姉妹の愚痴〜心身障害者への理解を〜

ノベルバユーザー173744

『男装の処女』

『男装の処女』と言う言葉を聞いた。

 最初はフランスの聖女ジャンヌ・ダ・ルクのことかと思ったが、違っていた。

 テレビのある番組で特集をしていたのだ。
 短い特集でも、とても印象に残り、ネットでも調べて見た。



『男装の処女』の風習は、イタリアの靴の形のかかとの部分の東側にあるアルバニアの風習だと言う。
 アルバニアの山岳地域で、『ブルネシャ』と言う風習があるのだと言う。

 ブルネシャの起源は大体500年ほど前から、歴史があるのだと言う。
 アルバニアに古来から伝わる「Kanunカノン」(教令)によって定められた誓いをすることで、女性が男性へと変わることが許されるのだそうだ。

 この教令は男性相続人の絶えたか、その相続人の幼い子供では家を守れないと言うことで、その子供が後を継ぐ為の財産や土地を預かる為のつなぎとして、子供の叔母に当たる少女や、もしくは現在分かっているブルネシャの女性は25歳の時に、自ら……もしくは命じられ、髪を切り男装をし、タバコを吸い酒を飲み、車を運転する。
 そして、畑を耕し、家長として家を家族を守るのだ。
 封建社会だった中世からの名残である。

 名前は、ブルネシャとなる前と変わらない。
 しかし、生涯独身であり、処女として生きることを定められる。
 男性と共にいても、男としてタバコを吸いながら、話題は仕事、季節の話題や政治経済などを話す。

 そして、ブルネシャのいる地域では女性は、殆ど車の免許を持っていない為、友人に、

「妻を店まで連れて行ってくれ」

と頼まれることが多いらしい。
 ブルネシャのある人は、ニヤッと笑ってこういった。

「俺たちだとあいつらも安心だろう?嫁さんと俺が関係なんて持たないってな」

 彼女たちは、同性愛者でもない。

 最初、この話を聞いた時、昔は女性が後を継げないから、封建社会が今になっても残っている、そうさせられているのだと、思っていた。
 男社会に、女はこんな風に利用されるのかと憤慨した。



 しかし、兄が3人いながら、ブルネシャになった女性もいた。
 その女性は、自分の時代は、女はただ家事をして、何もそれ以外は教えられず黙って結婚させられる。
 兄弟は自由に車を運転し、家を守ると言う大変さ以上に、外に出ては酒を飲み、タバコを吸いながら笑っているその姿に、家族の反対を押し切りブルネシャになった。
 後悔はないと言う。



 でも驚くのは、なりきっていると言うよりも、もう男性にしか見えない凛々しいと言うよりたくましい顔立ちだった。
 体つきはさほどがっしりとしているわけではない。
 細身のでも、十分に畑などを耕している労働者と言った雰囲気。
 髭は当然ない。
 でも、タバコをくわえる様は自然で、本当は女性と言われても信じられない。
 聞くと、ブルネシャになる時には、徹底的に男になりきる訓練をするのだと言う。
 喋り方から、歩き方、今までの行き方は全て捨て去り、男としてその地域に認められる。



 最近はそう言った風習は廃れ始めているが、ブルネシャの人はまだ存在する。

 自分はブルネシャだと公表している約50人の女性がいる。
 しかし自分たちのように公表していない、隠している人も多いのだとブルネシャたちも言う。



 公表しているブルネシャの最高齢はもう80歳あまりだと言う。
 家族はもう近くに住んでおらず、一人暮らし。
 そして、髪を伸ばして、編んで、スカートをはいていた。
 ブルネシャ……男性には見えない女性だった。
 しかし、髪を伸ばして、スカートをはいているのは、多分、昔認められなかった自由を今得ているのだと言いたいのだろうと思った。



 ある人は、兄弟が死に、成長した跡取りがいない為、そのつなぎでブルネシャとなった。
 ある人は小さい頃は家に両親や兄弟……成長しても、嫁ぎ先で縛られて生きることに反発してブルネシャとなった。
 逃げるとかではなく選択しか出来ないその重苦しい鎖に、悲しくなった。

 男性にも辛いことはあると思うが、ブルネシャとしての道しかなかった女性たちに、もっと優しい世界はなかったのかと思った。

コメント

コメントを書く

「エッセイ」の人気作品

書籍化作品