私の街

樹子

act.1 赤マル



17歳のクリスマスに高校をやめた私は、彼氏と県外で同棲を始めた。

同棲を始めたものの、彼氏は仕事への不満やストレスで鬱になり、終いには仕事を辞めてしまった。
家は社宅だったし、貯金もない。
最低賃金で朝早くから夜遅くまで働いたたかが17歳のなけなしの収入で、生活費を払い、二人分の生活をすることなんて無理に等しかった。

私は限界だった。

泣きじゃくる私より9歳年上の彼氏を社宅に置き去りにして、新幹線に乗り込んだ。
荷物はキャリーケース一つ分しかない。


「おばあちゃん、今から行っていい?」


母方の家族と不仲だった私は、父と祖母が二人で住む家に転がり込む他なかった。
私が育った街からは少し遠くはなるし、その辺りに友達なんてものは勿論いないから、少し寂しくは感じる。

だがそれしかなかった。


色んなことを思い出そうとするが、出てくるのは彼の吸ってた赤いマルボロのことばかりだった。









私は煙草が嫌いだった。
大事な人の寿命をすり減らしてしまう、紙で巻かれただけの葉っぱが、嫌いで仕方なかった。


「ねえ、煙草やめなよ」
「俺は煙草と酒だけはやめたくないの」


別に酒乱だったわけではないけど、お酒が好きな人だった。
元々は料理人になりたかったのだが、スロットにはまって借金を背負い、その道を諦めたそう。
料理はとても上手で、休みの日は私の食べたいものを作ってくれた。食べることが好きな私を見る目はとても優しくて、裕福ではなかったけどそれなりに幸せな生活を送っていたと思う。

お酒と煙草の相性というものは格別らしく、美味しい料理を食べ終わると彼はお酒と煙草を嗜んでいた。


「煙草臭い」
「ごめんって、外で吸うよ」
「いいよ、一緒にいたい」


私は寂しがりで、言ってしまえば煙草にヤキモチを妬いていたのかもしれない。
私より大事な煙草、私はもっともっと煙草を嫌いになった。









そんなことを思い返しているうちに新幹線は目的地へ着いていた。
引きずり慣れないキャリーケースをずるずると引きずって改札に出る。久しぶりに吸うこの空気が懐かしくて、寂しさより嬉しさがにじんだ。

今日はもう夜になるし、実家に帰って寝よう。
明日になったら友達に会おう。
また仕事も探さなきゃいけない。


こうして私の新生活は始まりを告げた。

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