【ボイスドラマ化全三部作】突然変異~mutation~【Youtube】
第九話 転送(改編済み)
研究室の扉を開けると、峰島が研究もせず椅子に座って頭を伏せていた。
「博士、博士」
西岡の呼びかけに彼の頭が起き上がる。
「おお、西岡くん。来ていたのかね」
彼女を見るなり、多少驚きながら彼は言葉を返す。
「はい。つい先程」
西岡はそう答えると自分のデスクへ向かった。そして、パソコンを開く。ここには今回の研究の膨大なデータが入力されている。
しかし、薬の開発まで研究が進んでいなかったため薬のデータは存在しない。ただ、薬のデータがなくとも、同じ研究をしていることに変わりはないはずなので、今回のこの自分の状態が何か分かるかも知れないと思ったのだ。
しかし、今ここで見るにはあまりにも量が多すぎるので彼女はデータをメモリースティックへと転送しようと考えた。
そして、メモリースティックをパソコンにつなげデータを転送しようとする。その時、峰島から声がかかる。
「西岡くん、その後どうだい? その様子だと体に変化は見られないようだが……」
彼女はデータ転送をし始めたところで、ビクッとしてしまう。それを隠そうと必死で平然を装う。
「ええ。まだ変化は見られませんね。やっぱりあの薬は発展途上だったのではないでしょうか」
口ではそう言いながらも心の内では早く転送し終わってくれという気持ちで一杯だった。
このとき、転送量はまだ二十パーセントにも満たなかった。バレずに転送し終えなければ、体に異変があったことも知られてしまう。
パソコンの画面を横目で見ながら、峰島の様子も伺っていた。
そこで突然、研究室の扉が開いた。
「それはおかしいですよ」
入ってきたのは長身の男だった。
「誰!?」
西岡はとっさに声をあげる。
「藤城くん。来るなら来ると連絡したまえ」
峰島はその長身の男に話しかける。藤城と呼ばれたその男が話し始める。
「僕が監視してる男は、一日で結果が体に現れましたから。あなたにも現れないとおかしいですよ」
西岡は監視という言葉に疑問を抱いたが、この藤城という男が何かを掴んでいることは感じ取れた。そして、とっさにノートパソコンを閉じた。
「博士、いったいこの人は何者なんですか!」
彼女は峰島に問いかける。少しの沈黙のあと峰島が口を開く。
「ちょっとした知り合いだよ。訳があってこの薬の研究にも携わっている。それより、藤城くんが言うように何か変化があったのかね?」
峰島は曖昧な言葉のあと、再び質問してくる。西岡はその説明にも多少いらだっていた。
「だから、まだ変化は見られないと」
すると、藤城が彼女の近くへとやってくる。
「本当ですか?」
藤城は彼女の体をじろじろと見る。西岡はとっさに着ていた白衣で身を隠す。
「本当よ」
峰島が見かねて声をかける。
「もういいだろう。本人が変化がないと言っているんだ。それより、藤城くん、監視の方はどうしたのかね?」
そう言われて、藤城はようやく西岡の元を離れる。そして、扉の方へ歩いていく。
「今から行くところですよ。また新しい発見があるかもしれませんからね」
そう言って藤城は研究室を出て行った。西岡はホッとすると共に藤城が何を知っているのか不安になった。
そして、思い出したようにパソコンを開き、画面を見る。
そこには転送完了の文字。彼女はメモリースティックを抜き、素早くポケットにしまった。
「博士、私まだちょっと昨日の疲れが残っていて体も重いのでもう帰らせていただいてもいいですか?」
彼女は一刻も早く家に帰ってデータを参照したかった。峰島はちらりと彼女の方を見てコクリと頷いた。
「では、お先に失礼します」
彼女はそう言い残し足早に研究室を後にした。峰島は一人研究室に残り、彼女が帰ってから呟いた。
「藤城め……」
そう、峰島は彼女に悟られたくなかったのだ。彼女とは別に、それも彼女が飲むよりも先に薬を飲んだ実験台がいることを。
