異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します
森の中腹、そして冒険者
全員に作戦を告げ、賛同されたので面々は即行動へと移った。
東は先ほど言われた通り一人でコマチュリ草を探しに村側の森へ、ニーナたちは少女を追って村の反対側へ。
森の中とはいえサナやニーナの鼻は効く。
二人を先頭に全員で少女の後を追いかけ、一分もしないうちに少女を遠目で確認出来た。
「では皆さん、予定通りに」
ニーナがそう言うと全員は頷き散開する。
ニーナだけはそのまま走り続け、少女へと追いつく。
「ま、待ってください!」
しかし分かっていても先ほど知り合ったばかりの相手に声をかけるのは少々気が引け、つっかえてしまった。
それは彼女にとっていつものこととはいえ恥ずかしい気持ちになる。
まさか、と思い少女は背後を見る。
そこにはあと少しで自分に追いつく距離にいるニーナ一人が映る。
予想以上に早く追いつかれてしまったことに少女が驚愕しながらも、ニーナから距離を離すため走る足を止めずに走り続ける。
さらに途中で方向を変えたりして、進行方向を読ませないように走る。
彼女は普段、ここのような森の中腹辺りまでは来ない。
それは単に魔獣と出遭わないようにするためだ。
しかしそんな彼女だが薬草や山菜などの採取のために頻繁に森には入っている。
そのため周りよりも森の路に慣れている。
なので今回はそれを活かして、どうにかニーナを撒(ま)こうとしていた。
「うぇっ ︎」
そのため彼女は非常に驚いた。
先ほどと大差ないほどの距離にニーナの姿が見えるからだった。
その瞳は確実に少女を捉えている。
少女は昔、薬草を探しに村側の森の中腹手前まで来た際にトンドンカエルに出遭ってしまった。
冬眠から明けたばかりのトンドンカエルは餌を認識し、追いかけ始めた。
当然この時も香は使っていた。それでもトンドンカエルは追うのを止(や)めなかった。
本来、蛙(かえる)は嗅覚が良い。種の中には来た道を匂いで憶えている者もいる。
ではなぜ、少女を追ったのか。
多分だが少女が集めていた草の中にトンドンカエルの好物か何かが混ざっていたのだろう。
そう、後に少女は推測した。
話を戻すが、少女はトンドンカエルが動き出すよりも先に逃げ出していた。
当然である。
トンドンカエルは成長すれば人間一人くらいなら丸呑み出来てしまうほどの巨体だ。
そんなのを見つけ、さらには見つかってしまったのだ。
何の戦闘の術を持っていない彼女は逃げるしかない。
その際に少女は先ほどニーナにしたように自分の進行方向を悟らせないように不規則に方向を変えて走った。
しかしそれは半、自棄の行動でしかなかった。
それでも無事に逃げ切れたのだから彼女は運が良かった。
だが、その会心の策もニーナには通じなかった。
それはニーナの足が速いことにあった。
巨体のトンドンカエルが追って来た際はその足の遅さのおかげで撒くことは出来たが、ニーナは普通の獣人。
その身体能力の高さはサナたちほどではないが十分にある。
そんな彼女から逃げ切るのは少女には不可能に近かった。もっとも、匂い消しの何かを用いていれば撒けた可能性はある。
ニーナだけなら。
「や、やっと追い付きました」
数分もしないうちについに少女はニーナに追いつかれてしまった。
少女は肩で息をしているのに対しニーナはさほぼ息をきらしている感じはない。
その時点で身体能力や体力の差に大きな開きがあるのが窺える。
「な、何しに...はぁ、はぁ、来たのよ!っん.....あなた達に時間かけていられないってさっき言ったでしょ!それでもまだあたしに文句を言いたいの!ふぅ、ひぃ、ふぅ....」
そう息を荒げながら少女は言う。
「ち、違います!あ、貴女一人だと危ないと思って──」
「ならとっとと魔獣達を殲滅してきなさいよ!そのための冒険者でしょ!あたしは一人でも探せるんだから、関わらないで!」
「ひ、一人で探すのは大変ですよ。わ、私達も手伝いますから、一緒に頑張りましょう」
「そう言ってどうせ後から報酬を要求して来るんでしょ!冒険者なんてみんなお金の亡者よ!」
「そ、そんな私達は....」
「違うって言いたい訳?もう騙されないわよ!そう言って今までの冒険者は勝手に付きまとって、頼んでもいない事を勝手にやって私達から物を奪って行った!断っても暴力を振るって来た!なのに肝心な時にはいなかったそうじゃない!それが冒険者なんでしょ!そんな信用出来ない奴らと行動する訳ないでしょ!」
「じゃ、じゃあなんで最初、私達の事を信じたんですか?」
「勝てないからよ、あのマダルノ蛇には。この森の長として生息しているマダルノ蛇の夫婦には勝てないって知ってるからよ!アイツらは希少種だからね」
「 ︎」
ニーナは少女の言葉に驚いきを隠せなかった。
自分たちを嵌めようとしていたことにも驚きと悲しみはあるが、それよりもその先の方が驚愕だった。
希少種のマダルノ蛇、つまり毒霧を使えるマダルノ蛇ということだ。それが二体いる。
それがどれだけ危険なことなのかを理解しているからだった。
これはすぐにでも対処しないと村が危険です。むしろ今まで被害が出ていないのが奇跡です。
そうニーナは思った。
「な、なんですぐにギルドに言わなかったんですか ︎」
「信用出来ないって言ってるでしょ!」
「し、信用出来ない人もいると思います。で、でも冒険者の全員がそんな人ばかりではありません!そ、それにそんな危険な魔獣達なら、ぎ、ギルドはちゃんと処理してくれる冒険者に依頼します!」
「ふんっ、あんな化け物達に勝てる奴なんていないわよ!」
「あ、アズマさんなら勝てます!例え希少種のマダルノ蛇でも!」
「あの男が?ふっ、笑わせないで。私達の村に来てた冒険者の方がまだ強そうだったわ。あんな男にマダルノ蛇を倒すなんて無理ね。むしろ倒したって嘘をついて報酬を要求してきそうだわ」
「!」
その言葉にニーナは怒った。
「アズマさんはそんな人じゃありません!アズマさんは困っている人がいたら例え自分が危険な目に遭っても助けてくれる優しい人です!それに弱くもありません!アズマさんは一年ほどで銀ランクに冒険者になりました!それにダンジョン攻略者でもあります!」
「ダンジョン攻略者 ︎」
少女はニーナの聞き流せない言葉に反応し驚いた。
噂に聴いていた者が自分の想像よりも小さく、弱そうであり、先ほどバカにした男なのだ、それは驚く。
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