異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

理由、そして方法を

 
 ユキナの思わぬ発言にしばらくの間固まっていた彼らは数十秒ほどで我に返った。

「な、なんで....いきなり?」

 その間続いていた沈黙を破り、今なお覚悟と不安が入り混じっているユキナに訊く。

「エルフ、は珍しい魔、道具を持っ、てる、の。だからそれ、でリリー、が助けられ、るかも」
「....エルフが珍しい魔道具を有しているって話は聞いた事がないわ」
「確かにね。ニーナ、何か知らない?」
「私も聞いた事ないよ。固有能力に長けている、ならよく耳にしますけど」

 キリにサナ、そしてニーナも首を横に振る。
 生活が安定してからちょっと値は張るがこの世界についての本を数冊買っては読み漁っているがそれでもそのことは俺も知らない。
 しかしそれとは正反対にユキナは小さく首を縦に振った。

「知らなくて、も無理な、い。元も、と口外さ、れてない、し、してないか、ら」
「なんで?」

 それに対して俺は素直な疑問を口にする。

「.....奴隷商人やその回し者からの捕縛の可能性を下げるためかしら?」

 しかし俺の疑問に答えたのはキリだった。
 彼女の意見にユキナが首を縦に振る。
 そうか、地球にいた頃エルフって色々な話の中で奴隷として描かれている物が結構多かった──偶然です──。
 だからそれはこっちでも同じなのだろう。
 ましてや珍しい魔道具を持っている、なんて噂が立てばエルフ狩りが加速する恐れがある。
 待てよ。珍しい魔道具ってもしかして魔具?...だとしたら秘密にもする。
 それにもしそれが本当に魔具だとしたら──エルフは危険な存在なのかもしれないな。
 しかしこの秘密を明かすのはエルフという種族にとって脅威の何者でもないはず。それは彼女も理解しているだろう。
 それが彼女の覚悟。
 .......だと思うのは大間違いにもほどがある。
 確かに自分と同じ種族が危険に晒(さら)されるような情報を流すのには覚悟、そして相手への信頼がいる。
 しかしユキナが抱いている覚悟はその覚悟の数倍、数十倍以上の重みがある。
 俺も詳しくは訊いていないがそれでも彼女の語った話からそのエルフの人々の怖さ、恐ろしさなどが想像出来た。
 その感情を抱いていてなおもユキナはエルフの里へ行くと言い出したのだ。
 可能性の低い賭けを冒してでも、他でもない仲間(リリー)を助けるために。

「本当に、良いんだな?」
「.....」

 その問いにユキナは厳かに頷いた。
 彼女がここまで覚悟を決めているんだ。ならそんな危険かもしれないエルフ里だろうと、行くしかないだろ!
 そうと決まれば善は急げだ。
 まず人選だが俺は当然行くとして道案内役としてユキナもぉ....って、

「そういえばユキナよ。場所知っているのか?エルフの里の」
「うる憶、え.....」
「あちゃー」

 まあ仕方がないよな。彼女の話だとほとんど家から出なくて、逃げる際は森を適当に走り続けてさらに知らない女性によってハドルフへと運ばれたそうだ。
 なので正確な場所までは本人も不明とのこと。
 初っぱなから出鼻を挫(くじ)かれてしまった。
 ゲートは一回行った場所しか繋げることは出来ないし、おおよそでは『千里眼』を飛ばしても情報を攫(つか)めるかは怪しい。
 神様に頼る、は今は論外。
 となると無難なのは聞き込みかな。でもエルフの里の情報がすぐに手に入るかどうか。
 リリーが船で連れて行かれると考えて、猶予は約十六日間。それに見切りを加えれば十七か。
 いや、それは船によるか。
 今の基準はあくまで俺らがアンタレス王国に行く際にかかった日数だ。しかも船は大勢と物資を乗せるための荷物船。
 もしそれとは違う船で行くと考えると十日もないかもな。
 どうしたものかと思い、キリに視線を向ける。

「私の能力だと方角は分かるけど正確な場所までは分からないの」

 視線に気がつき、そう少し悔やみの声で答えるキリ。
 キリの能力は的中率の高い『直感』。しかしそれはただ“なんとなくそこにある”という感じらしい。
 なのでなんとなくそっちにある、と方角は分かるらしいが地図でなんとなくここら辺にある、とは分からないそうだ。
 彼女の能力は彼女自身も詳しくは理解出来ていない能力らしい。
 そういうことなので分かって方角までなのだ。いやそれだけではない。
 近ければさらに詳しく分かるらしい。そこら辺も曖昧な能力らしい。
 だから“なんとなく”なのだそうだ。

「いや、それだけ分かるだけでもありがたい。その方向を基軸に探せば見つけ易くなる。だからそんなに悔やまないでくれ」
「そう言ってくれると、嬉しいわ.....」

 キリの能力は本当に助けられる。

「とりあえず支度を済ませて探しに行こう。出発は約三十分後!必ずリリーを助けよう!」
「ん!」
「ええ」
「もちろん!」
「はい!」

 全員が威勢よく答える。
 その瞳には燃える意志を映している。


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