短編︰東方禁恋録

乙音

第18話 取り戻した記憶

ほろり、と涙が零れ、
頬を伝って地面に落ちる。

そんな光景をぼーっと見つめ、
ひたすら過去の思い出に思いを馳せる。

私の名は、藍夢。
外の世界の子供で、あだ名は……【化け物】だった。

そもそも、人間離れした異常な身体能力でも
恐れられていたと言うのに、私には変な力があった。

それは

【幻想を創る程度の能力】。

幼い頃、私はこの力があることに気づいた。
強く願えば、自分の想像したものが現れた。

とはいっても、触れるわけでもなく、
あくまでただの幻想なのだ。

幼い頃は、この能力がどれほど異常なのか、
どれほど恐ろしいのか気付いていなかった。

私は、この能力を軽い気持ちで
友達に見せびらかしていた。

その度に皆がわあ、すごい!と
褒めてくれるので、完全に私は天狗になっていた。

しかし、何日か経つと、
みんな私と遊んでくれなくなった。

お母さんが、あのこと遊んでは
ダメだと言っていたらしい。

私の能力は単純でシンプルだ。
特に害もないし、恐る必要もなかった。

しかし、ただの人間が変な力を持っている
と言うだけで、皆は私をおそれた。

もしかしたら他にも力を持っていて、
私たちを殺すつもりかもしれない。

人間なのにあんな力を持っているなんて、
化け物だ。

人々はそう言って、私から離れていった。
私は、それでも良かった。

だって私には、両親がいるのだから。
しかし、そんな淡い期待もすぐに消えた。

何故なら、両親が私を捨てたからだ。
両親は、私を化け物と言って罵り、家から追い出した。

ただでさえ気持ち悪いと思っていたのに、
アンタのせいで私たちまで疑われてるのよ!

お母さんがあの時言った言葉が、
幼い私には衝撃的だった。

「気持ち悪い」

幾度となく言われてきた言葉だったけれど、
お母さんに言われたと思うと、殴られたような衝撃が走った。

食べ物もお金もなくさまよったところで、
誰も助けてくれやしない。

ある時は蹴られ、ある時は殴られ、ある時は全裸にされて。
それでも生きることに執着した。

何故なのか、と聞かれると大した理由は
ないけど、死ぬのが怖かった。

それに、こんなことで死ぬのも嫌だったし、
ここで死ねばアイツらの思うつぼだ。

いつかあいつらに復讐する。
幼いながらにそんな復讐心を覚え、寒い街を這いずり回った。

汚い、気持ち悪い、吐き気がする。
そんな言葉を何度吐かれただろうか。

それでも耐えて、耐えて、耐えて、耐えた先に
待っていたのは、【死】だった。

足掻いても足掻いても、
結局私は死ぬ運命だったのだ。

それを察した時、悲しさで涙が止まらなかった。
結局私は1人じゃ何も出来ない。

それを実感し、呆然と舞い散る雪を見つめた。
一度でいいから、愛されたかった。

一度でいいから、幸せというものを感じてみたかった。
どうせ、死ぬのなら。

1度だけ、夢を見たい。
その夢の中では、私は人気者で。

皆に愛されて。
強くて、優しくて。

友達だって、いっぱいいて。
そんな妄想をずっとしていた。

幻想の力。
それは単純故に大きい力だった。

力、というのはただで使えるものでは無い。
世の中「ただ」なんて無いのだ。

力を使うのには、
それなりの代価がいる。

例えばそれは、アクセサリーだったり、
お金だったり、果ては命だったり。

それはもう様々なのだが、ここまで大規模な幻想を創るとしたら、 
己の命までを代価にしなくては行けなかった。

でも、どうせ私は死ぬのだから。
どうせ私は生きていても意味が無いのだから。

そう考えて、世界を創ることになんの躊躇もなかった。
ただ幸せな夢を見たい。

そんな単純な動機で、
私は自分の命を差し出した。

やはり夢というのはリアルで、
ここが幻想だと気付くのにはこれ程までの時間がかかった。

それ故に、思っていたよりも
幻想郷に思い入れしてしまった。

ここはただの、
幻想の世界だと言うのに。

やっと、異変の謎がとけた。
皆はきっと、幻想郷にいるんだ。

偽物の幻想郷ではない、
本物の幻想郷に。

ここは偽物の幻想郷な訳で、
本物はほかにある。

もうすぐこの夢は覚めてしまうから、
終わってしまうから、皆夢から覚めるんだ。

私も皆も、長い長い夢から覚めて、
現実に戻る。

幻想郷ではまた私のいないいつも通りの
日々が始まって、いつも通りに暮らす。

だって私が居なければ、
そうなる運命だったのだから。

だってこれはただの夢で、
いつかこの夢からは覚めてしまう。

だから、少しばかりリアルで長い夢から
覚めた霊夢達は、いつも通りの日々を送る。

そう、何も変わらないんだ。
私という異端者イレギュラーが入ったことで、
幻想郷の本当のストーリーは少し変わってしまっただけ。

いつも通りの日々に戻るだけ。
なのにどうして。

どうして、涙が止まらないんだろう。


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