異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

贈り物、そして山賊

 
 グルメ会が終わった数日後。ついにキリの装備が出来上がった。前と同じ装備だがやはりキリにはこの装備が似合っている。
 あれから宿屋甘味はかなり繁盛し始めた。カナさん曰くこの間のグルメ会でミルフィーさんが気に入った料理目当てにこの街の喫茶店に旅人やらなんやらが来ている。それで宿屋である甘味も繁盛しているとのことだ。
 しかし料理を作っていたのは俺なので喫茶店の人が作れるはずがない。という訳で俺が甘味の厨房を借りて、カナさんと喫茶店イーストの亭主の娘にしてコック長のナナミさんにパエリアや他の料理もいくつか教えた。ナナミさんはグルメ会の日に風邪で休んでいたそうだ。出来上がって食べ切れなくなったらキリの出番という感じで1日教えた。そのおかげかとても賑わっていて朝からカナさんも忙しそうにしている。
 そんな中で俺とキリは1階で朝食をとっている。すると店の扉が開いた。
 カランカラン
 扉を開けると鐘が鳴った。

「いらっしゃ....え⁈」

 いつものカナさんの元気な声が途中で萎れ、周りの人が騒ぎ出したので俺とキリも扉の方を見る。そこには60代後半くらいの白い髭を生やし黒い背びれに赤い蝶ネクタイを着けた、まさに執事だ。ん?何でそんな人がここに?

「国王グラ・アルベルト・ドグラス様よりキリサキ・アズマ様をお迎えにあがりました」
「「「「「「 ︎」」」」」」
「.....はい?」

 執事の人が軽く腰を曲げて礼をしてから何かを言われて1階で朝食をとっていた人たちとカナさんが俺の方を振り向いた。みんなの顔は目を見開いて幽霊でも出たような顔だ。いや、1番驚いているのは俺だよ?

「それで、キリサキ様はどちらに?」
「えっと、俺...ですけど。何で呼ばれたんですか?」
「それは来てから話すとのことでございます」

 って言われても、怪し過ぎて信用出来ないって。

「それって本当何ですか?」
「はい」

 きっぱり言われた。どうしたものか。

「キリはどう思う?」
「え ︎わ、私は...東の好きにすれば良いと思う」
「うーん、ここから王国までどのくらいかかります?」
「15日くらいで王都に着きます。さらに半日で王城に着きます」
「じゃあ、とりあえず行ってみるか。ということでカナさん、俺たち1ヶ月くらい出かけるから宿はとっておいて。お金は先に渡すから」
「う、うん。分かった」
「キリ、すぐに出かけるから用意して来て」
「うん。分かった」

 キリは目の前にある朝食、俺がカナさんに教えて今日の朝食になったカツ丼を2杯平らげてから水を飲んで上の階へ駆けて行った。
 俺は流石に朝からカツ丼は無理なのでパンを2枚食べ終えて、皿をそのままにして俺も階段を駆け上がる。

 ______________

 15日も何もしないのは退屈だったので途中立ち寄った街で買った木材などを使って将棋盤やチェスを作り時間を潰した。
といっても、将棋やチェスの駒を正確に作るのは大変なので、将棋は正方形くらいの木の板にそれぞれに『王』や『金』と書いた物を。チェスに関しては直径3センチの円柱の頭の方にポーンなら『ポ』、ナイトなら『ナ』と書いただけの物で妥協した。
護衛で来ていた騎士の人に頼んで相手をしてもらったりもした。
最初はあまり良い顔をされなかったのだが、次第に子供のような表情になり、休憩になった騎士の人たちが次々とやっていった。どうやら気に入ってもらえたようだ。
 そして馬車に揺られてから15日目、ようやく王都に着いた。王都の広さは俺たちが出てきた街の10倍くらいありそうな大きさだ。王都へ入る前の門で検問所があったがスルー出来、街中を馬車で駆けて行く。流石に注目がすごい。
 そして数時間して王宮の門の前でも検問所があったがまたしてもスルーされた。高さ7メートルくらい横4メートルくらい門が開き馬車が中へと入って行く。王城はうん、まーとにかく大きい。
 馬車は扉の前で止まって馬車の扉が開いた。将棋盤とチェスを宝物庫に仕舞ってから馬車を降り扉をくぐって王城の中に入る。真っ赤な絨毯(じゅうたん)が敷かれた、吹き抜けのホール、その奥には正面中央から俺らがいる階へ伸びる階段は左右へと緩(ゆる)やかなカーブを描いて、天井には星のように輝く豪華なシャンデリアがある。照明には街の店などとは違い俺が持っている光の破片、雷光核が少し電球のガラスのような丸底フラスコの小さいやつで覆われている。でもあれって魔力で光るはずだけど、どうやってるんだ?

