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ビースト・ブラッド・ベルセルク

あひる300

目覚めと少女達


「ん……ぁ……がっ!!」

 目が覚めた十夜を全身の痛みが突き刺した。物理的ではなく感覚的な、一種の幻痛に近い痛みを十夜は知ってる。魔力路を酷使しすぎたのだ。

「ちょ、ちょっと!どうしたの?大丈夫?」

 痛みに悶え体を包み込む十夜の耳に誰かの声が聞こえた。
 歯を食い縛り目を開けると、心配そうに覗き込む瞳と目があった。

「だ、い、じょうぶ……です」

 お礼を言うのに寝たままでは失礼だと思い、十夜は痛みを堪え無理やり体を起こす。
 白い少女が心配そうな顔で十夜を見つめていた。僅かに潤んだ瞳をしており、そこまで心配させてしまう程に危ない状態だったのだろうかと考え、周りを見てようやく自分が魔の森に居ることを思い出した。
 思い出せる最後の記憶はストーンゴーレムの頭を粉砕した所で終わっていた。その後の記憶が無いので、そのまま気を失ったのだろう。

「助けて、頂いて、ありがとうございます」

 途切れ無いように一言一言を区切ったらおかしくなってしまった。それでも言い直す事はできず礼を言って十夜は頭を下げた。
 何も反応が無く恐る恐る顔をあげると、呆れた顔をしている少女が居た。

 白銀の髪を一つに縛り左側から流している。鼻梁の通った顔立ちと少し釣り上がっている目が気の強さを物語っている。大人っぽさを感じるがそれほど歳は離れていないはずだ。
 目立たないようにか地味な色のマントを羽織っているものの、マント自体が質の高い高級品でる事は十夜が見ても分かる。

 冒険者だろうか。それにしては若すぎる印象を持ったが、冒険者との交流が殆どない十夜には判断ができなかった。

「……まあ良いわ。私はタニア。ストーンゴーレムと戦った後に倒れた君を助けた。ここま
では理解出来てる?」

 エメラルド色の瞳が心配そうに十夜の瞳を覗き込む。その瞳には戸惑いの色が混じっている事に十夜は気が付いた。

 二葉から逃げ出した十夜は一度部屋へ戻ったものの。着替えをせずに魔の森に入っている。色んな傷を受けボロボロの状態ではあるが、それが学園の制服であると言う事は判別出来るだろう。左目の赤い学園生がボロボロの状態で一人で魔の森に居れば怪しむのは当然だと言える。

 控えめに言っても十夜は怪しさしかない状態だと言う認識が十夜はあった。
 最もタニアが怪訝な目をしているのは、また別の事情があるのだが。

「か、花月、十夜、です。状況はり、かい。出来ていると、おもいます」

 それならよかったとタニアは頷く。
 雫により一通りの治療はしてあるものの、十夜は頭に怪我をしていた。
 血の流れ具合やからして、ストーンゴーレムと戦っていた時に出来た傷だろうが、頭を怪我した冒険者が直前の記憶を無くすなんてのは、割りとよく聞く話だ。
 
 頭の怪我は何よりも怖い。
 そうした心配から聞いた質問だったが、思ったよりも意識はしっかりとしているし、これならばとタニアは続ける。

「そんな状態で申し訳ないけど……色々聞かせてくれる?っと、その前に体を楽にした方が
いいわ。君とっても辛そう」

 タニアの配慮に十夜は感謝を告げると、近くの岩に体を預けた。
 何が聞きたい事はなんとなく把握しているが、自分から話すつもりは無かったので、タニアが口を開くのを待っていた。

 「とりあえず、君の仲間は?……もしかして一人で魔の森に?」

 座り込んだ十夜を見下ろす形でタニアが問いかける。

「はい。一人で、す」

 寄りかかった事で少し楽になり、少しだけスムーズに話せる様になった。
 体の痛みも動きさえしなければ気にならない程度になっていた。

「どうして……そんな無謀な事を?この森を知らないわけじゃ無いんでしょ?」

 どうして、そう言われてとっさに十夜は答えを出せなかった。
 学園で馬鹿にされてるから?妹に邪魔者扱いされたから?強くなりたいから?

