【ボイスドラマ化全三部作】突然変異~mutation~【Youtube】

コロ(coro)/兼高貴也

第六話 転身

一方、大きな会議室で二人の男性が話している。



「例の薬DSGは本当に手に入るんだろうな? 水口(ミズグチ)よ」



 ブラインドで日が隠れている会議室に声が響く。



「はい。加藤(カトウ)さん。現在、第一人者である新山のところへ話を持って行っている最中です。もうしばらくお待ちください。きっとこの計画はうまくいきます」



 水口はペコリと頭を下げた。

 それを見た加藤はニヤリと不気味にほくそ笑んでいた。



「絶対にこの計画は成功させないといけない。この国を守るためにな」





 木村はあるビルのエレベーターに乗っていた。

 ビルの四階で降りると、目の前にある受付を通り抜け通路の突き当りのドアを開けた。



「真衣ちゃん!」



 そこに見えたのは久しぶりに見るマネージャーの顔だった。



「高木さん! ただいま!」



 木村は高木に駆け寄って抱きついた。



「どうしてたの? 一つも連絡よこさないで」



「アメリカに留学してました。急にモデルを辞めてしまったのもあったので、なんか連絡しづらくて……。すいません」



 木村は嘘をついていることに対しての謝罪も込めて言った。



「アメリカ!? また遠くまで行ってたのね。でも、その顔を見ると得られたものは大きいんじゃないの?」




 木村の笑顔に高木はまたこの子はやってくれると感じていた。



「また、芸能界に戻りたくなって帰ってきました。でも、図々しいですよね? 勝手にやめておいて」



 木村は申し訳なさそうに言う。



「何言ってるの。またこうして顔を出してくれたってことは可能性があると思ってきたんでしょ? 大丈夫。私に任せなさい。ただ、もうモデル業界への復帰は出来ないと思っていたほうがいいわ」



 高木はモデルとしての職は年齢的にも引退した時点でも復帰は無理だと考えていた。



「わかってます。モデルで復帰は考えていません。学業に励んで英語も出来るように留学もしました。キャスターとしてやっていきたいと考えています」



 学生時代に培った英語力は川島の実力でもあり、時事問題については研究所で毎日報道を見て頭に入っていたためキャスターという職が難しい道ではなかった。

 それに対して高木の答えはもちろん賛成だった。


 そして、次の日、テレビの報道で大きなニュースとして取り上げられた。



『芸能界を電撃引退した木村真衣‐キャスターとして芸能界復帰へ‐』



 どの番組もその話題で、もちきりになっていた。

 それもそのはずだ。

 あれだけ人気絶頂の中、芸能界から姿を消し、戻ってくるなりニュースキャスターとして抜擢されたのだから。

 無論、高木のマネージング力が功を奏したのだが。
 朝のニュース番組への抜擢は、驚く程反響が大きかった。

 ただし、川島は朝ニュース番組に木村の体で向かうため昼前にしか研究所に行けなくなってしまった。

 それは仕方のないことだったが、再び木村のはつらつとした姿を同じ体ではあるが、見ることができて小さな幸せを感じていた。

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