「国王様はこちらにてキリサキ様をお待ちでございます」
「はあ」

 俺とキリが通された部屋はこれまた広い空間で入り口のところから奥の階段の上にある周りの淵が金色で飾られた真っ赤な椅子、漫画やゲームで良く見る玉座のところまで真っ赤な絨毯が敷いてある。
 椅子にはどこか見たことのある、ブロンドヘアを携えたイケメンが座っており、雑誌などに載っていそうなほどイケメンなのだが、服装がとても違った。
 青い生地に交互に1つずつ6列くらい金色のボタンが縦に等間隔で並んでおり、横1列ごとに横長の円があり、腕の手首くらいのところにも同じ装飾がされていた。
 服の真ん中から縦に割れており、その縁も金色の布で分けられている。
 側に、黒色のスーツのズボンを履いている人が座っている。
 その周りに何人かの人がいる。さらに数人の騎士の人もいる。
 あ、やばい!俺礼儀とか知らないぞ。どうしよう。
 王様の近くまで行くとキリが昔見た忍者のようにかがんで右膝と右拳を地面に突いて頭を下げていたので、その横で俺も同じよう真似る。

「キリ・ヘルクレット。招集に応じまして、参りましてございます」
「桐崎 東。招集に応じまして、参りましてございます」

 何をしたら良いのかが分からないのでとりあえずキリの真似をする。

「うむ、遠いところ良く来てくれた。護衛の者も大儀であった」
「「「ははっ」」」

 低いながらも優しそうな声がかけられる。
 パチンッ!
 指を鳴らしたような音が聞こえた。何だ?

「久しぶりだね、東くん」
「え?」

 王様の言葉に思わず顔を上げてしまった。久しぶり?

「忘れたかい?君をこの世界に転生させた神様だよ」
「.....え?ええぇぇぇぇ ︎」

 王様の顔をもう一度はっきり見ると、確かにあの時俺を呼んでこの世界へ転生させてくれたイケメンの神様だ。
 
「な、何で神様がここで王様やってんの?...あ!いやキリ!これは、あの、その」
「.....」

 神様のことを弁解しようとしたがキリは頭を下げたまま全く以って動かない。どうして?

「大丈夫だよ。今は私の力でこの王城だけ時を止めているから、他の誰にも聞かれることはないよ」
「よ、良かったー。早く言ってくれよ」
「はははっ、すまない」

 この人は相変わらずだな。

「全く、んで何で俺を王城に呼んだんだ?」
「家臣たちには本当のダンジョン攻略者として呼んでいるけど、実際のところは私の暇つぶしで呼んだんだよ」
「そんなことで一般市民を王城に呼ぶなよ。みんな驚いてたからな?」
「はははっ、私たちの仲じゃないか」
「あのなー」

 本当にこの人が神様なのか疑うよ、全く。...あれ?さっき気になることを言わなかったか?

「本当のダンジョン攻略者ってどう言うことだ?確か俺とキリが攻略する前にここの騎士団たちが攻略したって聞いたけど」

 まー、あいつらは20階までだけど。

「ダンジョンは40階層まであるが帰って来た騎士団はその半分、こんなことは公に公表出来ないんだよ」
「ん?何でダンジョンが40階まであるって知っているんだ?」
「そこはまー、神様の力で」
「おいおい」
「流石にこんなことじゃ信じてもらえないからちゃんと『王家に伝わる書物』って感じの本で家臣たちを納得させたんだよ」
「それ、ほとんど洗脳じゃね?」
「気にしない、気にしない」

 この神様、怖い。

「実はダンジョンを攻略したと言って戻って来た騎士団たちはこの国の落ちこぼれと言うか国の騎士団だからと言って影でかなり好き放題やっていてね。それで騎士団の団長が注意をしようと思ったのだが彼らはまあまあ良いところの出で父親がその悪事を揉み消してしまって証拠がないんだよ。だからそんな彼らは周りから浮いた存在となった。それで彼らは自分たちがダンジョンを攻略すれば文句はないだろと思ったらしく、その落ちこぼれたちでつくった騎士団がダンジョンに向かった訳だ。それで多くの犠牲を出してドヤ顔で帰って来たから40階まで行ったのかと聞いたら、はいっと答えてね。それで攻略した証を見せろって言ったらそれっきり黙り出して終わったけどね」
「攻略の証って?」
「あれ?アズマくんにもついていると思うよ。証は身体のどこかに現れるらしいけど。私の力で光らせてあげるよ」

