短編︰東方禁恋録

乙音

第15話 夢と現実

全く持って現実というのは厳しい。
おとぎ話のように理想通りに事が進んでいくはずがない。

今考えている異変の謎だって、
未だヒントすら掴めていなかった。

分からない。
分からない。

幻想郷でここまで謎の多い異変は初めてで、
ここまで皆を混乱させる異変も初めてだった。

「どうしたものかなあ……」

何故だか今回の異変は、私の記憶が
鍵を握っているような気がする。

私が記憶を思い出すことが出来ればなあ、
と思いつつ、考えている霊夢を盗み見る。

本を読みながら物思いに耽る霊夢は本当に綺麗で、
思わず吐息を零しそうになるほどだった。

「ん?どうしたの?」

霊夢が不意にこちらを向き、
不思議そうにそう尋ねる。

「……へっ?
……い、いや、なんでもないよ」

全く、こんなに大事な時だというのに
恋心に浸るというのはあまり宜しくない。

どうしてこうも最近は心をかき乱されるのだろうか。
はあ……どうもやる気が出ない。

何かが心の中で引っかかって、
集中することが出来ない。

「ごめん、ちょっとお手洗いに行ってくる」

「わかったわ」

霊夢にそう断ってから、席を外した。

◆◆◆

「はあ……」

大きなため息をひとつつき、俯く。
何かがおかしい。  

それだけは分かっているのに、
何がおかしいのかまでは答えることが出来ない。

なんて可笑しいことだろうか。
なんの根拠もないと言うのに、何かおかしいと言うだなんて。

でも、なんの根拠がなくても、確かにそうなのだ。
これだけは確実に、嘘でもなんでもなく。

何故だか、何かが終わってしまいそうな、そんな気がする。
早く行動しないと。

私の心の何かが、私にそう囁きかけているような気がする。
けど、具体的にどうすればいいのかはわからない。

なんてくだらない、といえばそこまでなのかも
しれないが……やはり、何かが隠れている気がする。

この正体が分かれば、このもやもやした
気持ちも楽になるのかもしれないけど……。

まあ、そう簡単に解決出来るはずもなく、
今日の今日までこのままだ。

どうすればいいのか。
なんて訪ねたって返事は来るはずもない。

そもそも、そんなに単純に
解決出来るのならこんなに苦労していない。

せめて、私の正体がわかれば。

「けどまあ、そんな都合よく行かないよなあ」

そろそろ帰らないと霊夢に
心配されそうだったので、霊夢の元へと急いだ。

◆◆◆
 
その後も、霊夢は凄い集中力で本を読み漁っていた。
しかし、当然と言うかなんというか、大きな情報は手に入らなかった。

「今日もダメだったね……」

「ええ。
……どうしたものかしらね。
博麗の巫女として、異変を解決しないといけないのに」

その霊夢の表情からは焦りが感じられ、
私も何とかしなくては、と思うのに、なにもできない。

「……きっと、何とかなるよ」

ようやく私が零すことが出来たのは、
そんな頼りない一言だけだった。

そして結局今日も何も出来ないまま、
霊夢と別れることになった。

◆◆◆

「気味が悪い!」

「人間じゃないわ!」

「近づくな、忌み子のくせに」

数々の罵声を受け、子供は俯いた。

「アンタなんか私の子供じゃないわ!」

「はあ、どうしてこんな子供が俺たちの子供なんだよ……」

親と思われる2人の人も、
虫を見るかのような目で子供を追い払った。

一人きりになってしまった子供は、
ずるずると地面を這いつくばる。

お腹がすいて今にも死にそうになりながら、
体にムチを打つ。

「ご飯を……恵んでくれませんか……」

裕福な人々に話しかけても
罵倒されて終わり。

もうその子供が生きる術など
ないに等しかった。

それでも子供は諦めなかった。
……しかし、それにも限界というものがある。

子供は既に瀕死状態だった。
そんな子供に誰も手を差し伸べはしない。

実の親ですら、異質なその子供を見捨てた。
子供は、絶望した。

もう自分は助からないと、それを察した。
毒を以て毒を制す。

そんな言葉があるくらいだ。
子供は、自分がこんなことになった原因。

それで、夢を見ることにした。
どうせ死ぬのならば、せめて楽しい夢でも見てから死にたい。

子供はそう願い、楽しい楽しい夢を見た。
しかし、夢というのはいつか覚めてしまうもので……。

だが、子供は今見ているものが現実だと
疑わず、楽しく夢を見るのだ。

そう、自分で作った【幻想の世界】で。
子供は、自分の命を懸けて、長い長い夢を見たのだ。

◆◆◆

「はっ……!
これは……夢……?」

はっと目を開ければ、
そこはいつも通りの景色だった。

ここが現実なのだと再確認するものの……
何か、違和感があった。

あの、【夢】……。
リアルで、まるであっちが【現実】みたいな、そんな感覚に陥る。

「いや、そんな訳ないよね」

だって私は、幻想郷の住民なんだから。

人間は、いつだって幸せを求める。
嫌なことからは目を背ける。

だからこの時の私は、
ここが現実なのだと信じて疑わなかった。

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