 色々な疑念が十夜の頭をグルグルと回る。自分は何がしたいのか。
 手当たり次第に魔獣を殺し周り、ボロボロの剣でストーンゴーレムと戦い、武器が折れれば素手で殴った。

 冷静に考えれば自分のやった事が馬鹿で無謀な事であると良く分かる。
 でも、それは必要な事だったと、今でも十夜は信じている。ならばーーー

「強く。……強く、なりたいから」

 十夜は真っ直ぐにタニアを見つめた。タニアも十夜を見つめ返す。
 やがてタニアはため息を吐いた。

「雫。大丈夫よ」 

 タニアがどこかに呼ぶかけると、茂みの中から水色の少女が顔をだした。

 小柄な少女だと言うのが十夜の第一印象だ。
 表情の薄い人形の様な雰囲気があるが、タニアとは違った意味で強い目をしている。水色の髪に葉っぱが着いて居るのは茂みに居たせいだろう。それが無ければ実在の人物だとは思わなかったかもしれない。それほどまでに整った容姿をしていた。

 十夜を警戒しているという事は最初から分かっていたが、何か有ったときの為にもう一人は隠れていたと言う事だろう。思ったよりも荒事に慣れているのかもしれない。

「はじめまして、ですね。私は七瀬雫と言います。タニアとパーティを組んでいるんですよ」

 雫はよろしくと十夜に手を差し出す。十夜は細い手を握り返すと名前を告げた。

「あ、そうそう。傷を治したのは雫だから感謝しときなさいよ?」

 まるで久しぶりに合う友人のように、急に親しげな口調へと変えられ少しだけ戸惑うが、十夜は不思議と嫌とは感じなかった。
 
「あ、えっと七瀬さん。治療ありがとうございました」

「いえいえ。大した治療はしてないですし」

 雫は横に手を振りながら、本当に大したことはしていないのですよと、声に出さずに心の中で漏らした。
 それは治療した雫でさえも信じることができず、例えタニアであっても信じて貰えるとは思わなかったからだ。

「それで、続きなんだけどーーーー」



*******************



 自殺目的で無いのなら、日が沈む前に今日は帰った方がいいと言う雫とタニアの提案を受け、十夜は魔の森を抜けて学園のある町に来ていた。
 道すがらに色々なことを根堀葉掘り聞かれた十夜は、全身に残る鈍痛で満足に歩けない事もあり、先程までと別の意味で疲れていた。

 ただ、久しぶりに十夜の左目を見ても何も言わない人と話せた事が嬉しかったし、楽しかったと言うのが正直な感想である。
 魔法学園に来てから罵声なくまともに話すことが殆ど無かったため、人とのやり取りに飢えていたのかも知れない。
 あまりに久しぶりで、言葉に不自由な所があったかもしれない。おかしな事を言わなかったかどうかも少し心配だった。

 友人と呼ぶには気安いかもしれないが、それに似た親しげな感情を抱いてしまうのは、十夜の境遇を見れば仕方が無いと言えるかもしれない。
 雫とタニアとは森を出た所で別れた。二人は冒険者ギルドに用があるらしい。続きはまた今度話そうと言ってくれたのが、次の約束をしているわけではない。社交辞令だろうと思ったが、それでも構わなかった。

 生きていればいつかまた会える。

 十夜は学園に戻り、また針の筵に座る生活に戻るだろうが、二人との出会いがあれば残りの生活も少しはマシになるだろう。
 学園生活で初めてできた綺麗な友人達を思い浮かべ、ニヤつく顔を抑えられずに十夜は日常へ戻った。


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