ななめ

tazukuriosamudayo

交差点



先週の例の会合からというもの、なんとなく心に靄がかかったままだ。

点滅しだす青信号を立ち止まって眺める。


思えば、心のどこかで世間の物事や人のことを必要以上に斜め上から眺めることによって自分という存在の居場所を守ってきたようにも考えられる。

たしかに、彼が言っていたように、人に必要とされたいという思いが希薄であればあるほど、人間としての価値なんて気にならないだろうし、1人でも自分を必要としてくれる人に出会えたならば大勢に必要とされることと同じくらい幸せなのだろう。


でも、私には無理だ。

私は所詮、多くの人に認められて受け入られることを望んでいる。
散々、世の中の多くの人と自分は違う人間だと誇示し、(別に誇れる話でもないが。) そんな自分をマトモでないとか言っておきながら、そんな自分の特別感を気に入っていたのだ。
そうか、私が冬という季節が嫌いなくせに謎の執着心があるのも、冬が特別な位置付けであるということに好感を持っていたからなのかもしれない。


しかし私は、ただの冬に憧れる、ごく平凡な秋生まれだし、特別ではないのだ。

自分のことを否定されるのは怖いことだし、一匹狼のように生きていける自信もない。

信号が赤から青に変わると同時に一斉に人々が歩きだす。
自分の横を通り過ぎる人の風が頬に冷たい。
私はポケットに突っ込んでいた両手を外に出し強く握りしめ、歩きだす。

信号が点滅している。

人にぶつかりながらも歩く速度を速め、
横断歩道を渡りきったと同時に信号は赤になった。

少し息が切れたが、何事もなかったかのように私は両手をポケットに再び突っ込んで歩き出した。


ーーーーー


インターン先の46階建てのビルを目の前にした時、後ろから声をかけられた。
目の前にはいかにもみんなに愛されてます、という感じの女の子がいた。

「あの、光葉出版のインターンに参加される方ですか…?」

「あ、そうです。」

「よかった!私もなんです。同じ大学の友達とかいなくて心細かったんですよ〜!仲良くしてください!あ、私、須賀 弥生っていいます。よろしくお願いします!」

「あ、どうも。私は橘 モナミです。こちらこそ、よろしくお願いします。」

「モナミさん?すごい可愛い!名前!今日、夜ご飯でも食べに行きましょ!私ここの近くにある飲み屋さん、一回入ってみたかったんです!あ、というか、タメ語にしません?私のことは弥生でいいので!」

「あ、うん。じゃあ後で飲みに行こう。私のことも好きに呼んでくれていいよ。」

「わーい!じゃあモナちゃんで!じゃあ、行こう!インターン頑張ろうね〜!」



完全に弥生ちゃんにペースを持ってかれている。
悪い子ではなさそうだがめんどくさそうだ。


知らぬ間にポケットから手を出していたせいで手がかじかんで思うように力が入らない。思わず手のひらを見つめる。

弥生ちゃんがその様子を見て、はい!と笑いながらカイロを渡してくれた。

なぜこんなに寒いのに自分もカイロを持ってこなかったのだろう。
ここ数日の私はやはりなにかが足りていないようだ。

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