トカゲな俺の異世界迷宮生活

本城ユイト

No.14 エクトスパイダー

『おかえりなさいっ、海翔さん、晃樹さん!』

『た、ただいまッス………』

パタパタと翼を使って空中に浮かぶリリナさん。
そして地面に大の字にぶっ倒れている俺達。
今何をしているのかというと、女王ムカデの討伐を終えて一息ついているところだ。

とはいってもここはとんでもない深さの縦穴の底。
当然光は届かないし、食べるものも何もない。
というかそもそも俺とコーキは動けない。

何故かと言えば、レベルアップのせいだ。
お忘れかも知れないが、この世界のレベルアップはする度に極度の空腹感に襲われるクソゲー仕様だ。

しかも、レアモンスターである女王を倒したことで、俺は5から10、コーキは3から8へと急激な成長を遂げた。それに従い、何回もレベルアップがあったワケで。

ぶっちゃけ今なら、冗談抜きに空腹で死ねるレベル。

『アニキぃ………腹減ったッスよ………』

半ば呻くように隣のコーキがそう呟く。
だが今の俺は指一本動かないし。どうしようもない。

『あっアニキ、あっちに川がありますよ………。死んだおばーちゃんが手を振ってるッス………。え?マツタケくれるんスか………?』

そんなことを呟きながら、コーキはフラフラと穴の端っこにある、The・毒みたいな黄色と黒のストライプ柄のキノコを食べようと………。

ってイカンイカン!
それ食ったら即死するタイプのやつだから!
そんなお約束な死に方要らないから!

『大丈夫ッスよ………。《焔の牙》で焼けば………美味しくいただけるッス………』

待て待て待て!
それ美味しくいっちゃダメなヤツ!
むしろこっちの命が美味しくいただかれちゃうから!

『ふわぁぁ………。頑張って下さいね?』

眠そうな言葉と共に、リリナさんは俺達の格闘戦?を見守っている。というか、見てるなら助けてって!

そして、俺がリリナさんに気をとられ、力を緩めたその一瞬。

『いっただっきまーす!!!』

俺の身体を振りほどいたコーキが、毒キノコ目掛けて突っ込んだ。そして、中でもひときわ大きなキノコへとかぶりつく。

そして、身体を痙攣させて倒れた。

『ああ、やっぱり………』

呑気だな、おい!
仲間が倒れたっていうのによ!

『だってあれ、見てくださいよ。成功ですッ!』

今までとはうって変わって楽しそうなテンションのリリナさんが、コーキを指差す。それに釣られて俺もコーキを見て、驚いた。

輝きを放っていた。
何がって?コーキが、だ。

全身から目映い輝きを放つコーキ。
その光は、徐々に強まっていき―――カッ!とひときわ強く輝きを放ち、消えた。
そして、そこにいたのは――――

大きさは前と変わらないが、白銀の装甲を手にいれ、より一層強くなったであろうコーキだった。

というか。
進化って、変わりすぎじゃね?


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


そして、無事に縦穴を脱出し。
現在、我が家にて。
【フェルスパイダー】改め【エクトスパイダー】へと進化を遂げたコーキの、祝賀会が行われていた。

『いよーっし、今夜は飲むッスよ!』

『イェーイ!』

最初は『皆で豪勢に食べまくるか!』的な会だったのが、今や突発的な宴会へと突入している。それもこれも、コーキの《調合スキル》によって偶然作り出されたアルコール飲料のせいなのだが。

というか、リリナさんが暴走している。
どこから取り出したのか、ジョッキを右手に1つ、左手に1つ、そして足元に3つと大量確保。
あと、絡み酒がとにかくウザったい。

『あれぇアニキぃー?どうしたんスか?分身しちゃってー!アハハハハハハハ!』

『えんしんとかするはけないやろぉー?』

もはやリリナさんなどなに言ってるかすら不明。
まあかれこれ2、3時間ほど飲み続けてるのだから、仕方無いのかもしれないが。

『アニキも飲みましょうよぉー?アハハハハハハハハハハハハハ!!!』

『あいほしゃんものめのめー!』

とにかくコーキは笑い続け、リリナさんは呂律が回らず。そんな中で、カオスな宴会は進んでいった。

―――大人って、凄いな。

場違いにも、そう思わざるをえない俺だった。
いや、もちろん、というか100%コイツらが暴走しすぎなんだと思うんだけどなぁ。

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