ビースト・ブラッド・ベルセルク
実践訓練という名の
  大崩壊が起こったのは今から三〇〇年程前だと言われている。
当時から残っている貴重な歴史書を紐解くと共通する項目がいくつかある。
まず、魔獣の大群が人々を襲ったという事。
次に、同時期に起きた大地震の影響で各地が混乱しており、他国と連携が出来ず人類が滅亡するかもしれないと言う危機に瀕していたという事。
そして、そんな世界の危機を救ったのは、始まりの魔法使いと呼ばれる一人の少女だったという事である。
記録によって部分的に差異があるものの、この三項目は殆ど全ての記録に残されていた。
少女がどこから現れたのかは定かではなく、また容姿や性格など素性に関する情報の中にも信頼できる文献がないが、ただ確かに存在したという事だけは伺い知る事が出来る。
だが、少女がどうやって世界を救ったのかは記録が残されていない。
一説には少女の使う魔法は魔獣の大群を消滅させ、地震で変わった地形を元に戻したと言われる程に強力で、強大な力を持った魔法使いであったと伝える記録もあるが、事実かどうかは不明である。
だが、それは歴史上に魔法という存在が現れた最初の出来事なのは確かであった。
彼女は魔法技術を各地に伝えた後、幻のように消えたと、とある歴史書にはそう書かれている。
更にいくつかの歴史書を紐解くと、また大崩壊が起きる可能性を始まりの魔法使いが示唆していたと、記述されている事が幾つもの記録から確認する事ができた。
各国は次に起こる大崩壊に備え力を蓄える必要が有った。
名前が示すとおり魔法学園アマテラスでは魔法技能を最重視しているが、実際の戦いとは魔法だけで勝てるわけでない。
武具や体の扱い方。とっさの判断力や精神力。そうした本当の戦闘力が評価の対象になっていない事は散々議論されてきた。
未だ評価対象にされてはいない事を考えれば、権力者の思惑があるのかと邪推してしまいがちだが、実際には戦闘力と言う曖昧な能力は何を標準として評価すればいいのかが分からない事に起因していた。
例えば魔法技能には難易度が設けられており、設定された難易度の魔法を使えるかどうか、と言う基準が存在する。
しかし、戦闘には相性が存在し、接近戦では負けたことが無い戦士と、遠距離からの攻撃ならば世界一を自負する魔法使いが戦った場合、条件によってその勝敗は左右されてしまう。
相性が悪い相手と戦えば本来の実力が出すことは出来ないし、逆もまたありえるのだ。
そうした問題が提起され議論が度々起こるが、結局結論には至らずに保留されるという堂々巡りが何度も行われた結果、業を煮やした一部の生徒は成績に反映されない序列を決める大会を自主的に作ってしまった。
それはカミシロ祭と呼ばれ、年に一度だけ、全校生徒を対象に秋に行われている。(非公式であると言うのが学園運営側からの発表ではあるが、予定されている日が”たまたま”休みとなっているのは偶然かどうかは分からない)
始まりの魔法使いであるハヅキ・カミシロから名前を取ったこの大会は、自己申告でありながら毎年多くの生徒が参加し、己の実力を示す場として学園の伝統行事になっていた。カミシロ祭で好成績を納めれば注目が集まり、卒業後の進路先に困ることが無くなると言われており、自らの実力を示す場としては絶好の機会なのは間違いない。
そして、十夜の眼の前に居る生田清志郎と言う生徒は第一学年Dクラスでありながらカミシロ祭に参加し、並み居る強豪を打ち負かし、総合二十五位、学年七位と言う好成績を納めた実力者である。
清志郎は地属性魔法を補助として使用する事もあるが、基本的には近接戦が得意な典型的なパワーファイターである。その筋肉質な体は決して見掛けではなく、自らの身長を超すような巨大な剣を自在に扱う事が出来るだけの力量と技量は確かなものだ。
  質量の大きな武器と言うのは扱いを間違えれば、体ごと流されてしまい、上手く使えない事があるが、体重を乗った的確な剣捌きは流石とさえ言える。
「おらっ!」
薙ぎ払う様に振るわれた大剣を十夜はギリギリの所で受け流す。手が痺れ剣を落としそうになるが、ギリギリの所でなんとか耐えていた。
土属性の魔法に高い適性を持ち戦闘力だけなら学年トップレベルであるが、Dクラスに居るのは座学の成績と魔法技能の未熟さ故である。
脳筋と言ってしまえばそれまでであるが、模擬戦をする事になった場合、Dクラス、Eクラスでは敵うはずもなく、暴力的であるという本人の性質もあり、はっきり言って質が悪い。
「くそっ!」
座学の授業が終わり、実践訓練の時間になると二人一組を作るように言われ、ペアを組む相手が居ない十夜はあっさりと清志郎に捕まった。
嫌な顔をしながらも、授業に参加しなければ、授業での点数を減らされてしまうため、十夜には戦わないと言う選択肢は存在しなかった。
開始の合図とともに自慢の大剣を振り回す清志郎に、なんとか喰らい付けているのは清志郎が魔法を使っていないからである。
