【ボイスドラマ化全三部作】突然変異~mutation~【Youtube】
第二十七話 感佩(改編済み)
数日後、川島の携帯に一本の連絡が入った。
「解毒剤が完成しました。取りに来て下さい」
その日のうちに研究所へ向かった。
いつものように奥へ入り、三人の待つ実験室へと足を進めた。
実験室では三人とケージに入ったモルモット達が待っていた。
「川島くん。ようやく完成したの。モルモットへの実験も成功。やっぱり私たちって天才だわ!」
新山は他の二人の助手の顔を見ながら、にっこりと微笑んだ。
そして、カプセルケースを西岡と川島に手渡した。
「あとは二人が飲むだけ。私と藤城くんはまた新たな研究に励みます。西岡さんは落ち着いたらまた手伝ってもらえる?」
新山は西岡も大きな力になったということを確信していた。
「もちろんです。よろしくお願いします!」
彼女も峰島の元を離れて行き場を失っていたため助かる言葉だった。
峰島はというとあれから学会から名前が消えて追放されたようだった。
理由はこれまでに多くのデータの改ざんを行っていたということだそうだ。
「川島くんとはもう会うこともないかも知れないけど」
新山はそう言いながら残念そうな表情を見せて、自分の作った薬のせいで巻き込んだことを悔やみ、申し訳なさそうな表情も見せた。
それを察してか川島も言葉を返す。
「俺が勝手に飲んだんだから、新山さんは悪くないよ。色々ありがとう」
新山は少し表情を明るくしたが、「ごめんなさい」と謝った。
「じゃあ解毒剤はもらっていくよ。またいつか!」
川島は特別な挨拶もせず、研究所を後にした。
続いて、西岡も一度家に帰ることにした。
川島は帰宅すると、解毒剤をじっくり見つめていた。
「飲むの?」
そこへ木村の声が届く。
少し寂しそうな声だった。
飲めば自分の存在は消えてしまう。
しかし、決めるのは川島自身であることは理解していた。
「もう少し考える」
川島もずっと連れ添ってきた二人と別れるのは酷なことだと思っていた。
少なからず、愛着や深い何かで繋がっていた。
こうして、彼は結局、飲まずに一週間過ごした。
木村と深沢は川島が悩んでいることを痛いくらい感じ取っていた。
今日も木村の仕事が入っていたため、高木の元へむかった。
そして、いつも通り仕事を終えた彼女は高木に意を決して話し始める。
「あの、高木さん。折り入ってご相談が……」
いつも以上に真剣な表情をしている木村に高木も何事かと話を聞く。
「あたし、そろそろこの仕事辞めさせてもらえませんか?」
「え?」
高木の声と深沢そして川島の声が一斉にそろう。
木村はもう消える覚悟をしたんだと感じる深沢と川島に対し、全く予想してなかった高木は納得がいかずなんとか説得しようと口を開く。
「どうして! ようやく売れ始めたのよ!?」
木村は悩むような表情もせず、モデルをやると決心した時のようにいつになく真剣に答える。
「あたし、学業に真剣に取り組みたいんです。しっかり勉強して海外で活躍出来るキャリアウーマンになります」
真剣な眼差しではあるが、全て口から出任せだった。
「それならモデルをしながらでも……」
高木の説得にも応じず、木村は言葉を紡ぐ。
「どちらも中途半端になりかねません。もう決めたんです!」
この決めたというのは川島に対しての言葉でもあった。
自分の夢だったモデルの仕事もこの生活も失う決意をしたということだった。
「わかったわ。仕方ないわね。残念だけど……。気が向いたらいつでも戻ってきなさい! 待ってるから」
高木の優しさに心から涙が出た。
もう会うことはないと自分は分かっているため余計に溢れ出た。
そして、木村は高木と事務所に心からお礼を言って別れをした。
その日の午後、ニュース速報が流れた。
『人気モデル 木村真衣さん引退』
突然の引退にマスコミも大騒ぎだった。
しかし、木村は「全て任せなさい」と強く言い切ってくれた高木を信じていた。
