悪役令嬢は魔王の小鳥

せれぶ

3話

「…魔王様、これでよろしいでしょうか」

「ふむ…」


本来ならば真っ黒で美しい紅の部屋を用意するべきだと思うが、魔王様は娘の部屋と言われた。…という事は娘の好みに合わせるべきだろう。
だが私は娘の好みを知らない。…というか魔王様も知らないだろう。
しょうがないので娘の着ていたドレスに合わせることにした。
……というか!!まさかどんな家具にするかと魔王様に聞けば自分で家具を決める!など!と!!あああああ!!
なんと羨ましい!魔王様直々に部屋の家具や位置を決めてもらえるなど!!まだ私もその領域に達していないのにぃいいい!!!


「…何を荒ぶっておるのだ」

「はっ……いえ、なんでもございません」


いけないいけない、魔王様に見苦しいところをお見せするところであった…落ち着け私……

最終的には娘の部屋は、白と淡い青の上品なものとなった。
全て細かい装飾の施された一級品であり、薄いレースをふんだんに使われたベッドやソファ、テーブルクロス。

……まるであの娘の見た目を直接映したような部屋だった。
魔王様は満足げに頷けば娘を連れてきてベッドに寝かせた。前もって指示しておいたのか娘は純白のネグリジェが着せられていた。

くぅ…こんな短期間…短時間で魔王様のお気に召されるのは!!ルジェロンの言う通り魅了チャームは使えないと思っていたがやはり使ったのではないかと思ってしまう…ううぅ…いっそこんなに悩むのであれば……


「…魔王様」

「なんだ」

「この娘のどこをお気に召したのでしょうか?」

「………」


背中に冷や汗が垂れる。地雷でも踏んだのではないかと思い訂正しようと口を開いたが


「聞いてくれるかベルフェルよ!!」

「ぇ」


先に魔王様がお口を開かれた。今まで見たことないようなとろける目で本当に魔王様かと思うほど早口に言葉を並べ始めた。


「まずこの娘は森に認められたのだ。まずそこで興味が湧いた…。見に行った時に気がついたのだが魔大樹の幹は漆黒だろう?彼女の月に照らされた純白の髪がよく映えていてな、淡く光っているように見えた。というか光っていた。透き通るような白い柔肌に長い髪と同じ色の睫毛。瞳の色は何色なのだろうか…とにかく一言では言い表せないがまるで透明で薄い、美しい硝子のような娘だと思ったのだ。
別段初めてというわけではなかったが…それをはるかに上回る大きな熱を持った感情が私を支配したのだ。そして」

「わ、わかりました!魔王様がどれほど娘を気に入っていらっしゃるかわかりました!で、ですので一旦ストップを…」

「……わかった」


まだまだ言いたげな魔王様を一旦止める。え?そんなぞっこんなんですか??まだ話してもいませんよね?というか魔王様1回だれかに惚れたことあるんですか?は?私知らな………ぁ、もしかしてあいつか?いやいやそれはないあの娘は少々…いやかなりおかしかった。…だがまぁ人間よりも魔族を好いたやつだったからなぁ…惹かれるのも無理はな…いやいやそれよりも………もし娘が魔物を嫌っていたら?かなり魔王様の心にダメージが入るだろう。娘が起きる前に何とかせねば…


「……まおうさm」

「ん…」

「!!」


ばっと魔王様と共に娘に顔を向けた。は?えっ今起きちゃうんですか?
もぞもぞと動く娘にぴくりとも動かない魔王様に少し心配になってきた頃


「……あ…べっど…?……!?」


そう呟くと娘はがばりと起き上がり…魔王様と目が合った。





ふわふわとする意識の中ふかふかと暖かく柔らかいものに包まれていることに気がついた。
まだ夢の中?そう思いふかふかを堪能していたがふとなにかの気配を感じた。まさか魔物?…え、待ってちょうだい。
ここ、どこ?


