トカゲな俺の異世界迷宮生活

本城ユイト

No.11 紫カブトムシ

突如、岩のかげから現れた紫色のカブトムシ。
まあ、サイズ的には80センチくらいか?
まだ他の巨大なやつらと比べたらマシな方だ。
というか弱いんじゃね?

『アニキっ、見ててください!あんな雑魚オイラがさくっと片付けてやるッスよ!』

どうやら俺と同じ事を考えたらしいコーキが、カチカチと顎を鳴らしながらカブトムシへと突撃する。
体格的にはほぼ互角、あとは力の勝負。
まあアイツいいスジしてるし、任せて問題ないだろ。

俺はそう判断し、食料でも狩ろうかと後ろを向いた。
その瞬間。

ビタン!と俺の目の前に何かが降ってきた。
それは8本の脚をピクピク痙攣させて―――って、これまさかコーキか!?

『アニキぃ………あれマジ化物ッスよ………』

身体から何故か煙を上げながらコーキは言う。
というかお前、あちこち溶けてないか?

『アイツ、酸攻撃してくるんスよ!ズルいッス!』

酸って………塩酸?それとも胃酸?
いや、確か硫酸ってのもあった気が………。

『種類の特定はいいッスから!』

おっと、そうだな。
今はこの局面をどう切り抜けるかが重要だ。
こんな場面ならどうするか、答えはすでに出ている。

『おっ、なにか作戦があるんスね?』

それは―――とにかく逃げる。
それ1択しかないだろうがぁぁぁぁぁ!!!

『ち、ちょっと待って下さいッスよ、アニキー!』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ヤバいヤバい!!!あのカブトムシ、マジでヤバい!!!

胸中でそんなことを考えながら、俺はもうがむしゃらに足を動かす。そんな俺の後ろを走るコーキから、俺と似たような思念がひっきりなしに飛んでくる。

だが、その後ろには誰も何もいない。
普通なら、『ああ、撒いたんだな』なんて言って安心するところだが、今回はそうはいかなかった。

とは言っても、別にカブトムシが空を飛んだとか地面に潜ったとかそういうワケではない。

跳んでいるのだ。空中ではなく、空間を。
分かりやすく表現するなら、《テレポート》といったところだろうか。つーか酸攻撃にテレポートってどんだけ高性能なんだよ、あの昆虫モドキ!!!

そう言っている間にも、空中のいたるところから放たれた酸が、俺達の身体を少しずつ掠めていく。これがもう痛いのなんのって。

『アニキー!痛い、痛いッスよー!』

おい、それはさっき俺が言った!
言うなら別の感想でもどうぞ!

『じゃあ、あのカブトムシもういないんスけど、上手く撒いたんスかね?』

………は?マジで?
確かに言われてみれば、さっきまでゲリラ豪雨のごとく降り注いでいた酸攻撃が、ピタリと止んでいる。
そうか。やっと撒いたのか、あのチートカブトムシ!

『やったッスね!さすがアニキッス!』

うん、ありがとう。
でもその前に、お前に1つ言っておくことがある。

『なんスか?』

―――そう言うことは、もっと早く言えよバカ!!!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


『あのー、これ何があったんですか?』

我が家で留守番をしていたリリナさんが、ボロボロの俺達を見て訊いてきた。なので、俺達が最初から全部話したところ………。

『なるほど………。それはフロアボスですね』

フロアボス?それってこのフロアのヌシってことか?
どーりで強いわけだよ。滅茶苦茶な能力設定だったもんな、あのチートカブトムシ。

『ボスッスか………。勝てるッスかね?』

『目安としてはLv20くらいだと思いますよ?』

Lv20って。俺ですらまだLv5だぞ?
普通に勝てるハズ無いだろ。

『とゆーかアニキのステータスって今どれくらいなんスか?』

む?そう言えば最近確認してなかったな。
久しぶりに見てみるか。鑑定スキル、発動!

【トカゲ・ランクF・Lv5】
【《焔の牙Lv1》《熱感知Lv7》《麻痺毒Lv4》《暗視Lv10》《鑑定Lv5》】

なんか以外とスキルレベルが上がってるな。
特に暗視スキル、2桁いってるし。
いつの間にこんなことに?

『へぇー、アニキすごいッスね!オイラのも見てくださいよ!どれくらいなのか知りたいッス!』

………?自分で調べればいいんじゃ?
鑑定スキルって最初に修得出来るし………。

『いや、オイラは調合スキル取っちゃったんで、鑑定持ってないんスよ』

ああ、なるほど。
そうかあのスキル取ったのか。
仕方ない、俺が見てやろう。

【フェルスパイダー・Lv2・ランクE】
【《焔の牙Lv1》《思念Lv4》《調合Lv2》】

………負けた。
俺、ランクで負けたよ。
レベルで勝っても、ランクで負けた。
なんだろう、この敗北感は。

『まあ、見るからにあっちの方が強そうですしね』

リリナさんがいつも通りトドメのS発言をかましてくるが、今の俺には反論する余裕もない。
とにかく、今の俺がとるべき行動はただ1つ。

浮かれてるクソバカ後輩をぶっ飛ばすことだ!!!

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