一切、話さなかった川島もようやく言葉を発する。
「真衣……」
「あとは健太が決めること」
木村はそう言うと深沢へと変わった。
深沢はそのままレンタルビデオ屋へと向かった。
バイトを辞めるためだった。木村の行動を見て自分も足を引っ張ってはいけないと思っていた。
彼女のように大事にはならないが、深沢にとっても川島にとっても大きな事だった。
話を済ませ、家に帰ると深沢に川島が声をかける。
「真也……」
「もうこれで健太が飲むだけだな」
川島は二人の決心に導かれて自分もしっかりしろと思った。
しかし、溢れ出るのは二人との別れを惜しむ涙だった。
「どうして、お前ら平気なんだよ……」
「平気なんかじゃないよ……」
木村の返事も少し涙声だった。
「でも、俺らは元々存在しないものだったんだから。これでいいんだ」
深沢もどうしようもないことを悟りながら、悔しそうに言った。
「健太の記憶にあたし達が残っていればいつまでも一緒だもん」
木村の言葉に涙が止まらなかった。
「楽しかったよ。色々経験出来て良かった。ありがとう、健太」
深沢のお礼なんてほとんど聞いたことがなかった。
これで終わりなんだと感じるしかなかった。
「本当にあたしも夢が叶って良かった。健太のおかげだよ」
木村がそう言った瞬間、深沢から川島に交代した。
今度は川島が決心するときだった。
「真衣、真也。俺は二人がいて良かったと心から思う。居なかったら、こんな災難に巻き込まれなかっただろうけど。本当に楽しかった」
これまでのことを振り返りながら話すと深沢がツッコミをいれる。
「一言余計だ」
小さく笑うと川島は続けた。
「本当にありがとう。二人とも」
「お礼を言うのはあたし達だよ」
川島の体を占領して生活していた自分たちの方が迷惑をかけたと木村は言い返した。
「そうか。じゃあ、さよならだ」
川島はグラスに水を注ぎ、解毒剤をカプセルケースから取り出した。
「本当にありがとう。真衣、真也。一生忘れない」
最後はそう呟いて薬を口に含んだ。
頭の中にひたすら二人からの「ありがとう」が響いたまま川島は眠りについてしまった。
西岡は解毒剤を受け取り、家に帰るとグラスに水を注いだ。
すると、河井が話しかけてくる。
「飲むんだね」
「当たり前でしょ。元に戻れるんだから」
西岡が冷たくそう言うと、河井は少し寂しそうに話し始める。
「美香さん。俺、高校生活送れて嬉しかったよ」
「え?」
河井からこんな言葉が聞かされるなんてこれっぽっちも思っていなかった彼女は戸惑った。
「初めはすごくイヤだったけどね。でも、美香さんに関わって教わったこともあったし」
しみじみして話す河井に調子が狂いそうになる。
「あなたは私に利用されただけでしょ!」
西岡はなんとか自分のペースで言葉を返す。
「そうだね」
鼻で笑って河井は一言だけ返した。
「じゃあ飲むわよ」
西岡はカプセルを手に取った。すると、本宮の声がかすかに響く。
「あ、あの……ありがとうございました」
小さくてか弱い声だがしっかり聞こえる。
「私も将来、美香さんみたいな女性になりたいです!」
急に今までとは違い、はっきりした強い口調で彼女は言い放った。
これには河井も西岡も驚きを隠せなかった。
「あ、すいません……」
本宮はすぐにまたいつものように戻る。
そんな本宮の声を聞きながら西岡は笑った。
「私みたいになってもいい大人にはなれないわよ」
「いえ、私の憧れはこれからもずっと美香さんです。私……何も出来なくて……すいませんでした」
本宮はただ体に存在していただけだった生活を深く反省していた。
「何も出来なかったなんてことないわ。藤城を捕まえられたのはあなたのおかげでしょ? 役に立ったわ。助かったもの」
そんな彼女を救うように西岡は言い返した。
「……ありがとうございます」
本宮は照れながら礼を言った。
「じゃあまたね」
そう言って薬を飲んだ。川島と同様にその日、目が覚めることはなかった。
