異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します
技量、そして狂気の告白
上段から振り下ろされてきている剣の側面にタイミングを合わせて蹴りを当てる。
彼の速度は先ほどからの多大な剣劇によってある程度見極めた。
そのためタイミングを合わせるのも可能となり、側から観れば剣を足で捌いている絵が完成した。
しかし彼は速度が見極められたからといって防戦一方とはならなかった。
それは彼の技量が、「レベルダウン」の呪いから解放された東と互角程度に戦えるほど高かったからだ。
そのため東も全力であるにも関わらず、まだ倒せていない理由だった。
しかしそれも時間の問題であった。
「はあぁぁぁっ!!」
彼がフェイント混じりの攻撃、ほぼ一瞬のうちに七撃の攻撃がそれぞれ視界の端々に映る。
「ふうぅっ!」
「っ!」
しかしそれをしっかりと見極めて回避し、カウンターとして中段蹴りでガードが空いた彼の胸を狙う。
だがそれは当たる寸前の所で避けられてしまった。
そして──
「ふっ!」
空振り、下に下りていた剣を引き上げ突き出しっぱなしの足の切断を狙ってくる。
どうやら先ほどのはこちらの攻撃を誘うため、あえてガードを空けて隙を作ったようだ。
そんなことを考えている間に彼の剣が俺の右膝へあと数ミリまで迫ってきていた。
しかし男剣はそれ以上、右足に近づくことはなかった。
「うっそぉー....」
彼は軽い口調で、しかし驚愕と呆れの表情を浮かべていた。
彼の剣が俺の足の一歩手前で止められている。それが彼にとって驚きなのだ。
ただ切られた氷漬けにした左腕に、という点を除けば能力で強化した腕で剣を止めることは、東にとって最早普通になりつつあるのだから。
しかしこれはただ抑えつけているだけなので、剣を引けば腕が再び切れる。
それを彼も理解したのか剣を引こうとするが、その前に東が片足で軽く飛んでそれを回避する。
そして左足を膝蹴りのように突き出し、身体を右方向へ捻りながら右足を折る。
すると剣が引かれる前に脚同士で挟むようにして、剣を叩く。
バギィンッ!
そんな鉄が地面に落ちたような音を鳴らして、彼を剣を叩き折った。
「なぁっ ︎」
その光景に再び愕然としたのは、男とその場で彼らの戦いを耐えながら観ている者たちだった。
そんな彼らを無視して、澄ました顔で立っている東だったが、実は叩き折る際に右の膝裏を切られた痛みを我慢しているのは彼だけの秘密である。
少々バカなやり方だとは思うが、それでも俺の剣の仕返しは出来たな。
その剣を使って作った武器は途中で顎が疲れたので、放棄したが仇は取ったので報われて欲しい。
しかし引かれていたため刃先から十センチくらいの所でしか折れなかったが、元から蹴りで狙っていたのもそこら辺なので良しとしよう。
そう痛みに耐えながら苦笑を浮かべている彼の姿を見た男は.....笑っていた。
先ほどまで驚愕していた男が今度は笑っているのだ。さすがに不気味である。
しかしその表情を見るとなぜか悪寒が走った。
それにより思わず二メートルほど距離取ってしまった。
「良いー、良いぃー!最高っに、良いぃっ!やっぱり貴方は、私をスゴく楽しませてくれるわっ!!」
そして彼はそう叫んだ。身をくねらせて、股の所に左腕を挟んで。
東は困惑していた。不気味に思っていた相手がさらに笑顔でそう叫ぶのだ、無理もない。
しかし彼の次の爆弾発言の投下を予知していた者はいなかった。
「やっぱり私は、貴方が欲しいわっ!!」
.......はい?
いきなりのことで頭が追いつかなくなった。
今、なんて言った?貴方が欲しいって聞こえた気がするんだけど。
いやいや、まさかね。だって男が男を欲しいなんて、ねえ。
いや、そういうジャンルがあることとかそういうのが好きな人がいるのは知ってる。なぜか読んでた本にも出てきたし。
でも俺にそんな趣味はない。
それにこれはきっと間違いなはず、うん。
「冗談言ってないで、早く来──」
「冗談なんかじゃないの!私は本気よ!」
....聞き間違えではないと断言されてしまった。
それにより酷く混乱する。
まずこんな状況で告白とかあるか、普通 ︎それに途中から女みたいな口調になってるし!
やっぱりそっち系なのか?俺、本当に好かれちゃったの?殺し合いに等しい状況なのに、好きなの?
意味が分からん!
「はぁー...なら俺に勝ったら、どうぞお好きに!」
「っ!!絶対ね、っ ︎」
「ああ、勝てたらな」
考えるのを諦めた俺は、昔漫画の敵キャラが使っていた言葉を思い出したので少し変えて使わせてもらった。
それによって太陽のような明るい笑顔を彼は浮かべた。
その一瞬の隙を見逃すほど、甘くない。
先ほど取った距離を詰めると同時に下腹部に左手の一撃を叩き込む。
「ぐほぉえぇっ ︎」
そしてそれによりグラついた身体にさらにダメ押しで一番の急所である股を狙う。
それは確かに命中した。
だが、少々その感覚に違和感を覚えた。
いくら足で勢いよく蹴ったとはいえ、感じるはずの感触が返って来ないのだ。
その動揺は俺に隙を作ってしまった。
それを逃さず彼は刃折れの剣で俺の左脇腹から刺すような一撃を放ってきた。
「んぐっ ︎」
ギリギリで回避は出来たが、かなり深めに切られてしまった。
服は切れ、そこから夥(おびただ)しい量の血が噴き出した。だが、この傷ならまだ致命傷ではない。
先ほどから流血まみれで、もうそろそろ目眩もしてきた。
しかしそれは戦闘続きで疲れているだけ。そう自分に言い聞かせながら、相手を見据える。
「まさかとは思うが....女、なのか.....?」
先ほどの一撃から導き出された答えを恐る恐る口にすると、彼は下腹部を抑えながら不敵な笑みを浮かべた。
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