【ボイスドラマ化全三部作】突然変異~mutation~【Youtube】

コロ(coro)/兼高貴也

第十話 隠蔽(改編済み)

西岡は家に着くなり、パソコンの電源を入れた。そのパソコンにメモリースティックを繋げる。膨大なデータが読み取られ画面上に写し出される。

 それを一つずつチェックしていく。人格形成が起こる作用がどこで生じたのかを探し出すために。

 自分で資料を集めて作成したデータもこうやって見ると、すごい量である。目を通しながら、作成した時の自分の記憶をたぐり寄せていく。


 そして、ある程度キリの良いところまで見て、パソコンを消した。



「お疲れ様でした。じゃあ交代ね」



 河井の声が頭に響いたと思うと、体が変わっていく。西岡は自分の変化していく体を見ながら、とっさに声を上げる。



「ちょっと待って! あなたが私の体を支配出来るの? 今朝も確かそうだったし……」



 すでに体が変わって、脳裏にこだまする声を聞いて河井が答える。



「うん。そうだよ。俺の意志で変幻自在なんだ。だからね、ちょっと待ってて……」



 そう言うと河井は何かを考え込むように目を瞑った。すると、河井の体でも西岡の体でもない女性へと変化していく。



「え、え、あの……」



 その戸惑いようと声の幼さから本宮の体であることがわかった。そんな彼女に河井が話しかける。



「こんな感じなんだ。サキちゃん可愛いじゃん」



 本宮の顔はまだまだ若さに溢れ、肌もきれいだった。



「いや、その……」



 未だに戸惑いを隠せない彼女を見ながら、西岡が言った。



「ちょっと! じゃあ普段からその権限は河井が持ってるって言うの!?」



 河井がその問いに答える前に本宮が小さく声を出した。



「あの……もう私の体はいいので、変わってもらえませんか……」



 小さな声で言ったが、脳内にいる二人にはしっかりと届く。そして、次第に河井の体へと戻っていく。



「そういうことだね。俺の意志で変化出来るみたいだからね」



 河井はようやく西岡の問いに答える。西岡はこれは自分の体であって、河井の体ではないと強く主張したかったが、こうなってしまった以上、もうどうすることも出来なかった。



「大丈夫だよ。必要な時は美香さんに変わるからさ。仕事ややりたいことが終わったら変わるだけだし」



 河井は基本的に西岡の体であるということは理解していたようだった。彼女もそれを聞いて少しだけホッとしていた。



「それでこれからどうするの?」



 河井は西岡に尋ねた。彼の言うとおり、この後が問題なのだ。



「とりあえず、博士にだけはバレずにこの薬について調べるしかないわね」



 西岡は今後の計画の第一歩となることを話した。しかし、河井は疑問に思った。



「どうして博士には内緒なの? この研究をしていたのはあの博士なんでしょ?」



 確かにこの研究に取り組んでいたのは峰島であり、西岡はその助手として働いていたに過ぎない。



「何か裏がありそうなのよ。藤城って男が何かを握ってると思うし、博士も何かを目論んでいるに違いないわ」



 西岡は何か嫌な予感がしていた。そして、話を続けた。



「研究データは全部転送済みだし、あのデータを調べるしかなさそう。もう研究所に行かない方がいいわ」



 彼女は研究所に向かうことが危険だと悟った。そして、研究所へ今後近寄らないようにしようと決めた。



「でも、博士だってこの家知ってるんだよね? 家に押しかけてくるかも……」



 河井は恐ろしいことを言って、また彼女を不安にさせる。彼女は再び思考回路を張り巡らせる。少しの沈黙の後、彼女は言った。



「あんたがいるじゃないの!」



「え?」



 彼女がひらめいたように言った言葉に河井は理解できなかった。不気味な笑みが想像出来そうだった。



「つまり、押しかけてきてもこの体で出ればいいのよ。私は引っ越したことにすればいいわ」



 河井はポカンと口を開けていた。次第に内容を理解し、納得したような表情へと変わった。



「データを調べる時は私に変われば問題ないし。その代わり、生活主体はあんたになるのよ」



 彼は少し嫌そうな表情になったが、仕方ないと腹をくくるしかなかった。

 生活主体とは、つまり、買い物や街へ出歩く時も基本は河井の体で動けということだ。

 決まってしまえば、行動は早かった。善は急げというやつだ。

 まず、西岡の体でアパートの管理人に引っ越しをするという風に話し、新たに男性が入居することを伝えた。

 次は生活主体が河井になるため、彼が高校生であると見せなければならなかった。西岡はネットオークションでこの辺りの高校の制服を落札した。

 あとは彼が一人暮らしをしている高校生のように振る舞えばいいのだ。

 西岡は全てのことを上手く運ぶため、あらゆることに気を配った。彼女の下準備は完璧で一つも抜け目がなかった。


「じゃあ、これで河井達哉という高校生がここに住んでいるという設定は出来た。あとは私がデータを調べて、何とか元に戻る方法を探るだけね」


 彼女は「さすが私」と言わんばかりの優越感に浸っていた。これで全て上手くいく。

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