「解毒剤が完成しました。取りに来て下さい」
その日のうちに研究所へ向かった。
いつものように奥へ入り、三人の待つ実験室へと足を進めた。
実験室では三人とケージに入ったモルモット達が待っていた。
「川島くん。ようやく完成したの。モルモットへの実験も成功。やっぱり私たちって天才だわ!」
新山は他の二人の助手の顔を見ながら、にっこりと微笑んだ。
そして、カプセルケースを西岡と川島に手渡した。
「あとは二人が飲むだけ。私と藤城くんはまた新たな研究に励みます。西岡さんは落ち着いたらまた手伝ってもらえる?」
新山は西岡も大きな力になったということを確信していた。
「もちろんです。よろしくお願いします!」
彼女も峰島の元を離れて行き場を失っていたため助かる言葉だった。
峰島はというとあれから学会から名前が消えて追放されたようだった。
理由はこれまでに多くのデータの改ざんを行っていたということだそうだ。
「川島くんとはもう会うこともないかも知れないけど」
新山はそう言いながら残念そうな表情を見せて、自分の作った薬のせいで巻き込んだことを悔やみ、申し訳なさそうな表情も見せた。
それを察してか川島も言葉を返す。
「俺が勝手に飲んだんだから、新山さんは悪くないよ。色々ありがとう」
新山は少し表情を明るくしたが、「ごめんなさい」と謝った。
「じゃあ解毒剤はもらっていくよ。またいつか!」
川島は特別な挨拶もせず、研究所を後にした。
続いて、西岡も一度家に帰ることにした。
川島は帰宅すると、解毒剤をじっくり見つめていた。
「飲むの?」
そこへ木村の声が届く。
少し寂しそうな声だった。
飲めば自分の存在は消えてしまう。
しかし、決めるのは川島自身であることは理解していた。
「もう少し考える」
川島もずっと連れ添ってきた二人と別れるのは酷なことだと思っていた。
少なからず、愛着や深い何かで繋がっていた。
こうして、彼は結局、飲まずに一週間過ごした。
木村と深沢は川島が悩んでいることを痛いくらい感じ取っていた。
今日も木村の仕事が入っていたため、高木の元へむかった。
そして、いつも通り仕事を終えた彼女は高木に意を決して話し始める。
「あの、高木さん。折り入ってご相談が……」
いつも以上に真剣な表情をしている木村に高木も何事かと話を聞く。
「あたし、そろそろこの仕事辞めさせてもらえませんか?」
「え?」
高木の声と深沢そして川島の声が一斉にそろう。
木村はもう消える覚悟をしたんだと感じる深沢と川島に対し、全く予想してなかった高木は納得がいかずなんとか説得しようと口を開く。
「どうして! ようやく売れ始めたのよ!?」
木村は悩むような表情もせず、モデルをやると決心した時のようにいつになく真剣に答える。
「あたし、学業に真剣に取り組みたいんです。しっかり勉強して海外で活躍出来るキャリアウーマンになります」
真剣な眼差しではあるが、全て口から出任せだった。
「それならモデルをしながらでも……」
高木の説得にも応じず、木村は言葉を紡ぐ。
「どちらも中途半端になりかねません。もう決めたんです!」
この決めたというのは川島に対しての言葉でもあった。
自分の夢だったモデルの仕事もこの生活も失う決意をしたということだった。
「わかったわ。仕方ないわね。残念だけど……。気が向いたらいつでも戻ってきなさい! 待ってるから」
高木の優しさに心から涙が出た。
もう会うことはないと自分は分かっているため余計に溢れ出た。
そして、木村は高木と事務所に心からお礼を言って別れをした。
その日の午後、ニュース速報が流れた。
『人気モデル 木村真衣さん引退』
突然の引退にマスコミも大騒ぎだった。
しかし、木村は「全て任せなさい」と強く言い切ってくれた高木を信じていた。
一切、話さなかった川島もようやく言葉を発する。
「真衣……」
「あとは健太が決めること」
木村はそう言うと深沢へと変わった。