 パチンッ!
 神様がそう言うと指を鳴らした。すると俺の左の二の腕の上ら辺が青白い光を発したので服を脱いで左の二の腕を見ると青白い光が止んだ。そしてそこには赤い直径6センチくらいの円、そこに五角形の印の中にこれまた赤い塔の絵とその塔をの前で二本の剣をクロスされている紋章があった。

「これが攻略の証?」
「そう、だよ。調べるの大変だったんだよー。この世界にあんまり興味がなかったからさー。アズマくんが来なかったら私も王様何てやっていなかったし」
「そう、ありがとう」
「冷たいなー」
「それで帰って来たその騎士団たちと騎士団長みたいなやつは?」
「恥をかいたのと勝手な行動で騎士団の多くを犠牲にしたから2週間くらい鉱山送りにしたよ」
「まー、あのおっさんのことだからちゃんとやるかな?」
「ぶっ!ははははっ!」
「どうしたの⁈」
「いや彼をおっさんって、いや分かるけどね。彼まだ21だよ」
「えっ ︎」

 あの見た目で21なの⁈ってきり40代かと。

「それと鉱山では強制労働させられるから、まずさぼることは出来ないよ」
「そうなんだ」
「さてと、そろそろ本題に入るね」
「本題あったのかよ ︎」

 全く何なんだよ、この神様はさー。

「本題と言っても、ダンジョンをクリアした君へのご褒美でもあるんだよ。これだ」

 そう言って神様が自分の懐から銀色で装飾が付いていない直径10センチくらいの指輪を出して見せてきた。

「結婚でもしろってか?自分は結婚してるからって。嫌味のつもり?」
「違うよ。これはこの世界の魔素と私の神の力を使って作った指輪、能力的に『ゲートリング』とでも呼ぼうかな?」
「ゲートってことはどこかへ飛べるの?」
「その通り。ただし条件があって、まず所有者が訪れたことのある場所であること。次に所有者の魔力が持つところまでしか飛べない。この2つが条件だね」
「結構便利だけど、良いのか?俺がもらっても」
「神様が嘘ついてどうするんだよ」

 洗脳みたいなことしておいて良く言うよ。

「あと、流石に王様が一般の冒険者に特別なアイテムをあげるのは問題とかがありそうだから、これは王としてではなく大人としてご褒美でアズマくんに贈るよ」
「ど、どうも」

 果たして受け取って良い物なのか?これは。とりあえず受け取った。

「さて、そろそろ時間を戻すよ?」
「ああ、分かった」

 俺はさっき自分がいたと思うキリの隣へ戻り膝を突いて頭を下げる。相手が神様とは言え、この人に頭を下げるのが何だか気に食わない。

「それじゃあ、これからちょくちょく呼ぶからよろしくね」
「は?」

 パチンッ!
 今何て言ったと聞こうとしたらその前に指を鳴らされてしまった。
 そしてその後は攻略の証を見せろと言われたので服を脱いで紋章を見せる。キリは別室でメイドさんに紋章の確認をしてもらった。そしてなんか褒められて馬車で帰された。
 ちなみにこの後東がキリの紋章は右太ももの横くらいにあることを知るのだがこれはまた別のお話で。

______________
 
「ヒィー...ヒヒヒィー!」
「このっ!」
「おっと、おらっ!」
「ふっ!」
「こっちだ!」
「ぐふっ ︎」
「くっ!」
「おらっ!」
「おらっ!」
「くっ!がっ ︎」

 馬車が急に止まり外から剣と剣がぶつかる音や気合いの声やうめき声が聞こえて来た。これって

「大変です!」
「急にどうしたのですかっ⁈」
「山賊が現れました!」
「「「なっ ︎」」」

 神様から指輪をもらい翌日王都を出てから3日目、俺たちの乗る馬車が護衛の騎士より多い数の山賊に襲われたようだ。

「くっ、キリはここに」
「私も行くわ」
「...分かった、行くぞ」

 そう言い俺とキリは馬車を急いで降りる。

「キリサキ様!ヘルクレット様!危険です!お戻りください!」

 執事の人の忠告を無視して俺は1人の騎士が3人の盗賊に囲まれているところへ向かう。キリは違うところへと駆けて行った。
 山賊たちはあまり良い服とは言えない服を着ていて、全員手に剣を腰に短剣を刺している。

「へへへっ。死ねぇぇぇ!」
「くっ!」
「グェッ ︎」
「何、だぁっ ︎」
「ぐふっ ︎」

 バタッバタッバタッ!