苛烈とも言える重たい攻めを、隙を突くように小回りの効いた片手剣で流し受け、その隙をチクチクと攻撃する事でなんとか凌いでいる、といった状態だ。
とは言え、いつまでも受けに回っていても一方的な展開にしかならないと、仕切り直しを図りたい十夜だったが、距離を取ろうとしても簡単に詰められてしまう。
本来、実践訓練とは座学で覚えた魔法を実戦形式で試し合う事が目的であって、清志郎が大剣を使うだけで、未だ魔法を使っていないのは、ただ十夜を痛みつけたいと言う単純な動機によるものだ。
清志郎が遊んているうちになんとかしたいと思う十夜だっが、地の力では拮抗するので精一杯だった。
「そろそろ飽きてきたな……」
そう呟くと同時に清志郎の体から魔力の奔流が起こる。
身体強化魔法。単純に強化魔法とも呼ばれる魔法はその名の通り、全身に魔力を張り巡らせて身体能力を底上げする魔法である。
強化された体は、素の状態との間に感覚的な差が存在し、急激な能力向上に感覚がついていけずに自爆するなんてのは、魔法使いの中では良くある笑い話である。
白兵戦に特化した魔法使いである清志郎にそんな事があるはずもなく、強化された体を十二分に使い、重たい筈の大剣を軽々と振り回す。
十夜もなけなしの強化魔法で対抗しようとするが、同じ理論に基づく強化魔法でも効果の差は歴然だった。
十夜と清志郎の場合、魔法を使う為に用意出来る魔力量が圧倒的に異なる。魔力路に欠陥のある十夜は自らのか細い魔力路になんとかと魔力を注ぎ発現しているが、清志郎は太い魔力路になみなみと魔力を流す事ができる。同じ強化魔法とは言えその差は大きく、一方的な展開にならざるを得ない。
それでも、魔法使いの絞りカスの様な十夜が、純粋なパワーファイターである清志郎の猛攻をある程度とは言え、なんとか耐えられているのは十夜の技量と防御に専念してるからだった。
「ちょこまかと……うるせえええええええっ!」
魔法強化の出力を最大にして振るわれた攻撃に、十夜の剣は簡単に弾かれバランスを崩してしまった。
剣を手放さずにすんだものの剣を構える時間などあるはずもなく、体勢を崩さスキだらけになった十夜の体に、遠心力を利用した清志郎の拳がめり込む。元々体格からして違う十夜の体はあっさりと持ち上がり壁にぶつかるまで地面を何度もバウンドするように転がった。
「ブグッ」
情けない声をもらしながら壁にぶつかると、衝撃に耐えられなかった十夜はあっさりと意識を手放した。
当時から残っている貴重な歴史書を紐解くと共通する項目がいくつかある。
まず、魔獣の大群が人々を襲ったという事。
次に、同時期に起きた大地震の影響で各地が混乱しており、他国と連携が出来ず人類が滅亡するかもしれないと言う危機に瀕していたという事。
そして、そんな世界の危機を救ったのは、始まりの魔法使いと呼ばれる一人の少女だったという事である。
記録によって部分的に差異があるものの、この三項目は殆ど全ての記録に残されていた。
少女がどこから現れたのかは定かではなく、また容姿や性格など素性に関する情報の中にも信頼できる文献がないが、ただ確かに存在したという事だけは伺い知る事が出来る。
だが、少女がどうやって世界を救ったのかは記録が残されていない。
一説には少女の使う魔法は魔獣の大群を消滅させ、地震で変わった地形を元に戻したと言われる程に強力で、強大な力を持った魔法使いであったと伝える記録もあるが、事実かどうかは不明である。
だが、それは歴史上に魔法という存在が現れた最初の出来事なのは確かであった。
彼女は魔法技術を各地に伝えた後、幻のように消えたと、とある歴史書にはそう書かれている。
更にいくつかの歴史書を紐解くと、また大崩壊が起きる可能性を始まりの魔法使いが示唆していたと、記述されている事が幾つもの記録から確認する事ができた。
各国は次に起こる大崩壊に備え力を蓄える必要が有った。
名前が示すとおり魔法学園アマテラスでは魔法技能を最重視しているが、実際の戦いとは魔法だけで勝てるわけでない。
武具や体の扱い方。とっさの判断力や精神力。そうした本当の戦闘力が評価の対象になっていない事は散々議論されてきた。
未だ評価対象にされてはいない事を考えれば、権力者の思惑があるのかと邪推してしまいがちだが、実際には戦闘力と言う曖昧な能力は何を標準として評価すればいいのかが分からない事に起因していた。
例えば魔法技能には難易度が設けられており、設定された難易度の魔法を使えるかどうか、と言う基準が存在する。
しかし、戦闘には相性が存在し、接近戦では負けたことが無い戦士と、遠距離からの攻撃ならば世界一を自負する魔法使いが戦った場合、条件によってその勝敗は左右されてしまう。
相性が悪い相手と戦えば本来の実力が出すことは出来ないし、逆もまたありえるのだ。
そうした問題が提起され議論が度々起こるが、結局結論には至らずに保留されるという堂々巡りが何度も行われた結果、業を煮やした一部の生徒は成績に反映されない序列を決める大会を自主的に作ってしまった。
