短編︰東方禁恋録

乙音

第19話 霊夢の誕生日

もうすぐ、霊夢の誕生日だ。
幻想郷中の皆が霊夢を祝うつもりでソワソワしている。

当の本人は、異変のことで頭がいっぱいらしく、
自分の誕生日の事まで頭が回らないらしかった。

お陰で霊夢に気付かれず誕生日会の
準備を進めることが出来た。

その為、霊夢の誕生日は博麗神社に
皆で集まって誕生日会をする事になった。

初めは神隠しの大規模な異変の真っ最中に
楽しくいることなんて出来ない、という妖怪も多かった。

現に咲夜やフランなど、レミリアがいなくなって落ち込んでいる
者は多かったし、他にも被害を受けている者は沢山いた。

それ故説得するのはなかなか大変だったのだが、
いつまで経ってもこのままだと息が詰まるし、たまには息抜きもいいだろ。
という魔理沙の意見にも一理あったのか、結局誕生日会は開かれることになった。

それに、霊夢のことを嫌いな者など幻想郷にいないに等しいから、
皆霊夢のことを祝いたかったのだろう。

それくらいに霊夢は人気者なのだ。

「ふう〜……おっ、藍夢。
準備は順調か?」

博麗神社の縁側に買い物の袋をドサリと下ろし、
魔理沙が私にそう話しかけた。

「うん。
私も丁度買い物を終わらせてきたところ。」

「ところで、霊夢はいないのか?
バレると困るんだが……」

「うん、大丈夫。
今は出かけてるみたいだし」

「それなら良かった。
ほかの妖怪達も準備を進めてるみたいだぜ。
ただ、紅魔館はまだ落ち込み気味というか……。
特にフランは無理に笑顔を作ってるみたいで見てて痛々しいんだよな」

「……まあ、主であるレミリアがいなくなったし、しかたないよね。
でも、この誕生日会で少しでも落ち着いてくれたらいいなあ。
特に咲夜は」

「まあな。
咲夜はほぼ鬱状態だし。
そりゃあ忠誠を誓った主が忽然と
消えちまったら辛くなるのもわかるけどな」

「そうだね。
でも、この異変を解決出来たらきっといつも通りになると思うよ。
…………それにもうすぐ皆会えるんだしね」

「……?
なんか言ったか?」

「いや、何も?
ところで、魔理沙は何か用があってここに来たんじゃないの?」

「ああ、それがな、最近神隠しの被害が多いらしくてさ。
白玉楼では幽々子が居なくなったらしいし、
地霊殿ではこいし、更にはさとりまでいなくなったらしいぜ?」

「……そんなに?」

「ああ。
他にも沢山の人が神隠しの被害にあってな。
誕生日会の前からこんな事言うのも水を差すようで悪いが、
まったりはしてられないみたいだなって。」

「…………」

「藍夢?」

「……ああ、ごめん。
ちょっと考え事してて」

沢山の神隠しの被害。
これが示すのは………………。

もう少しでこの夢から
覚めてしまうということ。

つまりこの世界が壊れ、
私は死に、皆は元の世界に戻る。

そういうことだ。
分かっていたことだけれど。

やはり別れというのは辛くて。
出来ることなら終わりなんて来ないで欲しい。

そんな叶いもしない願いをひたすら思い続けるものの、
終わりは刻々と近づいてきて。

本能というのか、
それともこの能力があるからなのか。

どちらなのかは分からないが、
最近終わりの日が分かるようになっていた。

後5日、後4日。
気付けば私は終わりの日までの日にちを数えていた。

そして何の奇跡か運命か。
悪いことに変わりはないのだがその日がたまたま……霊夢の誕生日だったのだ。

こんなことを言っては失礼かもしれないけれど、
私は霊夢の誕生日が楽しみではない。

むしろその日が来ないことを願っている。
皆と別れたくない。

ずっと一緒にいたい。
そんな思いが私の頭の中を渦巻いて離れない。

このまま時が止まってずっと皆と
いられたらいいのに。

そんなくだらない希望を抱いている。
霊夢の誕生日会は。

ただの誕生日会なんかじゃない。
誰しもにとって特別な日であって、そしてこの世の終わりの日だ。

例えば、普通なら霊夢が生まれた日。
次に、この世界が壊れる日。

異変が解決する日。
くだらないように見えるかもしれない。

でも私にとってはとても大きいことで、
きっとこれからも忘れない1日になるだろう。

だから私はそのために、準備をする。
決意をしなきゃ。

皆と別れる決意を。
去り際に涙なんか流しちゃいけない。

最後の別れくらい、笑顔で別れたい。
だから、私が弱音を吐いちゃダメだ。

だって、次の霊夢の誕生日は、
私が祝える霊夢の最後の誕生日会。

だから、だから。
最高の誕生日会にしなきゃ。

そう思いながら私は、ニコニコと微笑みながら
誕生日会の話をする魔理沙を見つめるのだった。

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