短編︰東方禁恋録

乙音

第20話 霊夢の誕生日②

「とうとう、今日か……」
ボソリ、と呟く。

そう、今日が霊夢の誕生日、
そして夢から覚める日だ。

今日で全てが終わり―
そして、私が死ぬ。

そう考えると、決意を決めたはずなのに、
まだこのままでいたいと思ってしまう。

ダメだ。
皆のことを忘れないと。

このままじゃ、ずるずると
気持ちを引きずったまま別れることになる。

忘れないと、忘れないと……。
……忘れる?

霊夢との思い出も、魔理沙との思い出も、
フランとの思い出も、レミリアや咲夜なんかとの思い出も……?

楽しい、楽しい、幻想郷での
思い出全てを……忘れる?

無理だ。
私には、そんなこと出来ない。

私にとってみんなとの思い出は、
唯一の大切な物な訳で、それを忘れるなんてできない。

でも、忘れるしかない。
そう考えると憂鬱で仕方なかった。

どちらにしろ私は忘れるという選択肢
しかないのだ。

本当に神様は残酷だ。
私には、今まで幸せな思い出なんて無かったのに。

皆から虐げられて、暴言を吐かれて、
私はずっと辛い思いをしてきたのに。

なのに、ようやく手に入れた幸せさえも
私から奪うというのか。

本当に世界は不平等だ。
今この時、私が幸せを手放そうとしている時にも、誰かはいつもと変わらず幸せな日々を送っている。

私も1度でいいから、幸せな日々を送りたかった。
確かに、私は幸せな日々を送れた。

確かに、それを願って幻想を視た。
でも、それは一時の幻想に過ぎなくて、何時かは冷めてしまう夢。

いつかは手放さないといけない、
そんな幻想だったのだ。

永遠の幸せなんて願わない。
ただもう少しだけ、幸せな日々を送りたい。

いつか終わるのも承知した上で幻想を
見ることにしたはずだった。

でも、時間が経てば経つほど、
今までの時間が大切になってくる。

皆への思いも、皆との思い出も
時間が経てば経つほど濃くなって行く。

段々この幸せを手放すのが
名残惜しくなっていく。

この夢が一生覚めなければ、
これが夢でなければ……。

叶いもしないのにそんなことを想像して、
叶わないと分かれば落胆する。

そんなくだらないことを何度も
繰り返している。

自分でも馬鹿馬鹿しいとは思うけれど、
それ以上にこの日々を手放すのが惜しいのだ。

ああ、羨ましい。
霊夢も魔理沙も紅魔館や地霊殿の皆も……。

これからも皆と一緒にいられて、
楽しい日々を送ることが出来て。

出来ることなら私も皆といたい。
でも、私は外の世界の人間だ。

皆と一緒に居ることは出来ない。
ああ、いっその事神にでもなれたなら。

「藍夢〜?
準備出来たか〜?」

「あ、うん。
ちょっと待ってー!」

大声で尋ねてきた魔理沙に、
曖昧に返事をする。

もうすぐ、霊夢の誕生日だ。
沢山の妖怪達が、誕生日会の準備をしている。

咲夜や妖夢は食事の準備を、手の空いている妖怪は
飾りの準備を、萃香なんかは酒の準備までしている。

「よし、これをここにつけてっと……」

飾りの準備を終わらせて、
魔理沙の元に駆けていく。

「魔理沙、調子はどう?」

「ふふん、完璧だぜ!
まあたくさんの妖怪が集まってるからな。
食事もかなり出来たし、飾り付けも完璧だ!」

魔理沙にそう言われて辺りを見渡すと、
部屋にたくさんの装飾が施されていた。

「へえ、よく出来てる!
これなら霊夢も喜んでくれるかな」

「だろ!
何より霊夢の好きな飯も沢山あるからな」

テーブルを見れば、思わず涎が垂れてしまいそうなほど
美味しそうな食事が並べられていた。

「さ、流石咲夜と妖夢。
これなら絶対に喜ぶよ」

「そろそろ霊夢も買い物から帰ってくる時間だよな?
クラッカーの準備をしておくか」

「うん」

◆◆◆

暫くして、霊夢が帰ってくる音がした。

「魔理沙、もう帰ってくるみたいだね!」

フランがワクワクとした顔でそう言う。
手にはクラッカーをしっかり握りしめていた。

レミリアが居なくなってどれだけ落ち込んでいるのかと
思ったけれど、意外と大丈夫そう。

……な訳でもないかな。
どこか表情が固い気がする。

まあ、慕っていた姉が急に消えて、
冷静でいられるわけないもんね……。

「よし、みんな準備しろ!」

魔理沙が小声で合図をし、
部屋の電気を消す。

そして足音を消しながら
みんなで玄関に向かった。

「ただい……」

霊夢が扉を開け、そう言いかけた
瞬間に、大きなクラッカー音がした。

「わっ?!」

霊夢が目を見開く。

「「「「「「「「霊夢、誕生日おめでとう!!」」」」」」」」

「え……?!」

驚いた顔の霊夢を引っ張るように
魔理沙が連れていく。

「え、なにこれ!?」

ご馳走と、綺麗な装飾を見て
霊夢が驚く。

「今日は霊夢の誕生日だからな。
みんなで祝おうと思って。」

「皆……ありがとう!」

魔理沙の言葉に、
霊夢が泣いているような笑みを浮かべる。

その顔と言ったら、本当に嬉しそうで、
なんだかこちらも嬉しくなるような微笑みだった。

それ故に、どこか胸が苦しくなる。
何故なら、これからみんなにお別れをしないといけないのだから。

そう、大異変、神隠しの種明かしを。

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