異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

決勝戦、そして敗北

 
 準決勝が終わり再び一五分の休憩がもらえた。
 日はもう時期暮れかけている。そのためか兵の人たちが大量の松明を持って来て、周りに設置し始めた。
 多少は明るくなったがそれでもしっかり見えるという訳ではない。
 これだと観客も苦労するんじゃ.....そういえば獣人って人間よりも眼が良いんだっけ?夜行性の動物は暗闇でもだいたいは観えるそうだからもしかしてちゃんと観えているのか?
 俺は悪いとは思いつつも魔眼を常時発動させてもらおう。うん、よく見える。
 そんなことを考えていると松明の設置と舞台の沈下が終わり、休憩時間の一五分が経過した。
 経過する一、二分前に準備をするように司会者が叫んだので舞台に上がり開始を待っていたらアシュが舞台に上がったとほぼ同時に司会者が叫んだ。

「それではこれより決勝戦を行います!アズマ選手対アシュ選手!....始め!」

 審判がそう叫ぶ。
 開始の合図がかかったがアシュは動こうとしない。だがやはり隙はない。
 さて、どうするか。キリやサナたちのおかげでアシュがどれだけ強いのかはだいたい分かった。
 イケるかは分からないが少し本気で行ってみるか。そう決めて勢いよく地面を蹴った。その際、地面に少しヒビが入った。

 ______________

 観客、アルタイルの王、王の護衛役の兵士、司会者、審判、雇われていた冒険者、それらが今の当たりにしていることに驚愕の表情を隠すことが出来なかった。
 これらの人たちはこの大会を幾度となく観て来た者ばかり。しかし今、そんな彼らの目の前に起こっていることは今まで彼らが観たことのない現実だった。

「ふっ」
「...」
「....ふっ」
「ん」
「はあぁっ!」
「んんっ!」

 俺の右ストレートを顔を横に反らして躱し、続いて俺はフェイントを数回入り混ぜてから裏回し蹴りをするがそれも右腕で払い除けられた。
 弾かれた脚を無理矢理横にやり身体を回転させ、強めのかかと落としを落とすがギリギリのところで腕をクロスさせてガードされた。
 ガードの上から叩き込んだ踵落としの威力が強かったため、アシュの足元が少し砕けた。しかしアシュ自身には大したダメージは与えられていないようだ。
 攻めたり、攻められたり。防いだり、防がれたりとさっきからそれの繰り返しである。
 数回ほど地面を蹴り、勢いよく殴りかかったがそれも躱されたり、払い流され威力を減少されたりもした。
 互いの攻撃の威力はかなり高いのか数回地面を砕いている。
 さらに一回の攻撃や避けの速さ、間合いの詰めなどが今までの大会参加者たちより何倍も速い。
 そんなものを目の当たりにすれば驚愕するのも当然と言えるだろう。
 観客の中には「あり得ない....」、「何が起こっているの?」、「え?....」などと独り言を呟く者たちも現れ出した。
 そんなことはお構いなしに舞台の上に立つ二人は自分の持てる技を繰り出していた。

「ふっ」
「...」
「くっ」
「ふっ」
「ん、...はあっ」
「んっ」
「ん ︎」

 ジャンプからの二段蹴りを打つが片足を払われ、もう片足を掴まれかけたが身体を捻ってそれを回避する。
 着地したと同時に相手の拳が俺の目の前まで来ていた。それを下から上へ掌底しょうてい打ちの応用で左手で払い上げる。
 そして払い上げてからすぐに一歩踏み込んで右アッパーを仕掛けるが蹴り先に打ち込まれた。
 ギリギリ左腕でガード出来た。おかげでジンジン痛むけど折れてはいないようだ。
 蹴りの威力で四メートルほど吹っ飛ばされた。
 しっかし強いなぁ、今まで会って来た誰よりも強い。俺の攻撃も数発当ててるがほとんどが効いていないようだし勝てる見込みが全くない。
 最初は少しの本気で様子見だったが気づけば本気でやっていた。多分本能が命じたんだろうな、「本気で行け」って。
 ま、本気で行ってもこのザマなんだけどね。
 試合開始からどのくらい経ったのか分からない。既に日は沈んでいるから多分周りはかなり暗くなっているだろう。
 今日に限ってなのか空は曇っているため夜空は見えない。そのためより真っ暗なはずだ。
 相手が獣人とかならだいたいは見えているのだろうが、普通の人間なら全くのはず。
 あの仮面とローブの下には普通の人間の顔か、それとも目の効いた獣人の顔なのか、少し興味がある。
 しかし仮面を着けるのは顔を知られたくないからかそういう趣味か。何にせよ他人が隠していることを無理矢理引っぺがすのは気が引ける。
 だからやらない。ま、悪人とかなら別だけど。

「...ふっ」
「ふんっ」
「!」
「ぐっ ︎」

 相手が一気に間合いを詰めて来てそのまま左足の回し蹴りを肘と膝で挟もうとしたがもう片足の軸をズラして回し蹴りの距離とタイミングを変えられた。
 無防備になっていた横腹に強い衝撃が走った。
 一旦距離を取ろう。
 ジャンプして後方へ下がる。追って来るかと思ったが追って来ない。気づかれたようだ。
 だいたいの相手なら自分が優勢の状態で相手が後方へ逃げれば追ってトドメを刺しに来るやつが多いだろう。
 俺だって追う。
 だがそれはあくまで相手が何の反撃策もなく後退した場合だけだ。
 もし今相手が追って来たのなら即迎え撃つつもりだった。しかもこちらは万歳の体勢でだ。
 この距離を追って来るには走ってから、飛んでだ。その際相手は動きやすい体勢ではあるが一時的に身体を動かすスピードが万全の体勢より遅れる。
 そこを突こうと反撃し易いように一気にではなく小刻みのジャンプにしたのだが、これで感ずかれたのだろうか。
 それも僅かな時間で。
 いやはや、本当に強い。勝てる自信など皆無だ。
 しかしなぜだろうか。俺が勝てる見込みなどない相手だと思うとなぜか....楽しくなって来た!
 口角も吊り上がっているのが分かる。
 よく漫画とかでも秘策などを持っている者が笑っているシーンがあるけどそれとは違う。秘策何てものを俺は持っていない。
 となるとなぜ楽しいのか検討もつかない。だから気にしないでおこう。どう考えても分からないからな。
 それに今は....勝てないからって諦めるのも悔しいんでね。
 そう決めて地面を蹴って一気に相手を自分の間合いの距離まで詰める。慎重に、反撃されないように。
 相手の攻撃を避け、払い、喰らい、こちらの攻撃を避けられ、払われ、喰らわせて。その間も楽しくて仕方がなかった。
 そして俺は避けた手刀で帯を切られて負けた。

「異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く