オレンジリリーと私はアザミ⦅タンポポとサクラソウの真実⦆

ノベルバユーザー173744

オレンジリリーと私はアザミ⦅タンポポとサクラソウの真実⦆

久しぶりに隣の市のマヤちゃんが電話をくれた。
家族関係のことで悩んでいるのと、前の会社の友人だったので、他の人たちに声をかけて、カラオケに行こうと誘ってくれたのだった。

前の会社といっても、ずいぶん経つ。
人が苦手と言うか緊張する方だった私でも、皆、ほとんどの人が気さくで優しく、声をかけてくれ、仕事の時は厳しくても休憩時間では甘党の部長はドーナツを人数分の3倍は購入してきて、皆で、

「部長〜太りますよ〜」
「仕事してカロリー消費したけん大丈夫!」

と笑った日を思い出す。
いくつか転職した中で、一番いい環境で働かせてもらった。
友人も多かった。
電話をくれたマヤちゃんも結婚したし、今でも何人か連絡しているし、仲の良かった先輩も子供がいる。
その時、

「あ、そうだ。せつさん」

友人のマヤちゃんは実は10歳以上年下。
でも、私よりも会社に在籍していたのは半年は早い。
私はちゃん付けだが、彼女はさん付け。

「最近、三木さん(仮名)に会いました?」
「あっ……」
「せつさん、前に三木さんとドライブに行ったって聞いていたので……それから年は経ったけど、会ってるかと思って……」

息を飲んだ。



三木さんは当時の先輩の一人で、声フェチの私があまりの甘い声に腰が砕けた2人のうちの一人。
もう一人の納谷さん(仮名)は、ひょうひょうとした印象だが、説明する声が温かく癒される声で、男性恐怖症と言われていた私によくジョークや、ツッコミどころがつかめないボケをかましてくれ、

「納谷さん……えっと、もしかして、こう言いたいとか?」
「あ、そうそう。せつさんはぼくのボケをよく分かるね〜ありがとう」

少しかすれた感じだがふわふわした柔らかい声に笑った。
私も、周囲からずれたところもあるので、時々二人で話が脱線し、突っ込んでくれたのがマヤちゃんだった。

「もう、納谷さんもせつさんも変にボケてるから、みんな突っ込めませんよ?」
「いやぁ……せつさん、ぼくより詳しいよ〜」
「いえいえ、私のネタに絡んでくれてありがとうございます」

と楽しかった。
あと二人仲良しの人は、一人がNPOの関係で再会した大西先輩とメールと電話で時々やり取りする古賀さん。
大西先輩は、悪い人じゃないけれど、口癖が、

「うーん……そうだよね……」

で、決断しない人。
人にバトンを渡して、のんきにするので、完璧主義者の私はイライラした。
でも、私の苦手な機械系に詳しく、タッチタイピングはこちらが上でも、知識の多さで仕事が早かった。

それよりももっと早いのが古賀さん。
古賀さんの方が年上だが、不思議な経歴を持つ人で、プロのマジシャンで、当時流行っていたメイド喫茶に入り浸り萌え萌えしていた。
それに、似てると思ったのは、財布の中のカード。
ポイントカードの山が捨てられず、その上割引クーポンを使ってケチる。
同類だと思ったのだがさらに、知識量が半端なく、その上カラオケでは替え歌を歌って場を盛り上げたり、本物のマジックを披露する器用な人である。
それに、セクシーボイスというよりも聴き心地のいい穏やかな声に、聞き上手でもあって一生友人でいて欲しい人である。

大西先輩とは電話交換をしているし、今はやめているがNPOの関係から話を聞く。
古賀さんともメル友。
しかし……。

なんとか声を落ち着かせ、マヤちゃんに告げる。

「実はね、ドライブで海岸に行ったの。三木さんの友人が海岸の一角で人前式をするからって」
「へぇ!ドライブですか!それからは?そのドライブからおつきあい?」
「ううん。そのドライブは、家から会場の海岸までどれくらいかかるかだったの。持ち込むものがあるからって下見。その次は、当時今度する仕事の上司にあたる人の家に行ってみようって」
「えぇぇ〜!せつさん、恋人として紹介?」

過去のかさぶたを軽く話すのは結構痛い。
でも、

「ううん。当時三木さん始めるのは、化粧品の紹介販売で、どれだけその商品がいいか、試してみようって洗顔と保湿を試させられて、買わされた」
「えっ?」

電話の向こうで絶句する。

「そして美顔器も。総額20万位やったかなぁ……。つまり四回くらい、高級住宅地に車で連れていかれ、その家は大きくて新築同然。若い奥さんに可愛い男の子がいてね?無邪気に遊んでいるの。そこで素敵なリビングに通されてお茶を出されて……でも延々と化粧品の説明。基礎化粧品を試させられ、カードで買わされるの。そして最後に、『次からこの家に自分で来て注文するんだよ?奥さんに頼んでおくからね?』って言われた……」

涙が溢れる。
前に書いた『タンポポとサクラソウ』は私の実話だった。
苦しくていまだに血があふれる。

「あぁ、あの人は、皆には優しい同僚だったのに、私のことは同僚とも思ってくれなかったんだって……それに、もう、私は恋も結婚もしない……心が壊れて死んでしまえばいいって……思った……」

電話の向こうのマヤちゃんは悪くない。

でも、ようやく、あの男が……三木さんが憎い、大嫌いだと言えた……。
仕事ができる人で、知恵が回って、その上カラオケも上手くて声が大好き……でも、自分の利益のためなら、心を許した元同僚を自分の金づるに使うのだと思った。
卑怯だと思った……。
きっとあの人は、私がここで憎いと……大嫌いだと言っていても、何も思わないだろう。
でも、いつかは、自分のしたことのツケが返る時が来る。
その時に、私が、

「ザマァ見ろ!」

と笑っているのではなくて、

「もう忘れよう……楽しいことを考えるんだ」

と思えると心も癒せるのではないか……。
でもただ、自分の心を利用された自分が一番憎いと思うのは……永遠に、死ぬまで墓に入れるかは不明だが、持って行くだろう。
自分が甘いのだと……愚かなのだと……だからもう誰も信用したくない、憎みたいと思い続けて苦しみ続けるのが、一番愚かな私への、三木さんへの復讐なのだ。



「三木さん……私の人生にとどめを刺したのは、貴方ですよ。私の破滅した最後の引き金を引いたのは、あの化粧品です。私は化粧は嫌い……心の醜さは隠せないから……」

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