「……あ…べっど…?…!?」


慌てて起き上がると黒ずくめの男と目が合った。まるで絵から抜け出てきたような、人間離れした美しすぎる容姿の青年…だったが2対の捻れた角に尖った耳は確かに人間でないことを明確にしていた。
そして浅黒い肌に漆黒の艶のある少し長い前髪から覗く切れ長の目はルビーより深い紅。その紅い瞳が私を見つめていた。
隣にいる淡い緑色の髪の可愛らしい美少年がどことなく焦ったように私を見て一瞬ぴしりと固まるとすぐさま伺うように美青年を見つめていた。
とりあえず…


「…寝床を貸していただきありがとうございます」

「は?」

「!?」


少年が間の抜けたような声を漏らし、美青年はピシッと固まる。おかしなことでも言ったかしら?ベッドを貸していただいたようだし…今気がついたのだけれどネグリジェも貸していただいたようだわ。


「改めて、ベッドとネグリジェを貸していただいた様で…感謝致しますわ。失礼ですけれどお2人は…魔物ですの?」


2人が魔物ならば人間である私にこの質の良さそうなベッドとネグリジェを貸しているのは少し疑問であるけど…聞けばわかるわよね。


「ぁ、…あぁ…。私達は魔物…だ……」

「まぁ、本当に魔物ですの?」

「ッ…あぁ、」


下腹部に響くような、色っぽいバリトンボイス。なのだけれど美青年の方はどことなく怯えているような気がする…


「あっ」

「!」

「申し訳ありません。ベッドの中からこんな格好で…しかも自分から名乗りらずに魔物かを聞くなんて…はしたないですわね。」

「は?」
「ぇ?」

慌ててベッドから降りてゆっくりとネグリジェのスカートをつまみ礼をする。


「初めまして。私マリアンヌ・スカーレットでございます。恥ずかしながら今の皇子の婚約者様…リーシェ・モージェン様を虐めていたなどと言われ地位剥奪、国外追放されてしまいましたの。
突然魔物かなんて聞いてしまい気に触ってしまいましたら謝罪しますわ。」

「い、いや、謝罪はいらん…それよりも私が怖くないのか?」

「怖い?何故ですの?」

「え?」

「……お前本当に人間か?」


声を漏らして固まったままの美青年と違い美少年が訝しげな目で私を見る。


「正真正銘、人間でございますわ。
それと私、魔物を尊敬しておりますの。上部だけとお思いならば信じて頂かなくて結構です。
ですけれど弱肉強食、きちんと自分自身の力を持ち、そして仲間には絶対的信頼を持つ魔物は素晴らしいと思いますわ。」

「「…」」


ポカーンと私を見る2人にまたなにか気に触ったことを言ってしまったのかと思い自分の発言を思い返していると小さく声が聞こえた。


「……本当か?」

「?えぇ」

「…そうか……」

「……おい、人間」

「マリアンヌですわ。」


総称で呼ばれるのは魔物といえど嫌ですわ。…今度から魔物と呼ぶのはやめようかしら。


「…マリアンヌぃ"ッ」

「…なんですの?」


噛んだのかしら?そんなことを思いながら返事をすれば美青年の方が話しだした。


「…おい」

「はい?」

「マリアンヌ……………私の…き、…ペットに、なれ」

「は?」


…なんで美少年の方が反応したのかはわかりませんけど……ペット…ペット、ね…


「構いませんわ」

「構わないのか!?」

「えぇ…それと、お聞きしたいのだけれどお二人のお名前を聞いていないわ。お聞きしても宜しくて?」

「…こちらの方は魔王様…お名前はフィリート・ロイジウス様だ。
…私はベルフェルでいい」

「ロイジウス様とベルフェル様ですわね。……魔王様?」

「ぁ、あぁ…」


ついさっきまでフリーズしていらしたロイジウス様は私が名前を呼ぶとびくっと身体を震わせこちらを見た。…というか魔王様でいらしたのね。私ったら本当に無礼を働いたわ。


「先程は無礼を働き申し訳ございません。謹んで私は魔王様のペットになることをお受けしますわ。
これから宜しくお願い致します、ご主人様。」


そう言って笑えばがくっと膝から崩れ落ちそうになったご主人様。私、見た目は自信があるからまさか気持ち悪いとかではないと思うのだけれど…もしかして人間と魔物の美意識が違うのかしら。


「ま、魔王様!?」

「い、いや、なんでもない。大丈夫だ」

「…大丈夫ですの?ご主人様…」

「うぐ…ッ」


胸を抑えて膝をついたご主人様。えっえっどうしましたのご主人様…

「魔王様ぁぁぁぁあ」
「ぇえ…」


数分後膝から崩れ落ちた魔王様が復活したあとすぐに自室に篭ってしまいました。…本当に私なにかしたかしら?






ベルフェル君、わりと魔王様に狂信的ですけど一応ツッコミポジ…なんですかね?書いてる私もわからない←

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