「...え?」
「悪いけどこいつら縛っておいて」
「は...はい」

 気絶させた山賊たちを騎士の人に任せて次の山賊のところへ走る。
 10分くらいかかったかな?山賊全員を主に俺とキリで気絶させ、全員まとめて縛り上げられた。護衛の騎士の人たちも山賊の人数差がかなりあったのに怪我を負った人は3人しか出なかったのだからすごいと思う。
 怪我をした騎士の人たち怪我は俺が治癒核を使って治した。結構ざっくり切れていたのに治せるんだから、この治癒核は万能だと思う。
 捕まえた山賊たちは早馬を王都に走らせて警邏を呼びに行き、騎士を二名置いて俺達の乗る馬車はそのまま王都へ向かった。
 ただ再出発する前にスザクさんに「危ない真似は控えて頂けますでしょうか。私共はお二人を御守りするのが任務ですので」と静かな説教を受けた。ごもっともです。
 再び走り出した馬車の中には護衛の騎士の1人のラインさん、俺、キリ、執事のスザクさんの計4人でババ抜きをしている。トランプは王都で画用紙を買って、それで作った。

「はい、次はラインさん」
「むむむ....これだっ!いっ ︎」

 あ、ババが行った。
 ラインさんは17歳でこの仕事を任されたそうだ。しかし仕事は出来るようだがポーカーフェイスは苦手のようで、自分の手札を見なくてもババが行ったことが分かってしまう。

「くぅー、それではヘルクレット様どうぞ」
「うーーん、これっ!やった!揃った!はい、スザクさん」
「それではこれを、あ!揃いました」

 キリは運が良く、スザクさんは神様(おうさま)に仕えて今年35年らしい。なので歳の勘が良いらしく現在、キリが残り3枚、スザクさんが残り5枚、俺が残り6枚、ラインさんが7枚とババ1枚の計8枚という状況だ。

「それでは桐崎様の番でございます」
「うーん、これ。いや、こっちにしよう。あらら」

 悩んだあげく選んだカードも変えたのにはずしてしまった。残念。

「はい、ラインさんどうぞ」
「うぅぅぅ...これだっ!良しっ!」

 手を右へ左へと動かして選んだカードが揃ったようだ。
 ていうか、ラインさんって俺と1つしか変わらないのにテンションが高いな。確かこの世界にはあんまり娯楽がないようで、こんなゲームは珍しいらしい。

「はい!ヘルクレット様!」
「じゃあー、これ!やったー!揃ったー!」
「おお、ヘルクレット様が1番最初ですか。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「おや?揃いましね」

 カードが揃って残り1枚になったキリが大声で喜ぶ。それを笑顔で祝杯の言葉を送るスザクさん。さらにスザクさんもカードが揃いスザクさんの手のカードが減る。
 そして読み合いは続き、結局1位キリ、2位スザクさん、3位俺、4位ラインさんとなった。
 すると馬車が止まった。

「ライン!交代だぞ!」
「あ、はい!分かりました!それでは、私はこれで」
「お仕事頑張ってくださいね」
「ありがとうございます。ヘルクレット様」

 馬車の馬を扱っていた騎士の1人が後ろで休んでいたラインさんと交代した。
 交代した騎士の人は髭がやや伸びた30代前半くらいだ。こんな感じでトランプや将棋やチェスなど色々やっていって俺たちが旅立った街へと着いた。

「ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ楽しませていただきましてありがとうございました」
「あのスザクさん、ちょっと」
「?」

 俺はスザクさんにある提案をする。提案と言ってもゲートリングを使って、一気にショートカットをしようというだけだ。また15日もかけて戻ってもらうのも何だからである。
 ゲートリングを発動させると俺から1メートルくらい離れた空中に穴が空いた。顔を出してみるとそこにはこの間まで俺たちが行っていた王城の階段が見えた。なるほどこういう感じなのか。
 王都の少し前のところを思い浮かべて魔力量を減らしてゲートリングを発動させるとちゃんとそこに穴が空いたので穴を大きくして馬車に通ってもらう。神様が安全と言っていたから大丈夫だと思う。
 信用せず、なかなか進もうとしなかった騎士もいたが何とか通ってもらえた。
 ただ通った後の周りの反応が驚愕と呆けている感じがした。
 うーん......反応からしてこういう転移系の能力っていうのは珍しい、もしくは認知されていない可能性が高いな。
 そうなると信用できる人の前以外ではあまり使わない方が良いな。あとで色々問題が起きても困る。
 今回は事後なので仕方がない....としよう。とりあえず口止めだけはするけど。意味あればそれで、なければ後の自分に任せよう。

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