悪役令嬢は魔王の小鳥

せれぶ

12話

「………」


気持ちを落ち着かせるために外を眺めているとドラゴンの群れが見えた。その中でもひときわ大きな、変わった個体がいるのに気がつく。
普通のドラゴンは焦がした砂糖の様な濃い茶色なのだけれど、いたのは朝日に照らされ艶やかに輝く漆黒の鱗のドラゴン。
特別なのかしら。それとも群れのボスはああいう色なのかしら?

そう思いながらぼぅっと彼らを見つめていれば部屋にノックの音が響く。時計を見れば短針は真下をむいていた。


「どうぞ」

「失礼します」


入ってきたのはロンジェル様だった。と、気がついたと同時にきゅるるる…とお腹の虫が鳴く。やだ、恥ずかしいわ。


「…何時から起きていらっしゃったんですか」

「…ちょうど朝日が昇ってきたくらいの時間ですわね」


そういうとロンジェル様ははぁ、と溜息をつく。


「…とりあえず身支度を済まさせてもらいます。こちらで用意したもので構いませんか?」

「構わないわ。服はあまり豪華なものはやめてくれたら嬉しいのだけれど…」

「かしこまりました」


ロンジェル様が持ってきたのはさらりと膨らみの少ない上品な薄い青のドレスだった。肩にレースがあしらわれ袖はシフォンの生地になっており肌が薄く透ける。そして切れ込みが入っていて肘に細いリボンできゅっと結ばれていてそのままさらりと…和国のキモノという服の袖の様になっていた。
髪は右の方に三つ編みが編まれ、小さな可愛らしい濃い青の花が編み込まれていた。

…どこか絵本に出てきた妖精みたいな服ね。


「…素敵だわ」


生地もさらさらと触り心地がよく、上質なことがわかった。


「魔王様がご用意したものですので。お食事の用意は終わっています、食堂へご案内致しますのでこちらに」


わたくしが部屋を出た瞬間ゆっくりと扉が閉まる。これも魔法なのかしら?興味深いわ。


「魔王様も珍しく起きていたのですが…まさか、貴女が起こしたなんてこと、ないでしょうね?」

「……ごめんなさい、わたくしだわ」

「…………随分とご機嫌だったのでよろしいですが」


ある程度は予想していたようでまた、大きな溜息をつかれただけだった。
随分と溜息をつかれますのね。おつかれなのかしら。


「とりあえずこちらにお座り下さい。時期に魔王様もいらっしゃいます。」

「…えぇ、わかったわ」


案内された椅子は上座だったのだけれど…いいのかしら



「遅れた」


こつり、と靴の音を響かせてご主人様がいらっしゃって一番奥の椅子に座る。どこかツヤツヤとしていて機嫌がよろしそうだった。ロンジェル様が仰ったことは本当だったようね。


「改めておはよう、マリアンヌ」


ふ、と微笑みわたくしの頭を撫で流れるように頬まで手を滑らせる。まぁ、相変わらず黒い手袋をしていらっしゃるけれど。


「ドレス、よく似合っている」

「ありがとうございますわ」


そんな会話をして食事を始める。食器は艶やかな黒で金色の模様がついている。というか、この城全体が黒いのよね。白があるのはわたくしの部屋だけなのではないか、と思うほど真っ黒。時々赤や金があるけれど…調度品の彫刻に塗られた塗料や廊下やお部屋に敷かれるカーペットがその色でメインは黒ね。まさに魔城…って感じ。

…にしてもこの食事、美味しいわね。昨日の夜食べていなかった分胃にしみるわ。
パンは小さめでふわふわもちもち、サラダのお野菜も新鮮でしゃきしゃきと歯触りも良いし、かかっているドレッシングは甘いけれど酸味もあってお野菜によく合っている。…なんか、キャベツによく似たこれの色は赤いのだけれど。ハムはきゅっと身が締まっていて香りも良く、ふわっと鼻にいい香りが通った。
うん、もしかしたらシェフには悪いのだけれど…ここの食事の方が美味しいわね。それとなんだか力が漲ってくるわ。こう、心臓がじんわり暖かく感じるの。
流石ご主人様のお城のシェフね。なにか特殊な物でも扱ってらっしゃるのかしら。


「マリアンヌ、美味いか?」


そろりと伺うようにご主人様がわたくしを見る。確かに人間と食べているものが違うかもしれないし、味覚も違う…のかしら?そこが心配なのかしら。


「とっても美味ですわ。それと、なんだか力が漲ってくる感じがするのですけれど…」

「あぁ、きっと肉に魔力増幅作用があるからだろう。」

「なるほど…このお肉はなんの種類を使っていらっしゃるんですの?」

「…ロンジェル」


ご主人様が後ろを振り向きぽそ、と耳打ちすればロンジェル様もご主人様に何か耳打ちする。数秒してまたわたくしの方をご主人様が向く。


「デーモンホッグだ」

「なるほど…」


わからなかったんですね、ご主人様…言えば無礼と思いますので言いませんけれど。

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