1つの空と5つの雲

出雲

私の力

去年の春。碧高校に入学した紅はどの部活に入るか
悩んでいた。
「バスケ部でーす。一緒に全国へ行こう!」
「ダンス部です!楽しいよー!」
へーダンス部かーいいかも、いや待てよ。私、
運動音痴だった。運動部は無理かー。
「吹奏楽部です。初心者も大歓迎ですよー」
吹奏楽ねー初心者でもいいって言ってるけど高校からはきついかなー。










結局、入りたい部活は見つからなかった。

「どーしよー」
「なにがどーしよーなんだよ」
「うわ!」

突然声をかけてきたのは、イケメンだった。

「だ、だ、だ、だれ!?」
「1年D組中野和弥」

いきなり声かけてきてなんなんだろ、この人。
とりあえず名乗っとくか。

「あ、はい。1年A組角田紅です。」
「へー変わった名前だな。」

出会ったばっかの人に変な名前とは失礼な。

「なんか悩んでんの?」
「入りたい部活が見つからなくて」
「俺も悩んでる」

このイケメンもまだ部活決めてないのか。

「中野くんだっけ?運動とかめっちゃできそう
    なのに」
「まあ、得意っちゃ得意だけど、高校では文化部
    とか入りたいなーって思って」
「そーなんだ。私は運動できないし、文化部も経験
    したことないのばっかだから、どれもダメだった」

「なんか得意なこととかないのか?」
「得意なこと?んー歌は好きだけど」
「へー歌ってみてよ」
「え!ここで?嫌だよ」

いきなり歌えとか言われても困るし。

「まあーいいや。歌得意ならお前がボーカルで
    バンド組むか」
「へ?」
「俺ベース弾ける」

バンドか、憧れてたしいいかもな。

「やってみて損はないかも」
「だろ?」
「でも、2人じゃできなくない?あと1人は部員を
    集めないと」
「そうだな。」

「なんか聞こえる。」
「ピアノの音だね。音楽室からかな。」
「行ってみるか。」
私は頷いて、すぐさま駆け出した










音の聞こえる方へ行くと、やはり音楽室だった。
それは今まで聞いたことのない音色だった。
一言で言うと、上手い、とてつもなく上手い。
ピアノを習ってたから分かる。
美しい。多分、幻想即興曲だろう。
誰が弾いているのだろう。
つい惹かれて来てしまったが、もっと聞いていたい。

音楽室の中に入る。弾いているのは女の子のような
美形の男子生徒だった。私たちに気づき、音を奏でる手を止める。
「あ、すみません。演奏中に」
「大丈夫です、なにか用ですか?」
「とてもピアノが上手だなと思って」
「ありがとうございます。」

こんな上手い人がキーボードをしてくれたら、なんて居心地のいい音楽になるだろう。ダメもとでお願い
してみるか。

「あ、あの、私とこの人でバンドをやろうかと
    考えていて、よ、良ければなんですけど、
    あなたにキーボードを担当していただきたいん
    ですが...」
「いいですよ」
「ですよね、すみません。え?」
「いいですよ」
「あ、あ、ありがとうございます!」

なんて心優しい人なのだ。眩しいほどの笑顔で
微笑んでいる姿は天使にしか見えなかった。

「1年B組の有野陽汰。よろしく。」

あ、同級生なんだ。

「1年A組の角田紅です。よろしくね。」
「1年D組中野和弥。」









この日からバンド部は始まったのだ。

「部活作っちゃったね」
「そうだな。で、どうする?」
「んー部室も設けてもらったし、入部届けも
    出したし、ひと通りはやることすんだし」
「部長って誰?」
「あ、」

考えてなかった。さすがひなたは頭がきれるなー。
あとから知ったけど、ひなたは入学試験で1位の
成績だったらしい。尊敬するわー。そーなったら
頼れるひなたが部長になったほうがいいのかな。
私より先に口を開いたのは、かずやだった。

「べにがいいと思う。」
「え?え、私?」
「うん。」
「な、なんで?」
「なんとなく。」
「なによ、それ。」 
「俺もべにがいいと思う。」
「え、ひなたまでなんで?」
「べにが部長なら部活がいい方向に行く気がする。」

私が、部長?大丈夫なのかな。私もともと自分の意見とかバンバンいうタイプじゃないし、そーゆー立場になったことがないからわからない。

「そーそー俺もそれが言いたかったんだ」
「ほんとかよ、自分がめんどいからとかじゃ
    ないのかよ」
「違う違う。べにはなんかそーゆー力持って
    そうだなって思って。」
「私なんかでいいの?」
「べにがいいんだって」

そうか。今まで人に任せっきりだったことが 
多かった。自分を変えなきゃ。

「わかった。頑張る」
「じゃ、べにが部長ということで決定」
「あ、部長から一つ提案。」
「なになにー」
「部活のはじめと終わりには挨拶をするってのは
    どうかな」
「いいね、気合い入りそう」
「おう!いいぜ」
「じゃあこれも決定。」



「よし!こんなとこでいいかな。じゃあ今日の
    部活はこれで終わります!」
「気を付け!礼!」
「ありがとうございました!」


私の日常が変わった。あ、いい方にね。
碧高校バンド部。部員は中野和弥、有野陽汰、
角田紅。まだ3人だけど、頑張るのは変わりない。
そして私達は歩き始めるのだ。文化祭に向けて。

「学園」の人気作品

コメント

コメントを書く