを崩しての回避だが、右腕で受け身をとり、さらにその腕を軸に地面を転げて完全にダメージを受けずに、流す。
 その回転中に『千里眼』の向ける向きを変え、岩をぶつけたであろう人物を探す。
 しかし彼女の姿は疎(おろ)か、それらしい人物もいない。
 能力を解き、視線を彼女がいた方へ向けるが、そこに彼女の姿はなかった。
『魔眼』を使って霧を見ると、彼女から発せられていた霧は背後の方へと伸びていた。
 そちらに『千里眼』で目を飛ばせば、木々を掻き分けて移動している。
 しばらく観続けていたが一向にこちらに戻って来る気配はない。
 ましてやその動きはどこかを目指しているような感じだ。

「良か、った.....」
「!アズ、マッ!」

 それで気が抜けたのかそれとも出血多量によるものなのか、俺は気がつけば倒れていた。
 俺の気が抜けたこと、そして彼女が去ったことによって放たれていた殺気が消えたことでユキナたちも恐怖から解放された。
 それにより動けるようになったユキナが近づいて来る音が、消えていく意識の中聞こえた。

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