短編︰東方禁恋録

乙音

第12話 あいの秘密

「あい、大丈夫??」

目覚めてしばらくし、霊夢が現れた。
その心から心配していそうな霊夢の顔に、罪悪感を覚えた。

「……霊夢、ごめんね……」
「ん?」
「昨日、酷いことしちゃって…」

「あぁ、あれね。
…正直、傷付いたわね」
「……っ…」

「でも、私はあいが誰であろうと受け入れるから。
……辛いことがあったら、私にもはなしてよね。
あいは1人じゃないじゃない。だから、1人で抱え込まなくていいのよ」

その霊夢の暖かい言葉に、目頭が熱くなるのを感じた。

「……ありがとう、私……」

ぽとっと涙が溢れ出し、そこからせんがきれたように
声をあげて泣いた。

泣いてばかりで情けないし、こんな姿ばかり霊夢にみせているのも
やるせない気持ちになる。

だけど、やっぱり霊夢のその言葉が
私の涙を止めさせてくれないのだ。

胸が暖かくなるような優しい言葉。
醜い心が癒されていくような気がした。

いっそのこと、全部話してしまおうかとも思った。
だけど。

話して何になる??
霊夢には申し訳ないけれど、話したところで状況は変わらないし、余計に心配をかけるだけだ。

それに、第一霊夢に話す程のことでもない。
だって簡単にまとめれば本当に悪夢を見て泣いただけなのだから。

真実を言ったのに本音を迫られては話す言葉もない。
私はほんの少し、物知りで記憶喪失なだけ。

そしてたまに変な感情が渦巻いたりする。
たったそれだけのことを霊夢に泣いて伝える必要があるだろうか??

今自分でまとめてみても、失笑しっしょうしてしまうほどくだらないことだ。
これを霊夢に言ったって、きっとそんなこと?と笑われるだろう。

だから。皆に、霊夢に言うのは全てがわかってからだ。
……一生そんなこと分からなければいいけれど。

「ありがとう、霊夢。
けど、悪夢を見ただけってのは本当だよ。
ただ、悪夢くらいでって言えないくらい怖かっただけ。
それを霊夢が悪夢くらいっていうものだからちょっとへんになっちゃって。
ごめんね、こんな幼稚な理由で。」

「うぅん、いいのよ。
私も軽くいっちゃって悪かったし。
ホントのことを言ってくれてよかった。」

本気で安心した顔を見せた霊夢を見て、
罪悪感を感じる。

でも、それも無視して霊夢にほほ笑みかける。

「本当に霊夢は優しいね……」

そう言うと、霊夢はなんでもないと言ったように微笑んだ。

「なんて事無いわ。
それに私、藍夢に何も出来てないから……むしろこっちの台詞よ」

「そんな事ないって」

「とにかく、今日はもう帰るわ。
藍夢も一人でいたいだろうし」

「うん、ありがとう霊夢」

◆◆◆

霊夢が去って、一人で考え込む。
一体私は誰なのか。

これが、分からない。
でも……分からなくてもいいや。

今は、今だけは。
もう少し、このままでいたいから……。

◆◆◆

「はあ……一体藍夢は、どうしたのかしら」

薄暗い博麗神社で1人、霊夢が呟いた。

「ああはいったものの……本当に私は、全て受け止めきれるのかしらね。
なんだか藍夢には、大きな謎が隠れている気がするもの……。
きっとこれだけじゃない。
でも……受け止めてあげないと。
だって私は、藍夢の親友……いいえ、家族だもの」

霊夢は誰に言うでもなくそう言って、虚空を見つめた。

「………藍夢は、きっと何かを隠している。
例えどんなこと言おうと、今は何も話してくれないわね。
これを聞かなかったら、なにか悪いことが起こる気がする。
……けど、無理に聞き出すのは違うわね。
藍夢が自分から話してくれるまで待ってないと。
………………悪いことが怒らないといいんだけど」

そう言って霊夢は、形見であるお母さんの写真を見つめるのだった。

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コメント

  • 乙音

    神菜月 蒼さん>ありがとうございます!!

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