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ビースト・ブラッド・ベルセルク

あひる300

惨劇の森


「雫、これどう思う?」

 タニア・ホワイトが眉を潜めながら指し示す光景に、七瀬雫は喉から酸っぱい物がこみ上げようとしてくるのを感じた。
 
 魔の森と呼ばれる場所において死とはそれほど珍しくもない。むしろ、当然のように有り溢れているものである。
 死ねば魔獣も人関係なく、他の魔獣に食べられると言うのが魔の森のルールのようなものだ。
 雫の視線の先にある死体は食い散らかされている形跡は無い。それはそれほど時間が経っていないと言う事でもある。
 問題はその数である。
 何十匹もの魔物が列を為すようにして屍を晒していた。

 雫は二手に分かれて魔獣の死骸を調べていると、別の死骸を調べていたタニアが声を上げた。

「これは……剣筋ね。他のも同じような感じだわ」

 タニアが指すゴブリンは左肩から腹部に掛けて大きく切られている傷を指差した。
 その下には横一列に切られた跡がある

「凶器は剣……のような物と言ったところでしょうか」

 雫は武器が得意ではなく、それが剣筋というよりは刃物で切られた跡である。と言う風にしかわからない。
 それに従い判断をすればこの惨劇を起こした張本人は右からの袈裟切りでゴブリンを斜めに切ってから、横に薙いだと言う事だろう。
 確かに他の魔獣も剣や槍、あるいは斧と言った刃物により殺されているようだ。
 
 原因として雫が最初に思い浮かべたのは冒険者の存在である。
 魔の森の表層であれば冒険者のテリトリーと言って過言では無いだろう。
 しかし冒険者であれば討伐部位と呼ばれる特定の部位を切り取り、冒険者ギルドへ提出しなければ討伐とは認められず報酬を得ることが出来ない。

「討伐部位がそのまま残されてるわね……。冒険者ではないって事かしら」

 タニアの言う通りここにある死骸は討伐部位を切り取った形跡が一切無い。あまりに多く面倒くさくなって取り零したという事も考えられるが、命と金銭を天秤にかけている彼らが全ての魔獣から討伐部位を取り忘れるという事があるのだろうか。
 一体当たりの単価は低いものの、これだけあればそれなりの金銭が期待できる。
 もしくは群れに襲われ逃げたと言う可能性。

「それなら群れに襲われて、討伐部位を切り取る前に逃げた……と言う可能性は低いですね」

 だが雫の出した結論は両方とも否だ。
 群れに襲われたのであれば、ここにある死骸も無事では済まないだろう。
 魔獣にとって他の魔獣は仲間ではなく食料でしかない。

 他の可能性としては騎士団による討伐隊が派遣された、強力な魔獣が森に入ったなどが考えられるが、そのどれもを頭の中で否定した。
 雫とタニアは冒険者ギルドからの依頼を受け魔の森に足を運んでいる。もし騎士団が派遣されるような事態であるのなら情報が入らないはずがない。そして強力な魔獣説も死骸を見れば違う事が分かる。

「うーん……これは間違いなく人ね。同じ武器を使ってるように見えるもの」

 殆どの魔獣は刃物で切られた事が原因で死んでいると思われる。確かに剣などの武器を持つ魔物も存在がするが、切ると言うより叩きつけるといった使い方をする方が多く、この死骸の様に切り裂く事はほぼない。

 武器も統一されている事から、どちらかと言えば一個人によるという印象が強いが、頭蓋骨が陥没していたり、心臓部に穴が空いていたりと、打撃の跡も散見される。

「集団ですか?それにしては足跡が少ないように見えますが……」

 雫の周辺には足跡がいくつもあるが、集団と言うには少なすぎるようにも思える。
 まるで……。

「恐らく一人。腕が立つのは間違いないわね……」

 雫としては腕の立つ一個人に票をあげたい所であるが、武器を扱う魔獣という線も捨てるには惜しい状況であった。
 きっとタニアには剣筋はおろか、動きまでトレース出来ているに違いない。
 自分も少し武器を使うことを覚えないいけないと、雫は心の中で課題を積み上げる。
 
「追いますか?」

 例え、人だとしても、魔獣だとしても放っておける状態ではない。
 明らかな異常事態は何かの前触れかもしれないのだ。
 調査するにしても、調査しないにしても情報が無ければ始まらない。
 雫はそう思って聞いては居るは、帰ってくる答えを確認している。

「当然追うわ」

 やっぱりそうかと雫は頷いた。
 何かの前触れであったとしても、魔獣の死体が点々としていると言うだけでは冒険者ギルドは動かないかもしれない。
 ならば情報を集めて報告する内容を増やすしかなかった。これが杞憂ならそれはそれでいいのだ。

「わかりました。それでは私が先行しますので、付いてきて下さいね」

 そう言うと薄いヴェールが二人を包み込む。
 これは薄い水の膜を張ることで、小さい虫や毒の胞子など、目に見えない物を防ぐ役割がある。
 非常に薄いため、視界を遮る事無く小さな異物のみを防ぐことが出来る。その分、防御能力は皆無に等しいのだが。
 水の魔術が得意な雫が快適に森の中に入るために編み出した、オリジナルの魔法である。

「勿論。後ろの警戒は任せて」

 タニアは腰につけた細身の剣を握り、いつでも抜けることをアピールし、にこりと笑った。

「取り敢えず死んだ魔獣を辿るって事で良いですよね?」

「ある意味道案内みたいなもんね……」

 とある童話でパンを千切って道標にしたと言う話があったが、自分たちは魔獣の死骸を追う方かと、雫は少しだけ気が重くなる。
 慣れているとは言え、決して見て楽しい物ではないからだ。
 もっともあの童話ではパンの耳を鳥に食べられ帰れなくなったと言う話だったはずだが、魔獣の死骸が無くとも魔の森で迷うほど初心者と言う訳でもない。
 
「索敵もするので問題ないとは思いますが、いざという時はいつも通りでお願いしますね」

「おーけー。大丈夫よ。任せなさい」

 小さな胸を張る友人とは違い、雫の脳裏には未だ否定できない、剣を持つ魔獣の姿がチラついている。
 しかし、後ろに居る友人が居ればなんとかなるだろうと、自分の役目に集中し始めた。

 幸いな事にギルドから受けた依頼は既に達成しているし日もまだ高く、森の中の視界は確保出来ている。最悪の場合でも逃げる事は出来るだろうと、雫とタニアは道を示すように点々と横たわる魔獣を死骸を追った。

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