不本意ながら電波ちゃんの親友枠ってのになりまして

いわなが すみ

10.金曜日の朝

相変わらず杏の母親のご飯は美味しい。ハンバーグカレーだなんてなんて豪華な夕飯なんだろうと杏は宗助とかみしめながら完食した。

「ごちそうさまでした。叔母さんのご飯は世界一だね。俺が保障する!」

宗助はニコニコしながら杏の母である友里を褒めた。友里も満足そうに美味しく食べてくれる子がいてくれるとうれしいわと言って後片付けを始めた。

「杏、お弁当箱出しなさい。明日は宗助くんにも作ろうか?お弁当」
「そこまでしてもらうのは…」
「あらやだ、なに遠慮してるの?宗ちゃんは昔からお行儀いいんだから。明日から毎日杏に宗助くんのお弁当持たせちゃうわよ」
「お行儀いいって…」

杏がお弁当をスクールバックから取り出していると、友里が宗助に向かってニヤニヤしながら詰め寄っていた。これも友里の気を使いすぎるくらいの甥にもっと頼って欲しいとの思いからだった。宗助の父親の妹である友里は兄が他界した後、母親とあまり上手くいっていない宗助を心配していた。その思いを感じ取っているのか杏も宗助に懐き、よくこうして遊び行ったり、連れてきたりしてくれる。

「お母さん明日は金曜日だし、また宗助に泊まってもらえばいいんだよ。お弁当持って帰ってきてお泊まり。宗助さんやい、ついでに宿泊オリエンテーションのパッキング手伝って!」

杏が甘えたようにそう言うと、宗助が少しほっとしたように杏の頭を撫でた。それを見た友里もまた明日の夕食に宗助の好物であるクリームシチューを作ることに決めた。

「さ、2人とも22時回ってるわよ。お風呂入って寝ちゃいなさい!」

お喋りしていた二人に声をかけて、友里は明日のお弁当の下ごしらえを始める。本当は宗助が家で暮らせればどんなに良かったか。こればっかりはそう簡単に行かないものである。宗助はあれでも母を慕っているように友里には見えたし、宗助はもう高校3年で自分で決められる年でもある。ただ、進路相談などをこっそり友里にでもしてくれたら良いと思う。大学生になっても、社会人になってもこの家が宗助の第2第3の家になってくれるとうれしい。

考え事をしているうちにお弁当のおかずが2つ3つと増えてしまい、明日のお弁当は少し豪華になりそうだった。





朝、目覚ましとともに起き、顔を洗ってから制服に袖を通す。杏の長い髪の毛はいつも下ろしたままで、不器用な杏にできるのはポニーテールと三つ編みくらいだ。リビングに下りると友里がいつものように朝食をよそっており、テレビからは朝のニュースが聞こえてきた。友里に宗助を起こしてくるように頼まれたので、杏はノリノリで寝起きドッキリごっこをして宗助を起こした。ふてくされる宗助を横目にご飯を食べた杏は、宗助よりも早く家を出ようと立ち上がった。すると宗助が杏の腕をつかんでさっきのお返ししてあげると杏を洗面所まで引きずっていった。

「あら、杏可愛いじゃない。宗助くんは本当に器用ねー」

どんなひどいことをされるのかひやひやしていた杏は、気が付くと日焼け止めとベビーパウダーをはたかれ、宗助の潤いリップを塗られたと思うと、ストレートアイロンでウェーブを付け、サイドの髪の毛を編み込みカチューシャのようにまとめられていた。

「すっげ」

鏡に映る杏はどこからどう見ても杏なのだが、女子力が普段の2倍くらいになった。杏の高校は制服を改造したり着崩したりしなければ頭髪については割と緩いので、これくらいのおしゃれは許されている。杏が鏡を凝視している間に宗助も髪の毛をセンター分けにセット完了していた。杏は詳しくわからないが今はやりのアップバングスタイルってやつらしい。

「それでは行ってきまーす」

なぜか二人で家をでた杏と宗助は駅前までは一緒に行くことにした。

「叔母さんの押しは絶妙だよなー」
「そりゃ私のママだから」

宗助の顔はどこか嬉しそうで、右手に持ったお弁当を見ながら楽しそうに歩いている。いっそのことうちに住んでしまえばいいのにと杏は思った。それから雑談しているうちに駅に近づき、杏たちの高校の生徒がちらほらと見えだした。目立つ宗助はじゃあと言って足早に駅へと向かって行った。

「あ、宗助!髪の毛ありがとう、行ってらっしゃい」

杏は宗助の後ろ姿にそう声をかけた。振り返った宗助は満面の笑みでどういたしましてと手を振った。杏は別に宗助とこのまま学校までデートしても良かったのだが、自分の評判で杏の評価まで落ちるのが嫌そうな宗助に合わせている。杏にとっては頼りになる仕方ない兄である。

「杏、おはよう」
「おはよう」

杏が駅の改札を通っていつもの後ろ端の乗車口に到着すると、黒瀬と嶋が杏のことを待っていた。どうしたのかと思い声をかけると、来週月曜日の宿泊オリエンテーションの話をしたくて待っていたと嶋が肩を落とした。

「とうとう来週だよ宿オリ。俺行きたくないんだけど」
「あきらめろ大輝、俺たちは行かなきゃならないんだ。栗山にどんなに付きまとわれて振り回されても」
「それは司だけだろ」

黒瀬も嶋も不安しかないようだ。話し合いをしようにも桃華がいることによって進まないということが何度もあり、当日も何かしら面倒なことが起こるのではないかというのが、3人の予想である。

お助けキャラや攻略キャラの話ですっかり忘れていたが、集団生活で栗山桃華という人間はクソほど自分勝手なのである。しかも天然で本人に悪気はないので、同じグループとしてとても手を焼いている。の割には他人からは桃華ちゃんのグループは仲が良くて上手くいって良いねと、わけのわからない解釈をされるのである。桃華がいなければもっと円滑に進んでいた。

「杏おっはー」

3人で電車を待ちながらため息をついてると、やっと本来の待ち人がやってきた。

「あー遅いぞ由夏」
「もううるさいな大輝は」

大きな胸を揺らして杏に抱き着いてきた由夏は杏の幼馴染2号であり、黒瀬とは小3から、由夏は小5から、嶋は中1からの友人だ。高校では別のクラスになってしまったが、杏の本来の親友は由夏なのである。

「なんかー、みんな朝から暗くない?今日金曜日だよ?給料日前?っていうか杏の髪の毛今日可愛いね。自分でやったの?」
「まさか!私にんな器用なことできるわけないでしょ。いとこがきてたからやってくれたの」
「へー可愛いね!」

やっぱり女子は違うなと杏は思った。慌てて嶋と黒瀬が俺も今言おうと思ってたとか、可愛いと思うとかフォローを入れてくるので、杏は由夏と2人で笑った。

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