深沢はそのままレンタルビデオ屋へと向かった。
バイトを辞めるためだった。木村の行動を見て自分も足を引っ張ってはいけないと思っていた。
彼女のように大事にはならないが、深沢にとっても川島にとっても大きな事だった。
話を済ませ、家に帰ると深沢に川島が声をかける。
「真也……」
「もうこれで健太が飲むだけだな」
川島は二人の決心に導かれて自分もしっかりしろと思った。
しかし、溢れ出るのは二人との別れを惜しむ涙だった。
「どうして、お前ら平気なんだよ……」
「平気なんかじゃないよ……」
木村の返事も少し涙声だった。
「でも、俺らは元々存在しないものだったんだから。これでいいんだ」
深沢もどうしようもないことを悟りながら、悔しそうに言った。
「健太の記憶にあたし達が残っていればいつまでも一緒だもん」
木村の言葉に涙が止まらなかった。
「楽しかったよ。色々経験出来て良かった。ありがとう、健太」
深沢のお礼なんてほとんど聞いたことがなかった。
これで終わりなんだと感じるしかなかった。
「本当にあたしも夢が叶って良かった。健太のおかげだよ」
木村がそう言った瞬間、深沢から川島に交代した。
今度は川島が決心するときだった。
「真衣、真也。俺は二人がいて良かったと心から思う。居なかったら、こんな災難に巻き込まれなかっただろうけど。本当に楽しかった」
これまでのことを振り返りながら話すと深沢がツッコミをいれる。
「一言余計だ」
小さく笑うと川島は続けた。
「本当にありがとう。二人とも」
「お礼を言うのはあたし達だよ」
川島の体を占領して生活していた自分たちの方が迷惑をかけたと木村は言い返した。
「そうか。じゃあ、さよならだ」
川島はグラスに水を注ぎ、解毒剤をカプセルケースから取り出した。
「本当にありがとう。真衣、真也。一生忘れない」
最後はそう呟いて薬を口に含んだ。
頭の中にひたすら二人からの「ありがとう」が響いたまま川島は眠りについてしまった。
西岡は解毒剤を受け取り、家に帰るとグラスに水を注いだ。
すると、河井が話しかけてくる。
「飲むんだね」
「当たり前でしょ。元に戻れるんだから」
西岡が冷たくそう言うと、河井は少し寂しそうに話し始める。
「美香さん。俺、高校生活送れて嬉しかったよ」
「え?」
河井からこんな言葉が聞かされるなんてこれっぽっちも思っていなかった彼女は戸惑った。
「初めはすごくイヤだったけどね。でも、美香さんに関わって教わったこともあったし」
しみじみして話す河井に調子が狂いそうになる。
「あなたは私に利用されただけでしょ!」
西岡はなんとか自分のペースで言葉を返す。
「そうだね」
鼻で笑って河井は一言だけ返した。
「じゃあ飲むわよ」
西岡はカプセルを手に取った。すると、本宮の声がかすかに響く。
「あ、あの……ありがとうございました」
小さくてか弱い声だがしっかり聞こえる。
「私も将来、美香さんみたいな女性になりたいです!」
急に今までとは違い、はっきりした強い口調で彼女は言い放った。
これには河井も西岡も驚きを隠せなかった。
「あ、すいません……」
本宮はすぐにまたいつものように戻る。
そんな本宮の声を聞きながら西岡は笑った。
「私みたいになってもいい大人にはなれないわよ」
「いえ、私の憧れはこれからもずっと美香さんです。私……何も出来なくて……すいませんでした」
本宮はただ体に存在していただけだった生活を深く反省していた。
「何も出来なかったなんてことないわ。藤城を捕まえられたのはあなたのおかげでしょ? 役に立ったわ。助かったもの」
そんな彼女を救うように西岡は言い返した。
「……ありがとうございます」
本宮は照れながら礼を言った。
「じゃあまたね」
そう言って薬を飲んだ。川島と同様にその日、目が覚めることはなかった。
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