異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

牢獄、そして地下十階層

 
 時間は少し遡り、東たちがエルフの里を目指して旅立った丁度その頃。
 警邏(けいら)に捕らえられた罪人たちが捕らえられている牢獄。
 基本的に警邏が在住している署には数人ほどの牢獄が備えられているのだが、そこにはあくまで軽い罪で捕まった者が収容されている。
 留置所のようなものだ。
 しかしそれ以上の罪を犯した者らは王城の真反対側の施設、堅牢署と呼ばれる場所に収容される規則となっている。
 日本で言う所の刑務所、監獄である。
 そしてここ王都にある堅牢署は、焦げ茶色をベースとした壁に窓が左右対称に一つしかなく、一階建てほどの高さしかない。
 しかし一階建てといっても高さ三メートルほどで天井になっており、その上には何もない。
 側から観れば天井も平らに整えられており、四角い家とも呼ばれている。
 周りの家々よりも平たく目立つ造りとなっている。
 そのため収容出来る環境なのか怪しいとも言われている。なぜなら頑丈な壁とはいえ、そこは一枚の壁でしか外界と隔離されていないのだから。
 しかしそれは周りから観た印象であり、実際はそんな事はない。
 上(・)は看守や警邏などが交代制の間の休憩兼、受刑者達が脱走していないかの監視を担う場所となっている。
 そしてその下、地下に彼ら犯罪者が収容されている。
 ここベガの王都ではさほど牢獄を用意しておらず、ほんの地下十階層分の分けしかしていない。
 これは犯罪者の罪の重さによって階層分けを行うシステムとなっており、殺人などでも六、七階層くらいにしか収容されない。
 それより下は殺人だけではない罪を犯した者らが入る場所なのだが、近年そこへの収容者が少ないためこのシステムの廃止が検討されている。
 ちなみにだが、下階層へ行く毎に階層は小さく、より強固に厳重に造られており、また、償いの大きさも変動する。
 地下一から五階層までは地球でも同じように刑務作業が割り当てられる。
 しかしほとんどが地下での作業となっており、日の光を浴びる事は滅多にない。
 これは監視システムに問題があるからだ。
 地球のように監視カメラや警報などが存在すれば地上での作業もあったのだが、ない以上は人の目で見張るしかない。
 そのため身体が弱る者も多々現れる。
 しかしこれはかなり可愛い方と言われている。
 地下六から七階層、つまり殺人などを犯した者らには上記の作業に加えて食事の削減に、強制的なトレーニングをさせられる。
 なぜトレーニングかと問われるが、食事制限に加えそこは地下六から七階層。
 そしてこの堅牢署はあえて酸素供給を下へ行く毎に薄くしている。
 つまり動けば動くほど身体に負荷がかかるシステムなのだ。
 そして地下八から九は、上記の内容に加えてさらに食事の削減、ここまでくると食事はパン半分ほどと水くらいである。
 これで生きていける者は数少ない。
 そのため、この制度(システム)はどうなのかという意見が多発しているのも廃止の理由の一つだ。
 そして最後の地下十階層では食事制限以外の上記の内容は与えられないが、代わりに一切の光が奪われる。
 しかしそれは目玉をくり抜くという意味ではなく、完全に光が入らない独房に収容されるというだけだ。
 ここで過ごした者は片手で数えられるほどしかいないのだが、全員が精神崩壊を起こした。
 確かに食事は出されるのだが、特別なルートを使って通されるため独房の中は暗いまま。
 しかも何も見えないほどの暗さのため、いつ食事が出されたのかも気がつけない。
 一度だけタイミングが合った受刑者がいたが、その際に糸が使われていたと叫んでいたが、それが現実なのかどうか定かではない。
 聴こえる音は遠くの方の地下水がリズム良く滴る音くらい。
 だが聴こえたからといってそこへ辿り着くための方法は彼らは持ち合わせていない。
 この地獄のような場所を看守や受刑者らは『孤独の死部屋』と呼んでいる。
 そしてそんな地下十階層には数ヶ月ほど前から一人の受刑者が収容され始めた。
 暗闇で見えはしないが、その男の手の甲には猪の痣がある。
 名を“ラグナロ”といい、ボアアガロンのボスと称されていた男だ。
 ここに収容されたのは彼の築いていた組織、ボアアガロン事、正式名称『青のボアアガロン』という。
 その組織でのこれまでの犯罪なども重罪なのだが、それでも彼が地下十階層に行くには足りないかった。
 ここに収容されている一番の理由は、彼の眼にある。
 今は眼帯を着けているが、その下には恐るべき力を宿した魔具がある。
 その魔具の力を発揮させないために、彼はここに収容されているのだ。
 光さえなければ、彼のその魔具の効果は発揮しない。眼帯を着けているのはそのためだ。
 そんな彼が独房で暇している時だった。地下水の音以外聴こえていなかった耳に、遠くから複数の足音が近づいて来ているのが届いた。
 それに不信感を抱く事なく彼は、不敵な笑みを浮かべた。



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