In defense of you

嘉禄(かろく)

Eternal moment

俺たちは今、涼が生まれ育った島にいる。
日本と北の国が半分に領土を分け合うこの島は、昔から様々な戦いやテロに使われてきた。
俺たちがここに今いる理由は、数日前に一嶋さんから任務が下ったからだ。


「島を根城にしているテロ組織を殲滅してきてください、情報を抜き取るのも忘れないように。」


…と。
かつてここは涼が所属していた暗殺組織の本拠地だった。
俺たちが卒業する時、それにあたってミッションを与えられて送り込まれたのもこの地だ。
涼によって壊滅させられたはずの組織が復活し、その時建設中だった高層ビル通称「バベルの塔」に立てこもった。目的は、『世界の仮初めの平和に対して矛盾を突き付け、その平和に甘んじている人々の目を覚まさせる』というもの。
ここで俺と涼、それから後輩たちはそれを止めるために死闘を繰り広げた。
途中で涼を奪われて、再会できて生きていたと嬉しく思ったら記憶操作されてて俺のことを忘れてて、戻すのに骨が折れたけど…それも今や懐かしい思い出だ。

そんな風に感傷に浸っていたらビルの近くに到着した。


「確か、そこまで優れた厄介な組織ではないんだよね?」
「そうだな、だが人数だけはやたら多い。
気を抜くなよ、いつき。」
「勿論だよ、涼も油断しないでね。」
「誰に言ってるんだ、当たり前だろ。
上の階に敵は集まってる、下の階に用はないからスルーしろ。…行くぞ。」


涼が先に潜入したので、俺は警戒しつつ中に進んだ。
あの時と同じく、先にエレベーターをジャックして乗り込んだ。
あの時と違って大した組織じゃないし、涼もいる。
だからといって油断する訳じゃないけど…背中を任せられる安心感は別物だった。

最上階の手前でエレベーターが止まり、もうすぐドアが開く。
俺らの行動はエレベーターに乗った時点で筒抜け、だからドアが開ききった瞬間蜂の巣状態になる。
さて、お手並み拝見といきますか。

ドアが開いた瞬間俺たちはエレベーターを飛び出して銃を構えた。
聞いていた通り、数だけは多い。
けど、今の俺たちの敵じゃない。
的確に急所を捉え、このフロアは制圧完了した。
上の階にはボスとその側近がいる…いくら大したことない組織とはいえ、今の雑魚とは一緒にしない方が身のためだろう。

階段を上がり物陰から様子を伺うと、全員武装して俺たちが来るのを今かと待っている。
かなりの武力は有してるみたいだ、終わったら全て押収しないと。
涼と目だけで合図し、呼吸を合わせて銃を撃ちながら飛び込んだ。
相手が一拍遅れて気づき、その場は銃撃戦になる。
相手はボスを含めて七人、対してこっちは二人。
数では不利だけど、戦力では負けてないはず。
部下をあと一人というところまで追い詰めたところで、俺はボスに背後を取られた。
腐っても頭領か、こいつだけは骨がありそう。
ここは肉を切らせて骨を断つとしようか。
そう思った俺は、涼に何もするなと合図をして相手の腹に肘打ちを食らわせた。
おかげで銃弾一発首と肩の間に食らったけど、予想の範囲内だ。
拘束を振りほどいた俺はよろけた相手に銃を向けて三発撃ち込んだ。
綺麗に弧を描いて相手は倒れて二度と動かなかった。

そんな俺に涼が近寄って傷に布をあてて止血してくれた。


「ったく、何もするなって合図された時点でこうなるだろうとは思ったが…掠った場所が悪いぞお前。」
「しょうがないでしょ、捕らわれたのは俺の落ち度だからどうせどっかは傷ついたし意識あるだけマシ。
ほら、情報抜き取ってさっさと帰ろう。」


それから情報を抜き取り武器を押収してビルを出た途端に俺の足から力が抜けた。
それを見て慌てた素ぶりも見せず涼が俺を支えて抱え上げそのまま歩く。


「どうせこうなると思ったよ、無理しやがって。」
「ごめんて、今度なんかお詫びするからさ…。」
「いらない、さっさと本調子取り戻せばそれでいい。」


ぶっきらぼうにそう言うと、涼は船が待つ場所まで俺を抱えたまま歩いていく。
そこで俺は何となく涼に聞いてみたかったことを問いかけた。


「…ねぇ、涼。
俺たちが卒業ミッションを終えて卒業して、ここで再会した時に交わした言葉覚えてる?」
「当たり前だ、忘れる訳ないだろ。俺とお前で叶える理想だぞ?」


その返事を聞いて俺は微笑んだ。
そうだよね、忘れる訳ないよね。


『この世界から戦いが無くなるまで
俺たちは戦い続ける、悠久の時の中で』



「その他」の人気作品

コメント

コメントを書く