ななめ

tazukuriosamudayo

動揺を呼ぶ夜



「…というわけで、私的には世の中綺麗事なんて全くないって思ったわけよ、ふとね。」

オムライスのサイドについてきた野菜スープをくるくるかき回しながら今朝思ったことをダラダラと語った。

2週間に一度ほど設けられるこの人との会合は私にしては珍しく楽しみにしている。彼とは高校の時のクラスメイトで何故だかさっぱり見当がつかないがこの様な交友関係が続いている。

「確かにそれは一理あるけどね。でもそれってお前が“価値“というもの自体を履き違えてるっていうことは考えられないわけ?」
煙草の火を消しながら笑って彼は言う。
彼の事はいなくてはならない存在と思っているが煙草と所構わず鼻歌を口ずさむ癖だけはどうにかして今後やめていただきたいと心中懇願している。

「価値の意味?ん?」

「だから、価値っていうのは必ずしも値段の事を言うわけじゃないだろ。 例えばお前が10万するキャビアとフォアグラをセットで貰っても1200円ほどのオムライスの方が好きだったら10万の価値なんてお前の中で生まれないだろ。  1200円の方がよっぽどお前には払う価値のあるものだっていうことだよ。つまり、人間も同じで、みんな個々の存在だからこそ感じる価値観も違うってこと。」


「なんかごもっともなこと言っているようなところ悪いけど、一つ言わせて。私が注目してるのはそこじゃなくてね。私が問題視してるのは、それでも世間一般で1200円のオムライスと10万のキャビアとフォアグラのセットでは、10万のキャビアとフォアグラのセットを欲する人の割合の方が多いってことよ。1200円のオムライスの気持ちを考えると心が痛むよ、あたしゃ。 例え立場が逆で、1200円の方が需要が高かったとしても同じことよ。つまりね、私が言いたいのは、生きてる限り、人に必要とされる度合いに優劣が付いてしまうということよ。」


ほれ見たことか、と言わんばかりにオムライスを頬張る。


「お前、そんな人に必要とされたいわけ?」

思わず視点をオムライスから彼の顔に移行した。
くそ、ニヤついている。

「別に、そんなことないけど。ただ、必要とされたい人もいるだろうってこと。」

我ながら今まで「私的哲学」を煌々と語っていたが故に、あまりに押しの弱い一言である。

「ふぅん。お、きたきた。」
運ばれてきたドリアの方がよっぽど興味があるようだ。

私は謎の敗北感を感じた。

それは私の話をドリアに全て持ってかれたことに対しての敗北感ではないことはわかるが、なににこの様な複雑な思いを感じているのかはさっぱりわからない。
恐らく、くだらない理由なのだろう。気づかない方がきっと自分のためだ。

ただ、この会話の中で、私が本能的に人に必要とされたい人間だったのだという事を認めざるを得なくなった。

やめようと思っていたのに癖でご飯の中に混ざるグリンピースを先に食べてしまっていた。

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