川島健太のことを……。
「博士、博士」
西岡の呼びかけに彼の頭が起き上がる。
「おお、西岡くん。来ていたのかね」
彼女を見るなり、多少驚きながら彼は言葉を返す。
「はい。つい先程」
西岡はそう答えると自分のデスクへ向かった。そして、パソコンを開く。ここには今回の研究の膨大なデータが入力されている。
しかし、薬の開発まで研究が進んでいなかったため薬のデータは存在しない。ただ、薬のデータがなくとも、同じ研究をしていることに変わりはないはずなので、今回のこの自分の状態が何か分かるかも知れないと思ったのだ。
しかし、今ここで見るにはあまりにも量が多すぎるので彼女はデータをメモリースティックへと転送しようと考えた。
そして、メモリースティックをパソコンにつなげデータを転送しようとする。その時、峰島から声がかかる。
「西岡くん、その後どうだい? その様子だと体に変化は見られないようだが……」
彼女はデータ転送をし始めたところで、ビクッとしてしまう。それを隠そうと必死で平然を装う。
「ええ。まだ変化は見られませんね。やっぱりあの薬は発展途上だったのではないでしょうか」
口ではそう言いながらも心の内では早く転送し終わってくれという気持ちで一杯だった。
このとき、転送量はまだ二十パーセントにも満たなかった。バレずに転送し終えなければ、体に異変があったことも知られてしまう。
パソコンの画面を横目で見ながら、峰島の様子も伺っていた。
そこで突然、研究室の扉が開いた。
「それはおかしいですよ」
入ってきたのは長身の男だった。
「誰!?」
西岡はとっさに声をあげる。
「藤城くん。来るなら来ると連絡したまえ」
峰島はその長身の男に話しかける。藤城と呼ばれたその男が話し始める。
「僕が監視してる男は、一日で結果が体に現れましたから。あなたにも現れないとおかしいですよ」
西岡は監視という言葉に疑問を抱いたが、この藤城という男が何かを掴んでいることは感じ取れた。そして、とっさにノートパソコンを閉じた。
「博士、いったいこの人は何者なんですか!」
彼女は峰島に問いかける。少しの沈黙のあと峰島が口を開く。
「ちょっとした知り合いだよ。訳があってこの薬の研究にも携わっている。それより、藤城くんが言うように何か変化があったのかね?」
峰島は曖昧な言葉のあと、再び質問してくる。西岡はその説明にも多少いらだっていた。
「だから、まだ変化は見られないと」
すると、藤城が彼女の近くへとやってくる。
「本当ですか?」
藤城は彼女の体をじろじろと見る。西岡はとっさに着ていた白衣で身を隠す。
「本当よ」
峰島が見かねて声をかける。
「もういいだろう。本人が変化がないと言っているんだ。それより、藤城くん、監視の方はどうしたのかね?」
そう言われて、藤城はようやく西岡の元を離れる。そして、扉の方へ歩いていく。
「今から行くところですよ。また新しい発見があるかもしれませんからね」
そう言って藤城は研究室を出て行った。西岡はホッとすると共に藤城が何を知っているのか不安になった。
そして、思い出したようにパソコンを開き、画面を見る。
そこには転送完了の文字。彼女はメモリースティックを抜き、素早くポケットにしまった。
「博士、私まだちょっと昨日の疲れが残っていて体も重いのでもう帰らせていただいてもいいですか?」
彼女は一刻も早く家に帰ってデータを参照したかった。峰島はちらりと彼女の方を見てコクリと頷いた。
「では、お先に失礼します」
彼女はそう言い残し足早に研究室を後にした。峰島は一人研究室に残り、彼女が帰ってから呟いた。
「藤城め……」
そう、峰島は彼女に悟られたくなかったのだ。彼女とは別に、それも彼女が飲むよりも先に薬を飲んだ実験台がいることを。
川島健太のことを……。
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