それはカミシロ祭と呼ばれ、年に一度だけ、全校生徒を対象に秋に行われている。(非公式であると言うのが学園運営側からの発表ではあるが、予定されている日が”たまたま”休みとなっているのは偶然かどうかは分からない)
始まりの魔法使いであるハヅキ・カミシロから名前を取ったこの大会は、自己申告でありながら毎年多くの生徒が参加し、己の実力を示す場として学園の伝統行事になっていた。カミシロ祭で好成績を納めれば注目が集まり、卒業後の進路先に困ることが無くなると言われており、自らの実力を示す場としては絶好の機会なのは間違いない。
そして、十夜の眼の前に居る生田清志郎と言う生徒は第一学年Dクラスでありながらカミシロ祭に参加し、並み居る強豪を打ち負かし、総合二十五位、学年七位と言う好成績を納めた実力者である。
清志郎は地属性魔法を補助として使用する事もあるが、基本的には近接戦が得意な典型的なパワーファイターである。その筋肉質な体は決して見掛けではなく、自らの身長を超すような巨大な剣を自在に扱う事が出来るだけの力量と技量は確かなものだ。
  質量の大きな武器と言うのは扱いを間違えれば、体ごと流されてしまい、上手く使えない事があるが、体重を乗った的確な剣捌きは流石とさえ言える。
「おらっ!」
薙ぎ払う様に振るわれた大剣を十夜はギリギリの所で受け流す。手が痺れ剣を落としそうになるが、ギリギリの所でなんとか耐えていた。
土属性の魔法に高い適性を持ち戦闘力だけなら学年トップレベルであるが、Dクラスに居るのは座学の成績と魔法技能の未熟さ故である。
脳筋と言ってしまえばそれまでであるが、模擬戦をする事になった場合、Dクラス、Eクラスでは敵うはずもなく、暴力的であるという本人の性質もあり、はっきり言って質が悪い。
「くそっ!」
座学の授業が終わり、実践訓練の時間になると二人一組を作るように言われ、ペアを組む相手が居ない十夜はあっさりと清志郎に捕まった。
嫌な顔をしながらも、授業に参加しなければ、授業での点数を減らされてしまうため、十夜には戦わないと言う選択肢は存在しなかった。
開始の合図とともに自慢の大剣を振り回す清志郎に、なんとか喰らい付けているのは清志郎が魔法を使っていないからである。
苛烈とも言える重たい攻めを、隙を突くように小回りの効いた片手剣で流し受け、その隙をチクチクと攻撃する事でなんとか凌いでいる、といった状態だ。
とは言え、いつまでも受けに回っていても一方的な展開にしかならないと、仕切り直しを図りたい十夜だったが、距離を取ろうとしても簡単に詰められてしまう。
本来、実践訓練とは座学で覚えた魔法を実戦形式で試し合う事が目的であって、清志郎が大剣を使うだけで、未だ魔法を使っていないのは、ただ十夜を痛みつけたいと言う単純な動機によるものだ。
清志郎が遊んているうちになんとかしたいと思う十夜だっが、地の力では拮抗するので精一杯だった。
「そろそろ飽きてきたな……」
そう呟くと同時に清志郎の体から魔力の奔流が起こる。
身体強化魔法。単純に強化魔法とも呼ばれる魔法はその名の通り、全身に魔力を張り巡らせて身体能力を底上げする魔法である。
強化された体は、素の状態との間に感覚的な差が存在し、急激な能力向上に感覚がついていけずに自爆するなんてのは、魔法使いの中では良くある笑い話である。
白兵戦に特化した魔法使いである清志郎にそんな事があるはずもなく、強化された体を十二分に使い、重たい筈の大剣を軽々と振り回す。
十夜もなけなしの強化魔法で対抗しようとするが、同じ理論に基づく強化魔法でも効果の差は歴然だった。
十夜と清志郎の場合、魔法を使う為に用意出来る魔力量が圧倒的に異なる。魔力路に欠陥のある十夜は自らのか細い魔力路になんとかと魔力を注ぎ発現しているが、清志郎は太い魔力路になみなみと魔力を流す事ができる。同じ強化魔法とは言えその差は大きく、一方的な展開にならざるを得ない。
それでも、魔法使いの絞りカスの様な十夜が、純粋なパワーファイターである清志郎の猛攻をある程度とは言え、なんとか耐えられているのは十夜の技量と防御に専念してるからだった。
「ちょこまかと……うるせえええええええっ!」
魔法強化の出力を最大にして振るわれた攻撃に、十夜の剣は簡単に弾かれバランスを崩してしまった。
剣を手放さずにすんだものの剣を構える時間などあるはずもなく、体勢を崩さスキだらけになった十夜の体に、遠心力を利用した清志郎の拳がめり込む。元々体格からして違う十夜の体はあっさりと持ち上がり壁にぶつかるまで地面を何度もバウンドするように転がった。
「ブグッ」
情けない声をもらしながら壁にぶつかると、衝撃に耐えられなかった十夜はあっさりと意識を手放した。
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