悪役令嬢は魔王の小鳥

せれぶ

9話

ふと目が覚めたら前にも感じたふかふかのベッドの中だった。
暖かいのが気持ちよくてもぞもぞしていたが今になって気がついた。
………私今まで、ネグリジェでしたの…!?
はしたないですわ…まさかあの状態でせ、せ…接吻を…されていただなんて…

…まぁ過ぎてしまったものはしょうがないわ。それにしても今は何時?確か…ええと、ご主人様のお膝の上で眠っていて…外を見ていなかったから大体の時間がわからないわ…そもそもその前からお昼か夜かも分からなかったんでしたわ…眠ってしまったから。

うーん…窓……あ、ありましたわ。ひとつだけれど大きな窓。その窓の前まで行って外を見れば…綺麗な朝日。
朝の赤と黄色とほんの少しの夜の紫が混じっていてとても幻想的。
…あぁ、今は朝だったのね。よく考えれば夜ここに来て今朝というのもなかなか時間が進むのは遅いと思うのだけれど…まぁきっと眠っていた時間の総合がそこまで多くなかったのね。きっと。

メイドさんはまだいらっしゃらないから…ある程度身支度は自分でやっておきましょう。
…いえ、何も出来ないわね。だって道具の場所がわからないんですもの。しょうがないわ。
ご主人様に頂いた瓶を眺めていましょう。

部屋の中を見渡せば瓶は机の上に置いてあった。それも丁寧に…なにかしら。スタンドのようなものにぶら下がっている。
…ご主人様がやってくださったのかしら?とりあえず次からはあそこに置くことにしましょう。確かに丸底の瓶だからころころ転がってしまうしその方がいいわね。

さて、…何をしましょう。また眠るわけにも行きませんし…ぁ、カーディガンですわ。とりあえずこれを羽織って…あら?あんなところに扉あったかしら…気が付きませんでしたわ。………行きましょう。やることもないですしなんだかうずうずしますわ。

真っ黒で重厚な扉の前に立つ。少し緊張しながら金色のドアノブに手をかけて押したら…
あ、開きませんわ。押すのではなく引くほうでしたのね。
ゆっくりと引っ張れば…結構重いのだけれど、少しずつ開いていく。

扉の向こうは暗闇…ではなく、確かに暗いけれど真っ黒な壁や床なだけで家具は艶のある黒い…木材かしら?…黒い森の木材を使っているのかしら。とりあえずそんな部屋だったわ。

…誰もいないわ…に、しても1目見てわかる高級そうな小物の数々…誰かの部屋なのかしら。…とりあえず扉は閉めておきましょう。
そう思ってドアノブに手をかければぬっとその手に大きな手が被さった。シルクの手袋のついていない、ご主人様の手…


「…ご主人様…?」


後ろを振り向けば、暗闇の中で輝く赤い目がじっと私を見つめていた。そのままとん、と私の顔の横の壁に手を置いて距離がほとんどなくなる。


「…あぁ……教えていなかったな…ここは私の部屋だ。いつでもマリアンヌの部屋に行けるように私が繋げておいた」

「ぁ……ご、ごめんなさい…勝手にお部屋に入って、しまって…」


距離の近さに鼓動が早くなって頬も熱を持つ…当然でしょう。つい昨夜、キスをされたばかりなのだからその、意識してしまうのは当然だと思うの…


「構わん。私が言わなかったのが悪い。…それと、この部屋には自由に入っていい。鍵は常に空いているからな」

「ぇ…あ、わ、わかりましたわ。…それってつまり…ご主人様もわたくしの部屋に自由に出入りできる…ということですの…?ぁ、いえ、わ、わたくしは構わないのですけれど…」


これでもわたくしは女だから…殿方のお部屋に勝手に出入りするのは憚られるし、…勝手に出入りするのも…もし着替えをしていた時に入られたらお嫁に行けませんわ……行く予定はありませんけれど


「あぁ…私がマリアンヌの部屋に入る時はノックかなにかするつもりだ。…着替え中だったりしたら…その、困るからな…」


あ、同じ考えでしたのね…いや、待って?


「…もしわたくしが入った時ご主人様のお着替え中だったら…それは……」

「私は構わんが」

「わ、わたくしが構うんですの!」


ふとご主人様の…その、お身体を想像してしまってかぁっと頬が熱くなる。やだ、はしたない…


「ならば私が何かをしている時は鍵を閉めておこう。それ以外は開けておく。それと、」


ずいっとご主人様の顔が一気に近づいてきた。鼻と鼻が触れそうなほど近い。


「自室と私の部屋以外は行くな。もしお前の部屋に…私とベルフェル、ルジェロン…それと白い虎の大男以外の者が来たら、目を合わさず触れず、…私がやった夜の瓶を持っておけ。いいな?」

「はい…わかりましたわ」


なにか、不都合でもあるのかしら?…まぁ人間ですものね。きっと皆様嫌ってらっしゃるんだわ…しょうがないことね。

…にしても、ご主人様…もしかして寝起き…なのかしら?
昨日、リボンで髪を一括りにしていらっしゃったけど今は下ろしたままだし、前髪も少しぼさっとしていらっしゃる。
服も…その、……今気がついたのだけれど…じょ、上裸で…いらっしゃって…


「……ご、ご主人様…」

「…どうした?」


私の右の頬を片手で包むように触れて顔を覗き込むご主人様。初めて直に触れたご主人様の体温が伝ってきて…あぅう…


「…その……上半身…に、その…お召し物を…っ」

「……あぁ、すまん。慌てて下しか着なかった」

「まっ…さか、……いえ、なんでもありませんわ…」


まさか裸で寝ていらっしゃるの…!?いや、その、それは、貴族内では珍しいことではないのだけれど…いえ、変な事なんて考えていませんわ。ちょ、ちょっと動揺しただけで…
って、慌てて?まさかわたくしが起こしてしまいましたの?


「…ご主人様、まさかわたくし、ご主人様を起こしてしまいましたの?」

「気にしていないから案ずるな。」

「申し訳ございませんわ…」


本当に申し訳なくて俯くとぽんぽんと頭を撫でてくださった。


「大丈夫だ。…あぁ、そういえばドレスを用意しておいた。好きなものを選んでおくといい。欲しいものがあればまた言ってくれ」

「ぁ、ありがとうございますわ。…その、それでは失礼しますわ」

「あぁ、また後でな」


そう言ってご主人様は笑うとわたくしから離れてドアを開けてくださった。
わたくしは深々と頭を下げると部屋に戻り、気を紛らわせるために誰か人が来るまでじっと外を見つめていた。

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