ビースト・ブラッド・ベルセルク

あひる300

次の日、食堂で

 次の日、傷がすっかり癒えた十夜は普段通り学校に来ることが出来ていた。
 
 寝たのが遅かった事もあり、欠伸を堪えながら午前の授業を終えた十夜は、昼食を取るために魔法学園アマテラスに併設されている食堂に来ていた。
 いつもは昼時を若干避けるのだが、今日は午後休講となっているため、早めに昼食を取り、午後を訓練に充てようと考えていた。

 魔法学園アマテラスの食堂は広い。全校生徒をカバーできる程ではないが、それでも大半が座れるようにと、机と席が用意されており満席になる事は殆ど無い。
 いつ行っても大抵は座るスペースがあるため、学園内での憩いの場として利用される事も多い。

 だが、一部の学生とは別の意味で有名な十夜にとって、食堂は決して居心地のいい場所とは言えない。忌避の視線と陰口が常に十夜に突き刺さり、席が埋まっていたとしても周辺に座ろうとする生徒は居ないため、十夜の周辺は大抵は二席、三席空いている。
 それでも安くて量が多い食堂は経済的に有り難い存在なのは事実で、お財布事情に余裕のない十夜にとって、なくてはならない存在あった。

 全メニューの中でも最も安い日替わり定食をお盆に乗せた十夜は、せめて目立たないようにと一番端の席についた。
 目の前に食事があると言うのに、その顔は険しく、眉間に皺が寄っている。
 別に昼食の内容に不満がある訳でもなく、気に入らない事がある訳でもなく、ただ単純にどこで訓練をしようか悩んでいるだけだった。
 出来るだけ人目に触れたくない十夜にとって、訓練する場所と言うのは非常に悩ましい問題だ。
 
 学園内にも訓練施設はあるのだが、Eクラスである十夜には施設の優先使用権が無く、たまたま空いていれば使うことが出来るのだが、途中で誰かが使いたいと言えば、十夜は出ていくしか無い。
 それがAクラスであれば優先的な使用権があるため、継続して使うことが出来るのだが、最下位のEクラスである十夜には縁のない話である。
 今日は午後休講。誰かが使うだろう事は考えなくても分かることだった。 
 そもそも一人で剣を振るだけなのだから、訓練施設のような広い場所は必要はない。

 十夜は自分には実戦経験が不足していると痛感していた。訓練と言っても剣を振り続けるだけなのだから、そこに仮想の相手はいても、実像はなくイメージでしかない。

「隣空いてる?」

 花月十夜に近付くなと言うのが学園での不文律になってしまったかのように、十夜の周辺はいつも閑散としている。
 用がない限り自分から話す事はしないし、たまに話しかけられても罵詈雑言をぶつけられるだけだ。
 一緒に訓練してくれる奇特な相手など居ないし、居た事もない。

「ねぇ聞いてる?隣座っていい?」
「ご飯に必死な姿が小動物みたいで可愛いですね」

 授業での訓練はある意味助かっては居るが、毎回のように気絶させられるため身になる事があまり無い。
 それに、一年以上の月日を一人で過ごしていると、煩わしい人間関係に悩まされる必要がなくなり、ある種の快適さが芽生えてしまう。

「可愛い……かな?でも、そろそろ頭くらい叩いてもいいわよね?」
「短気は良くないですよ。せめてご飯が終わるまで待ってあげましょうよ」
「仕方ないわね……。隣座るわよ?」

 それが一種の強がりである事は重々承知してはいるし、逃避行動の一つなのかもしれないが。そうでも思わなければ十夜の境遇は寂しすぎた。

「あ、エビ美味しそう。貰うわね」
「私は沢庵頂きますね」

 十夜は決して孤独を愛する狩人ではなく、一人では行きられないか弱い生き物だ。
 一人で訓練するのも限界がある事は知っているし、一人で剣を降るだけでは得られない経験がある事をストーンゴーレムと戦って思い知った。

 そういう意味でも魔の森で出会った少女たちは理想と言えるかもしれない。今度会ったら訓練してもらうようにお願いしてみてもいいかもしれない。
 そんな事を考えながら昼食を終えた十夜はトレイを持ち上げ席を立つ。

「ちょっと……あぁトレイを下げるの?話があるから戻ってきなさいよ?」
「うーん?聞いてないんじゃないですかね?」
「これだけ近くに居るのに気付かれないはずないでしょう?」
「全然こっち見ないで行ってしまいましたし……」

 前回よりも海老の数が減った事に少し落胆したが、実は経営が厳しいのだろうかとか、コスト削減の波が学園にもと考えながら、トレイを下げ食堂を後にする。

「オイコラ!ちょっと待てや!!」
「ダメですよタニア。そんな言葉使っては」
「っ!……アイスニードル!」

 食堂の入り口で箸が落ちているのを見つけた。屈んで拾い、食堂の返却口に箸を持っていく。
 箸を受け取った食堂のオバさんから、「頑張りな」と微妙に引き攣った顔で言われたが、何の事だかわからないままにありがとうございますと答えた。
 しかし、答えはしたものの、何を頑張れば良いか分からず頭をひねる。

 再び十夜が食堂の出入口に戻ると、入り口に氷の針が刺さっているのを見つけた。
 怪訝な表情を浮かべ、危ないなと思うが、魔法学園ならこう言う事もあるのかもしれないと、十夜は己を納得させ歩みを進める。

「タ、タニア!お、落ち着いてください!」
「……アイスブリ」
「そ、それはダメです!」

 食堂内がいつもよりも騒がしかった気がするが、自分には関係の無い事だと十夜は振り向かずに歩いていった。
 あの、命を助けてくれた二人に会うにはどうしたらいいのだろうか。
 冒険者ギルドに行けば会えるものなのか、十夜には分からない。
 そもそも冒険者ギルドが何をやっていて、どうすれば登録出来るのかさえ分かっていない。
 学園生の中にも冒険者ギルドへ登録し活動している者が居るのだろうか。そんな情報を集めるのでさえ、今の十夜には難しかった。


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