短編︰東方禁恋録

乙音

第16話 幻想の世界

今日も今日とて、
私は霊夢と異変について調べていた。
 
しかし、いくら調べても大きな情報は
得られず、私も半ば諦めてしまっている始末だ。

……まあそんな事はさておき、
今日見た夢は一体なんだったのだろうか。

夢と現実。
そんなものの区別がつかないなんて有り得ない-。

……訳でもない。
夢というのはリアルで鮮明で、案外現実と区別がつかなかったりもする。

だからだろうか、今日見た夢が
やけに生々しく感じるのは。

まるで一度、体感したことがあるかのような。
なぜだか、あちらが現実のように感じてしまう。

そんなこと、有り得るはずもないのに。
そもそも、夢を見るというのはどういう事なのだろうか。

眠るという訳ではなく、
意図的に夢を創る……?

いや、今日見た夢ならば、
世界を創った、ということになる。

そんなこと、人間の手で可能なのだろうか。
……いや、まて。
 
そもそも私は、
なぜこんなことを考えているのだろう。

いけないいけない。
危うく、夢の世界に引きずり込まれるところだった。

あんなこと、有り得るはずがないのだから。
全く、人は油断すると夢と現実の区別すらつけられないのだから困る。

夢は夢。現実は現実。
それをしっかりと理解しておかないと。

……そうは考えるものの、
あの夢が頭から離れない。

忘れることが出来ず、
つい今日の夢のことへと思いを馳せる。

もし、もしも。
世界を創る事が出来るとしたら。

この幻想郷が……創られたもの・・・・・・だという可能性もあるのか?
そう考えると、また他の線も考えられてくる。

ああ、難しい。
妄想というのは無限大で、いくらでも想像を広げられる。

だから、いくらだって根も葉もない噂を
作り上げていくことが出来る。

だから、いま私が考えていることも、
所詮ただの妄想に過ぎない。

「はあぁ……」

だから、その妄想を事実に
作り上げるとしたら、証拠がいる。
 
……しかし……。
その証拠がないのだからどうしようもない。

けれど、考えるだけなら自由だろう。
もしも、この世界が幻想なのだとしたら。

この生活が夢なのだとしたら。
いつか壊れてしまう。

いつか、目覚めてしまう。
でも……ここは、現実だから。

大丈夫、大丈夫。
そう言って自分を安心させる。

なぜだか、不吉な予感がする。
でも、それに気が付きたくなくて。

私は、なんにも気がついていないふりをした。

◆◆◆

今日も何もわからなかったわね、
と残念そうに言った霊夢にいつも通りそうだね、とほほえむ。

こんな日々がもう……いや、たった?
まあどちらでもいいが2、3日続いている。

結局異変について何もわからないまま
家に帰り、また眠りにつくのだろう。

……と思っていたのだけれど。

「藍夢、行こうぜ!」

魔理沙に捕まってしまった。
魔理沙曰く、もうすぐ霊夢の誕生日だから準備をしたいのだと言う。

そう言えば、霊夢の誕生日
のことをすっかり忘れていた。

最近は異変で慌ただしくて、
そういうことにまで気が回らなかったのだ。

そして買い物をする為、人里に行くことになった。

◆◆◆

人里には、人が沢山いた。
妖怪が多いので、人間を目にするのはなんというか、新鮮だった。

まあ霊夢や魔理沙も人間なんだけどさ。

「いたっ……」

声がしてそちらを向くと、
一人の少女が虐められていた。

その少女は、変わった容姿で、
白色の髪に血のような赤い瞳を持っていた。

大人数でその少女をいたぶっているようだった。
顔に絆創膏を貼り付けた少年を中心に虐めているようで、それは見ていていたたまれなかった。

しかし、皆は何もせずにちらりと少女を見るばかりで、
助けてあげるものは誰一人いなかった。

その光景に何故か、懐かしさを感じる。
……そうだ、あの夢と似たような状況。

それにしても、何故私はどうしようもない
憎悪を抱いているのだろうか。

いじめが嫌いだから?
私がいい人だから?

いや、違う。
まるで私がされたことがあるかのような既視感を感じて。

なぜだか助けなくては行けない、と思った。

◆◆◆

その後、私とまりさが注意をすると、その子達は謝りも
せずに逃げていこうとしたので捕まえて謝らせた。

ついでに事情も聞くと、彼女の見た目は可笑しいし、
性格も地味でつまらないからいじめたのだという。

……くだらない。
異質な人間をいじめるなんて。

自分とは違う人間をいじめるなんて。
本当に、くだらない。

ふつふつと怒りが湧いてくる。
あれ?私なんで、こんなに怒ってるんだろう。

私はいい人なんかじゃない……けど、
いじめは良くないと思ってる。

それでも、ここまで腹を立てて
やれるほどいい人でもなかったはずだ。

その日は買い出しをして、
すぐに博麗神社に帰った。

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