トカゲな俺の異世界迷宮生活

本城ユイト

No.00 人生の終了

 ある日。
それは唐突に起こった。

「おーい海翔かいと!おっはよー!」

「ん?なんだ、美奈みなか」

 いつも通り駅から学校への道を歩いていた俺に、後ろから声がかけられる。それは長い黒髪ポニーテールに健康的な体格(分かりやすく言えばナイスバディというやつ)をした少女。俺の幼馴染であり、腐れ縁でもある関澤美奈せきさわみなだ。

 文武両道でバレー部のエースという、根暗オタクの童貞な俺とはなにかと正反対の人物。

「ねぇ、おっはよー!」

「あぁはいはい、おはよう」

 俺は適当に返事を返すと、そのまま背を向けて立ち去ろうとする。しかし制服の襟をガッシリと掴まれ、そのままズルズルと引きずられていく。

「おいちょっと何すんだよ!?」

「すぐ目を離すとサボろうとするでしょ?だから対抗策よ」

「対抗策ってなんだ対抗策って!」

「対抗策っていうのは、敵対する相手や好ましくない出来事に対して………」

「いや対抗策の説明訊いたわけじゃないから!」

 そんなやり取りをしながら、学校へと(半強制的に)歩いていく俺。そんないつもの日常を過ごしていた時、事件は起こった。

 それは学校への通学路に立ちはだかる、最大の難所。通称『憂鬱坂』でのことだった。

「ねぇ海翔、少し良い?」

「………なんだよ、あらたまって」

「うん実は………相談したいことがあってさ」

 そう言って躊躇いがちに話を切り出す美奈。そんな美奈の雰囲気を察した俺は、立ち止まって話を聞くことにした。

「相談はいいけどよ。俺、そんな気の利いたこと言えないぞ?」

「あっ、大丈夫。オタクの海翔にそういうのは期待してないから」

「お前、ちょっとは否定しろよ………」

 そんな俺の返しに少し笑顔を取り戻す美奈。俺はしばしその笑顔に見とれてから、我に帰る。

「おっと、お前相談があるんじゃなかったのか?」

「あっ、そうだね。えっと実はね………」

 そう言ってこちらを見つめてきた美奈。ナニコレ恋の始まりですかヒャッホウ!と俺が思ったのもつかの間、その気持ちを車のブレーキ音が掻き消す。

 慌てて見れば、スリップした車が坂の上から一直線にこちらへと迫ってきていて―――

「危ない、美奈!」

「ちょっ、海翔!?」

 俺は美奈を車の前から突き飛ばす。そんな俺を見る美奈の目に、驚きの感情がよぎるのを眺めて思った。

―――ああ、俺死ぬんだな。

 次の瞬間襲い来る激痛と轟音。そのまま俺の身体は宙を舞い、そのまま地面に叩きつけられる。

「海翔!」

 そう叫んで、美奈が駆け寄ってくるのがなんとなく分かった。もうほとんど見えない視界でも、美奈の泣き顔がよく見えた。

―――泣くなよ、せっかくの美人が台無しだぞ?

 最後くらい気の利いたセリフを言おうとしたけど、痛みやらなんやらでもう言葉も出ない。薄れていく意識の中で、美奈の言葉が鮮明に聞こえた。

―――海翔の、馬鹿。

 その瞬間、村瀬海翔の16年の人生は幕を閉じた。

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コメント

  • 本城ユイト

    →桜餅さん
    読んでくださってありがとうございます!
    今まではあまり段落を気にせず書いてきたのですが、なるべく意識してみようと思います(* ̄▽ ̄)ノ

    0
  • 喜雨千納

    まだ始まりなのでここからどうなるのかとても気になります
    頑張ってください

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