短編︰東方禁恋録

乙音

第22話 最期の想い

「黒幕が……藍夢……?!」

「そもそもさ、私は皆とは違う世界の人間なんだよ。
外の世界の人間。
普通の子供だった。」

「藍夢が……外の人間??!」

「でも、私には変な力があった。
それがこの能力。」

「それで、私はみんなから退け者にされて、
毎日暴言を吐かれて、ろくに食べ物も与えられなくて……。
やがて両親にも捨てられ、寒い道をさまよってた。
でも、そんな生活にも当然限界が来て、もう死ぬ寸前だった。
だから、最期にいい夢を見ることにしたんだ。
その夢が、ここ。」

「幻想郷が夢の世界なんてそんなわけ……」

「いや、幻想郷は別にあるよ。
ただ単に、幻想郷ごと眠りについてしまっただけ。
その証拠に、レミリアとかさとりとか、色んな住民が消えて言ってるでしょ?
つまり、もうすぐこの偽の世界が夢から覚めるってこと。」

「じゃあ……この世界は……」

「うん。
もうすぐ壊れる。」

淡々と言い放つ私を見て、皆が有り得ないと言った顔になる。

「レミリア達はまだ、あっちの世界で眠りについてる。
皆が眠りから覚めた時、レミリア達も目が覚めると思うよ」

「…………」

「信じられないかな?
でも、本当なんだよね。」

「藍夢は、藍夢も本物の世界に、幻想郷に行けるんだよねっ?」

フランが心配そうに尋ねる。

「世の中、何も代価を払わず大きな力を得ることなんてできない。
魔理沙だって、魔法を使う時、魔力を消費するでしょ?
それと同じように、私も何か代価を必要とする。」

「代価……?」

「それは、私の寿命」

「…………!」

「これだけ大きな幻想を創るとしたら、
それなりの寿命が必要になる。
つまり、それほど大きな幻想を創ってしまった私は……死ぬ。」

「そんな……!
嫌だよ!私にとって藍夢は家族みたいに大切な存在で……だから……っ」

フランが瞳に涙をため、そう叫ぶ。
そんな風に言われると、私も別れが名残惜しくなってくる。

けど、私にはもう時間が無い。

「ありがとう、フラン。
でも……ごめんね。」

「どういうことだよ……藍夢……っ!!」

「ちゃんと説明しなさいよ……!!」

魔理沙と霊夢も、顔をグシャグシャにしながらそう叫んだ。

「ごめんね、二人共―
もうすぐ、時間みたい」

辺りを見渡せば、幻想郷―いや、夢の世界に
ヒビが入ってきていた。

もうすぐ、この世界は壊れてしまう。
だから、もう皆も元の世界に帰ってしまう。

「どうしてよ……!
藍夢っ!
私のそばにずっといてくれるって、そう言ってくれたのに……」

霊夢が泣きそうになりながら、そう零した。
そうだ、幼い頃に交わした、霊夢との約束。

ずっとそばに居ると、そう約束した。
でも私は、そんな約束さえ守ってやれないらしい。

自分の無能さに情けなくなる。
私は、みんなに何もしてやれていない。

だから、これは当然の報いだ。
今まで何もしてこなかった私への罰だ。

だから私は、それがどんなに辛い罰だとしても……受け入れるしかない。
それを跳ね除けるなんて、出来るわけないのだ。

「ごめんね、皆……。
もう、時間が無いみたい」

みんなの身体が透けていく。
世界がどんどんと割れていき、もはや原型を留めてすらいない。

もう、この世界は壊れてしまうのだ。

「皆と過ごした時間、本当に楽しかった。
ありがとう、皆。
最期にこんな思い出が作れて、本当によかった。」

笑顔でそういった、つもりだった。 

「あれ……?」

ぽとり、と涙が零れる。
泣かないと決めたのに、それでも涙が止まらなかった。

皆ともっと一緒にいたい。
そんな願いが頭の中で渦巻いて離れない。

ダメだ。しっかりしないと。
そう思うのに、何故か涙は止まらなかった。

「藍夢……!
藍夢もこっちの世界に行こうよ!」

そう手を伸ばす霊夢。
私は、今にも折れてしまいそうな細い手に手を伸ばし……そして、そっと押した。

「私はそっちにはいけない。
私がそっちに行くと、その世界もまた壊れてしまうから。」

「どうして……!!」

「そっちの世界でも元気にやってね。」

「私……絶対に、藍夢の事忘れない!!
ずっと藍夢は私の心の中にいるから……!だから!」

3。

「一つだけ、聞いてくれる?
ずっと言いたかったこと」

2。

「私、藍夢のことが……」

1。

「ずっと……」

霊夢が口を開きかけた瞬間。
皆が、パアアァ、と光になって弾けた。

「はは……皆、皆消えちゃった」

突如、物凄い喪失感に襲われた。
あんなに賑やかだった博麗神社が、シンと静まり返っている。

「皆……」

最期に霊夢が言った言葉。
絶対に忘れない。

でも、どうせ皆忘れてしまう。
だって、この世界は夢なのだから。

私はただの幻想で、皆の記憶には残らない。
いや、残ってはいけない。

皆、私のことを忘れてしまう。
……そういえば、霊夢は最期なんと言いかけたのだろうか。

もし、私が自惚れていなければ、こう聞こえた気がする。
『好き』だと。

……あはは、もう二度と会えないのに、
そんな名残惜しくなるような事言わないでよ。

今になって考えてみれば、私は霊夢が好きだった。
皆に愛され、堂々としていて、とても優しい霊夢が。

思えば、霊夢が私にとっての初恋だった。
でも、もう今更遅い。

だって私は、もう死ぬのだから。
段々と壊れていく幻想郷を見て、口を開く。

「大好きだよ、霊夢……」

◆◆◆

がばっ、と起き上がる。
何だか不思議な夢を見た気がする。

そうだ、すごく大切な人が出来たんだった。
初恋だった子。
 
名前は…………
そうだ。

「……藍夢」

END



これで完結しました〜!
結構短めでしたけど、どうでしたか?
感想とか頂けるとすごく嬉しいです!

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